男装女子になる瞬間

第1話

泉吹才恵（いぶきさえ）はいじめにより人生を終幕させようとした。

海に、海に来たのだ。

学校をサボり、海に。

いじめにより髪を切られてしまった自分を見たくなくて、空を見た。

泉吹才恵は折り紙が好きだ。

いらない紙をよく紙飛行機にしていた。

海に紙飛行機を投げた。

少し飛んで、海に消えた。

泉吹才恵は思った。

「怖い。私はあの紙のようには溶けられない。なんて臆病」

波打ち際でうずくまり泣いた。

そんな時、頭が暖かいような気がした。

そして、脳に誰かの声がする。

「死ねないなら、お前は生きたいんだろう」

「ならば生きなさい。自分を見つめ直しなさい」

「俺が見せてやる、面白い運命を」

ハッとして顔を上げ水面を見た。

そこには、短髪の自分。

でも何故だろう、これでいいと思った。

「そうだ。新しい私で生きよう。そして泉吹才恵を捨てて、なるんだ、泉吹才に」

泉吹才恵が苦しいのならば、捨ててしまえばいい。

何故だろう、短髪になってしまった事をあんなに嘆き、苦しんだのに、今は良い転機だったと思う。

自分を見つめ直すとはこの事か。

泉吹才恵は、いや、 泉吹才（いぶきさい）は決意した。

泉吹才になる事を。