第三話「お茶会へご招待」

「わかったの?」

 ラウビィが聞いてくる。表情を見るに驚かせてしまったようだ。反省しなきゃね。

 そんなことを思いつつ彼に解き方を教える。

「これね、まずローマ字に変換するの。その後逆から読む。すると答えは――」

「町の公園だ!」

 あたしの言葉を遮るようにセサミが叫んだ。答え自体は自力で辿り着いたようね。

「正解」

 そう告げるとセサミは一層嬉しそうな顔をした。怒ったり興奮したり、笑顔になったり。猫の姿ではあまり表情が読み取れないだけになんだか新鮮だ。

「そういうことだったのか」

 ラウビィは納得したように頷くと、顔を上げて微笑みかけてきた。

「ありがとう。お礼に君達もお茶会に来ない?」

「いいの?」

「もちろん」

「じゃあお言葉に甘えて――」

「待ってセサミ」

 向こうの提案に乗ろうとしたセサミに待ったをかける。あたし達にはやることがあるのだ。

「あたし達は黄色い道を進まないと」

 それが妖精さんから貰った問題の答え。途中で道を外れるわけにはいかない。

 そう思っているとラウビィが問題無いと言いたげに口を開いた。

「ご心配なく。町はこの道の先にあるんだ」

「そうなの?じゃあ早速行きましょう」

 ほんの少しの寄り道なら問題ないだろう。大きく道を外れなければ。

「僕が案内するよ」

「うん、お願い」

 セサミの言葉にあたしも小さく頷く。ラウビィは心得たとばかりに大きく頷いて見せた。

「そういえば君達、どうやってここに来たの?」

 町に入ってすぐ、ラウビィがふと思い出したように尋ねてきた。

「それがよくわからなくて。目が覚めたら森の中にいたの。セサミはどう?」

「それがさ、ボクも覚えてないんだよね」

 あたしが目覚めた時既に起きていたセサミなら何か知っているのではないかと思ったのだけれど、あいにく彼も記憶が無いらしい。

「そうなんだ。あ、もしかして君の名前、アリスだったりする?」

 何故か彼は妙なことを聞いてきた。すぐに否定する。

「違うけど」

「それならますます不思議だね」

「どういうこと?」

 ラウビィの言葉に疑問を抱いたらしくセサミが尋ねた。言われた当人であるあたしも同じ気持ちだ。

「あぁ、それはこっちの話だから気にしないで」

 彼は軽く誤魔化した。なんか怪しい。

 けれども何故か強く問い詰める気は起こらなかった。

 それから少ししてラウビィは足を止めた。連鎖的にあたしとセサミも立ち止まる。

「あっ、着いたよ」

 草原の上に並ぶ木製のベンチとブランコや滑り台といったいくつかの遊具。そこは確かに『公園』と呼べる場所だった。

 奥の方へ進むと屋根のある場所があって、そこの椅子に一人の女の子が座っていた。彼女の前にあるテーブルにはティーセットやお菓子がある。ここがお茶会の行われる場所で間違いないだろう。

 こちらに気づいた女の子は明らかに怒った様子でやって来た。

「ラウビィおそーい!」

「ごめんメイシェッタ」

 メイシェッタ。確か招待状に書いてあった名前だ。

「もしかしてこの子がさっきの暗号を?」

 見た感じセサミよりも幼い。彼女があの問題を考えるなんてにわかに信じ難い。そう思っていると突然質問が飛んできた。

「ねぇ、お姉さんのお名前ってアリス?」

「違うけど」

 驚きつつもラウビィの時と同様すぐに否定する。それを聞いた彼女は首を傾げた。

「あれぇ?絶対そうだと思ったのに」

「ちょっとメイシェッタ」

「えへへ、ごめんなさーい」

 また間違えられた。この世界どうなってるのかしら。

「とりあえずお茶会へようこそ!早速お茶はいかが?」

「ぜひ貰うよ!ずっと歩きっぱなしで喉カラカラなんだ」

 すぐにセサミが言った。確かにここまで水分を一度も摂っていない。機会があるなら補給しておくべきだろう。

「あたしも貰っていい?」

「もちろん。じゃあねぇ――」

 メイシェッタは机の方に戻ると何かを準備し始めた。少しして手招きされる。

「この三つの中から自分が飲みたいものを当ててみて!」

 そう言って彼女が手で示したのは三つのカップだった。左から薄紫、水色、ピンクと並んでいて、上にはカードが置かれている。

「中身はミルクティー、レモンティー、ストレートティーのどれか。その内少なくともミルクティーが入ったカップのカードには嘘が書いてあるよ~」

「まさかのクイズ形式……」

「やったぁ!」

「セサミ……」

 喜ぶセサミにあたしは呆れ返ってしまった。

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