第九話「兄妹の決別」

 朝、あたしとセサミ、それからオルフは三兄弟に別れの挨拶をしていた。

「お世話になりました」

「泊めてくれてありがとう」

「なぞなぞ楽しかったよ!」

 あたし達の言葉に対し、ファイラ、フィドリ、プラクルは笑顔で応じる。

「別にいいさこれくらい」

「ぼくたちも結構楽しかったし」

「また一緒になぞなぞしようね」

「じゃあそろそろ――」

 お暇しましょう、と続ける前に背後から声が飛んできた。

「見つけたぞオルフ!」

 振り返ると獣の耳が生えた男の人が立っていた。顔立ちがどことなくオルフに似ている。この人はもしかして――

「お兄ちゃん!?」

 オルフが驚いた様子で叫ぶ。やはり彼女のお兄さんだったようだ。

「どうして――」

「ほら帰るぞ。テメェ等、オルフを無理矢理連れ去りやがって。痛い目に遭わせてやるから覚悟しとけよ!」

 何か誤解が起きているようだ。すぐにセサミが否定する。

「そんなことしてないよ」

「認めねぇ気か。まずはテメェからだ!」

 どうやら聞く耳を持っていないらしい。このままだとセサミが危ない。

「ちょっと待ちなさいよ!」

「うるせぇ!」

「もうやめてよ!ぼくのせいで誰かが傷つくのは見たくない!!」

 オルフが力強く叫んだ。男の人は一瞬動揺した顔をするもすぐに怒鳴る。

「なんで止めるんだよ!?」

「家には帰らない。ぼくは美遥さん達と一緒に行く」

「な、何言ってんだオルフ」

 余程想定外だったのか、彼は慌てた様子で口にした。対するオルフは冷たい視線と口調で彼に言う。

「気安く呼ばないで。あなたとは縁を切る。さよなら、ロルフさん」

「お、おい待て。話を――」

「さぁ、行きましょう」

「う、うん」

 あたしとセサミはそれに従うしかなかった。

 三兄弟の家をあとにして数分後、あたしは無言で前を歩くオルフに尋ねた。

「あれで良かったの?」

「良いんです。これで彼はきっと悪いことを止めるはずですから」

 彼女はまだ怒りが収まっていないのか、力強く言った。

 いくらなんでもそれが本音と違うことくらいはわかる。このままで良いわけがない。

「……ちょっと忘れ物したから待ってて」

「えっ?じゃあ一緒に――」

「わかった。オルフ、ここで待ってよう」

 一緒に戻ろうとしたオルフをセサミが止めた。ナイスよ、セサミ。

「わかりました……」

 あたしは来た道を駆け足で引き返す。確かロルフさんと言ったかしら。まだあそこにいると良いんだけど。

 彼は三兄弟の家の近くでうずくまっていた。迷うことなく声をかける。

「あの、ロルフさん」

「なんだよ」

 顔を上げた彼はあたしを睨んだ。それに怯むことなく本題をぶつける。

「彼女、言ってました。『ぼくが強くなれば優しい兄に戻ってくれるかもしれない』って」

「オルフが?」

 その言葉にロルフさんは目を丸くした。

「あのさ」

 不意に真横からファイラの声がした。何か言いたいことがあるらしい。

「おれ長男だからわかるんだよ。必要以上に心配する気持ち。でもさ、おれたちが思っている以上に大人なんだよ。フィドリは頭良いし、プラクルは丈夫な家作るし」

 どうやら兄同士で通ずるものがあったようだ。あたしは一人っ子だからよくわからないけれど、長男のファイラが言うとどこか説得力がある。

「……そうかもしれねぇな」

 ロルフさんは立ち上がると、頭を下げてきた。

「おまえ等さ、いろいろと悪かった」

「彼女達、少し行った先で待たせてあるんです。一緒に行きますか?」

 尋ねると、彼は首を横に振った。

「やめとく。今はまだ合わせる顔がねぇ」

「そうですか。では」

 あたしは改めて彼等に別れを告げ、セサミ達の待つ場所へ向かった。

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