私の教育係についた先生によって、半強制的に新しい人生を歩むことになりました

桜桃

第1話

 ────劣等生。


 この言葉は、あまり耳にはしたくない。

 でも、私はよく耳にしてしまう。


 だって私は、私が通う魔法学校の中で、劣等生が集まると言われている”F組”に所属しているから──……


 ※


 一年F組に所属しているのは、私含め五人。

 みんな、私と同じで魔法を自由に扱う事が出来ない。


 いや、扱う事出来ないわけではない。

 魔法は出せる――――私以外の人達は。


「はぁぁぁ…………」


「どうしたの、リヒト」


 今は授業中。でも、何故か先生が来ないから各々やりたい事をやっていた。


 後ろの席の人と話したり、一人で本を読んでいたり。

 私達は普通に友人であれレイナと話していた。


 レイナはモデルみたいに綺麗な生徒。

 黒い髪が腰まで長くて、すごく艶やか。肌も潤っててプルプル。

 スタイルも良く、どこぞのモデルより綺麗に見えてしまう。羨ましいなぁ。


 今も私と話しながらネイルをしている。 

 今日はスカイブルーだ、鮮やかだなぁ。


 それに比べて私は……はぁ。

 黒髪は同じなのに、まとまりのない天パなんだよなぁ、私。


 今は後ろで一つにまとめて、何とか跳ねないようにしている。

 それでも、跳ねてしまうけど……。


「それにしても、先生遅いね」


「そんなこと言ってるけどさぁ、リヒト。あんた、先生が時間通りに来たとしても、授業をまともに聞く気ないじゃん」


「だって、先生もまともに授業をする気がないじゃん。私達、劣等生には興味ないんだよ」


「そうだよねぇ。態度に思いっきり出てるし。あんなの、こっちのやる気まで削がれるっつーの。元々ないけど」


 F組を担当する先生は、今まで何人も変わってきた。

 もう三、四人は変わっていたはず。興味無いから覚えてないけど。


 何故、そんなに先生が変わっているかというと、これは私の予想。


 私達の授業態度についていけないからか、才能が無いから育てても無駄だと思っているからか。


 まぁ、んだろうなって思ってる


 先生の態度も、レイナが言った通りわかりやすい。



 めんどくさい、やりたくない。

 育てても意味はない、なんで私がこんな生徒を相手にしないといけない。



 こんな感情を向けられながらの授業で、誰が真面目に受けるかってーの。


 そんな事を思いながらレイナと話していると、教室の扉が開かれた。


 そこには、眼鏡をかけたおっさん教頭と、もう一人。

 見覚えのない男の人が立っていた。


 おっさん教頭が私達の態度を見て大きく舌打ちをすると、教卓へと向かう。

 遅れないように後ろに男の人もついて行く。


 あの人が、ここの新しい担任なのだろうか。

 また、すぐにやめるんだろうなぁ。気が弱そうだし。


「ゴッホン!! えぇ、今日から新しい担任になってくれるナギサ・シイナ先生だ」


 教卓の前まで移動したおっさん教頭が、隣に立っている男の先生を指しながら名前を教えてくれた。


 へぇ、ナギサ・シイナ先生かぁ。


 銀髪は肩までの長さ、優しい笑みを浮かべ私達を見ている。

 黒いスーツはしっかりと着こなし、ネクタイもきゅっと締めている。


 見た目は真面目そうなお兄さん。

 でも、ここで真面目に授業をしようなんて思わないだろうし、どうせすぐにやめる。


 いなくなる人の名前を覚えるのも疲れたし、今回は覚えなくてもいいかな……。


「――――っ、?」


 あ、あれ?

 なんか、シイナ先生、私の事、見てな……い?


 じぃっと、こちらを向くシイナ先生。

 え、な、なに。な、んで、私を、見ているの?


 何も口にしないシイナ先生を肘でつついたおっさん教頭が自己紹介するようにと促している。


 そのおかげで、シイナ先生は私から顔を逸らした。

 なんだったんだろう……。


「――――初めまして。私が今日から貴方達の担任になるナギサ・シイナです。気楽にナギサ先生とお呼びください」


 執事のように一礼すると、おっさん教頭がいなくなり残された新人教師が俺達の方に振り返った。


 …………なんか、あの新人教師、私達を見ても特に驚いた表情もしないし、変化がない。

 いつでもニヤニヤしていて、なんか気持ち悪い。


「では、さっそく授業を始めたいと思います。なので、すぐに自分の席に座ってください」


 さっそく仕切り始めた。

 でも、レイナは私の隣から動く気ないみたいだし、他の人もまた雑談を始める。


 私も特に興味ないし、寝ようかなぁ。普通に眠いし。


「おやおや、これは前担任が辞めたがるのも仕方がありませんねぇ~」


 あ、もう諦めた感じかな。

 まぁ、諦めたのならそれで――――


「でしたら、仕方ありませんね。では、無理やりにでも授業を受けさせましょうか」


「…………え?」


 な、なに?

 先生、なんか、雰囲気、変わった?


 私達を見る先生の瞳、今初めてしっかりと見た。

 深緑色――――目が離せない。


「――――光ある植物ピアンタ・ルーチェ


 ――――っ、え、魔法?


「――――え、足に蔓が!?」


「わ、私の足にも!!」


 あ、私とレイナだけじゃない。

 他の正とも皆、蔓によって拘束されている。


 F組は今、簡単に言えば阿鼻叫喚。

 至る所から蔓が現れ、私達生徒を拘束していく!!


「な、何が起きているの!?」


 新人教師を見ると、笑顔を浮かべ平然と私達を見上げている。

 そ、そんな顔を浮かべていないで助けてよ!!


「では、授業を始めましょうか」


 ……………………え、この状況で?


「おい!! っざけんな!! 早くこの蔓を外しやがれ!!」


 生徒の一人が怒り任せに喚き散らす。

 でも、新人教師は笑みを消さずに見上げるのみ。


「しっかりと許可は取りましたので。生徒に怪我をさせなければ何をしても良いと。では、授業を始めます」


 …………うわぁ、悪魔のような笑み。

 これからの学校生活、絶対に終わったじゃん……。


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