B.B.C.C.-Big Buddha Construction Company-
〇鴉
0.日常業務
土埃が舞い、瓦礫が重なる、荒れ果てた地表にて、数十台の重機が集まり、轟音を響かせている。
とうの昔に何もかもを壊され、消されたその場所で、胡坐をかいた巨神像が、今まさに建設されていた。
「あと少しで完成だ。今回は納期に間に合いそうだぞ」
「ああ……長かったな。“連中”の妨害さえなきゃとっくに終わってたんだがな……」
「あいつらも焦ってんだろうさ。“ダイブツ“が増えることに」
“ダイブツ”という名称の、巨人の像が胡座をかく台座の下で、二人の男が話している。
どちらも土埃と鉄粉に汚れた作業着と、凹凸の激しいヘルメットを身に着けていた。
作業着とヘルメットには、彼らが所属する組織“B.B.C.C.”のイニシャルが刻印されていた。
「これで何体目だっけ?」
「えっと、待てよ……確か
「はぇー、億も建ててんのかよ。すげーな……なのにオレらが入った頃で、残ってたのは全部で百数体とか、ほんとふざけてんなぁ」
「なんせ、『56億7600万体の“ダイブツ”が建てられたとき、この世界に救いの手が差し伸べられる』らしいからな。“救われちゃ困る連中”が必死になって潰しに来るのも当然だろ」
「やれやれ……こんなに全部ボロボロにしちまって、何が楽しいんだかなぁ。オレにゃさっぱり分からんよ」
「ホントになぁ……毎日浴びるように真水が飲める日が待ち遠しいぜ」
男達はそれぞれに愚痴をこぼして、盛大に溜息をつく。
やがて“ダイブツ”の周囲に組まれた足場の、遥か上から自分達を呼ぶ声がして、二人は休憩から作業に戻っていった。
災害、戦争、天変地異――
人の世に完全な安寧などなく、歴史や時代の節目や変わり目、或いは何ということのない日々の合間にと、人々は事ある毎に“苦難”と対峙してきた。
己の手には到底負えない事象を相手に、憔悴しきった人々には、祈り、縋る対象が必要だった。
それが、かつて“ホトケ”と呼ばれていた、高位なる存在を模った巨大建造物――“ダイブツ”と呼ばれる巨神像なのだと伝えられてきた。
今となっては遥か昔。
あちこちで少しずつ“凶事”が積み重なり、やがて大規模な“苦難”に取り込まれたこの世界は、様々な
人の手に負えないものに追い立てられた人々は、やがて人の手の内でも潰し合うようになり、住む場所を、食料を、水を、安寧を、悉く失った。
荒れ果てた世界で、人々は急激に数を減らしていき、僅かな生き残りの末裔を残して、地上から姿を消してしまった。
地上に残ったのは、それまで“苦難“として怖れられていた災害、天変地異、人の間に蓄積された負のエネルギーの類が、いつしか具現化して姿形を得た、“クナン”と呼ばれる九体の怪物だけだった。
九体の怪物は、まるで世界が再生されることを阻むかのように、不定期に現れては、荒れきった世界を更に壊していた。
完全なる滅亡を待つばかりの世界で、あるとき、とある組織が起ち上げられた。
B.B.C.C.――Big Buddha Construction Company.
かつては木造の巨大建築だったものの下から発掘された、古い経典を経営理念としたその組織は、今日まで世界のあちこちに“ダイブツ”を建て続けてきた。
遥か昔と同じく、今もかろうじて生き延びている人々の拠り所になるように。
創立から千を超す年月が経った今に至るまで、建造した“ダイブツ”は何度も、何体も、クナンに破壊されてきた。
それでも彼らは、ただひたすらに“ダイブツ”を造り続ける。
経典の破れかけた頁に記されていた、『56億7400万の■■■■後に救■が訪■る』の一文を、拠り所として。
滅亡に抗う世界には、今日も重機の駆動音と建設の音が鳴り響く――
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