第七話「オルフの兄」
突如とおせんぼして来たファイラ、フィドリ、プラクルの三兄弟。彼等の出したなぞなぞに正解したあたし達は道を通ることを許された。
あたしは空を見上げた後、セサミとオルフに尋ねた。
「さて、これからどうする?もう夕方だけど」
「どこかホテルとかある?」
「ほてる……?」
セサミの問いかけにオルフは首を傾げた。どうやら初めて聞く単語だったらしい。それはつまりこの世界にホテルが無いということを意味する。
「無いようね。じゃあ野宿しましょ」
「おい待てよ」
呼び止めて来たのはファイラだった。
「まだ何かあるの!?」
「セサミ、ちゃんと話聞きましょ」
警戒しているセサミを咎める。次に口を開いたのはフィドリだ。
「困ってるならぼくらの家に泊めてあげないこともないけど?」
「兄さんたち素直じゃないなぁ。おいらは歓迎するよ!」
プラクルの言葉にファイラとフィドリは気まずそうに視線を逸らした。どうやら図星らしい。
つまり彼等の家に泊めさせて貰えるということだろう。お言葉に甘えようかしら。そう思った矢先、オルフが申し訳なさそうに言った。
「あ、あの、ぼくは遠慮します」
「えっ、なんで?」
セサミが驚く。あたしも同じ思いだった。オルフはおどおどしながら理由を明かす。
「だってぼく、人狼だし……」
人狼。人間と狼のハーフということだろう。猫か犬だと思っていたけど、狼だったのね。
「人狼だと?」
その言葉にファイラが反応した。
「そんなやつこっちからお断りだ!」
「同意するよ、兄さん」
彼の言葉にフィドリも同調する。不思議に思ったあたしは躊躇なく尋ねた。
「どうして?彼女が何かしたって言うの?」
「実は、ちょっと前に兄さんたちの家が人狼に壊されちゃったんだ。だから――」
「おいプラクル!」
「そんなことをしたら嫌われて当然です」
プラクルの明かした事実にオルフは肯定も否定もしない。けれどもあたしには彼女がやったようには到底思えなかった。プラクルに確かめる。
「ちょっと待ちなさい。それ、本当にオルフがやったの?」
「ううん。その人狼は男だったよ。だからお姉さんはちがうよ」
「じゃあオルフは何も悪くないじゃないか」
セサミの言葉に頷く。同じ人狼だからといってオルフが気に病む必要は無い。
けれどもオルフは首を横に振った。
「いいえ、ぼくのせいです。ぼくが弱いからお兄ちゃんがそんなことを……」
「お兄ちゃん?」
「はい。ぼくには兄がいるんです。とても気の強くて暴れん坊の兄が。ぼくが以前あなた達のなぞなぞに答えられなかった話をしたから兄が仕返しとして家を壊したんだと思います。ですから妹であるぼくの責任でもあります」
「だからって……」
「わかった」
事情は理解した。だったらあたしはこの選択をするわ。
「オルフが遠慮するって言うならあたしもそうする」
「主が言うならボクだって!」
セサミが叫ぶ。まぁ、こうなるわよね……
「わかったよ!」
ファイラがやけになった様子で怒鳴った。
「三人まとめて泊めてやる!」
「……そうだね。夜は危険だし一晩くらいなら」
フィドリも渋々ながら同意する。これで反対意見は無くなった。プラクルが嬉しそうに言う。
「やったね、お姉さんたち!」
セサミがファイラとフィドリに言う。
「キミ達意外と優しいね」
「『意外と』は余計だ!」
「あくまでも仕方なくだからね」
二人は怒ったような照れ隠しのような様子で口にした。
「優しいんだかそうじゃないんだか……」
素直じゃないってなかなか難しいわね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます