恋衣

@heart_drop_980

初恋

 私は恋愛においては比較的波乱万丈な人生を送ってきたと思う。

 初恋は小学4年生で当時仲の良かった、覚知くん。

 運動神経抜群で、面白い子だった。勉強は苦手だったが。


 私は小学校では比較的勉強ができたほうだったので、勉強が苦手な子と席を近づけられることは多く、必然的に覚知くんと話す機会も多かったように思う。今思い返せば勉強を教えるため席を近づけるたびに心臓がドキドキ…なんてことはなく、小学4年生らしくただ一緒に話したりするのが好きなだけだったのだと思う。全く、恋と好きは紛らわしいものだ。

 

そんな勘違いをしていた私は、あくる日の覚知くんからのある言葉にショックを受けることになる。

「俺、若槻さんのことが好きなんだよね。でも俺、話しかける勇気がないから優衣(私)若槻さんとの会話取り持ってよ。」

 後半の言い回しはきっと違ったと思う。けれど私の初恋はこうして幕を閉じる…はずだった。本来であればそうだ。これは遠回しに振られたも同然なのだから。だけれど私は諦めることができずどうしてか、“隣のクラスの話したこともない若槻さん”と仲良くなれば、覚知くんは若槻さんのことより“自分のために頑張った私”を好きになってくれるのでは?と思ったのだ。

見事な恋の一方通行である。

 それから私は、小学4年生の持ちえる知恵をフル活用して若槻さんの好きな食べ物好きなアーティスト、苦手なものや得意なことをだいたい調べ上げ、それらを事細かに覚知くんに教えた。そうして私は若槻さんともある程度話すようになった。あくまである程度、である。そうしてどうにか覚知くんの役に立っていた私だが、結果から言えば夢見ていたようなことはなかった。当たり前である。頭も若槻さんの方が良いし、若槻さんはピアノも引ける。運動もできる。それなのに覚知くんが私を選ぶ理由など片鱗もないのである。

 そうして今度こそ私の初恋は終わったのかと思いきや、実はまだ一つやらかしたことがある。私の父の会社の都合で引っ越しが決まったことだ。それにより私はこのボロボロに打ちのめされた恋心をせめて最後に伝えておこうと思ったのである。覚知くんからすればひき逃げのようなものだ。言う側はスッキリするものだが、言われた側からすれば何よりも動揺が勝つだろう。お別れ会が終わって放課後、人も減った頃に私はラブレターを渡してバイバイと帰路につき、そのまま引っ越したのだから。


 こうして私の初恋は本当に幕を閉じた。

 これほどドラマの様な一方通行はもう懲り懲りだと思う反面、また経験したいと思う私がいるのも事実だ。あれほど刺激的な恋をした小学4年生は他にいないと自負しているほどに。

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