ラノベの主人公みたいになりたくて

下城米雪

第一話 非日常の始まり

01.プロローグ

 ラノベ主人公みたいになりたい。

 理由は、清楚な美少女とイチャイチャしたいからだ。


 普通に彼女が欲しいわけじゃない。

 誰かと付き合ったとか、別れたとか、デートしたとか、ヤッたとか……それは何か違うというか……一言で表現するならば、重たい愛が欲しい。


 使命とか宿命とか、なんかそんな感じの闇を抱えていて欲しい。それを二人で一緒に乗り越えたい。これから先の未来、お互いが隣に居ないことは考えられない。君が隣に居るだけで幸せ……と、一般人が聞けば鼻で笑うような恋がしたい。


 共感が得たいとは思わない。

 ただ僕は、そういうラノベみたいな恋愛に憧れている。


 きっかけは分からない。

 気が付いた時には、強く憧れていた。


 そして、ついに、念願の主人公っぽいイベントが発生した。

 


 ──夕暮れ時の教室。

 部活に勤しむ運動部の声、吹奏楽部が奏でる音色。そして、黒髪ロングな美少女。


 昨夜、僕は非日常に巻き込まれた。

 それを良い感じに乗り越えて、今に至る。


「……あの」


 僕の声である。

 僕が、彼女に問いかけた。


「何かしら」


 彼女は返事をした。

 その声は、随分と低い位置から聞こえた。


「……何を、しているのでしょうか」


 僕は丁寧語で問いかけた。

 彼女は不思議そうな表情で返事をする。

 

「見れば分かるでしょう」

「……ごめん、分かんない」


 彼女は溜息を吐いた。

 

「誘惑しているの」

「……なぜ?」

「あなたを忠実な下僕にする為に」


 うん、良い。すごく主人公っぽいイベントだ。

 忠実な下僕とか、普通に生きてたら絶対に聞けない台詞だよ。


 でも、えっと、なんだろうね。

 違うんだよね。僕が求めているのは、こうじゃない。


 最近のラノベは「キャラ付け」が行き過ぎている。個性的なヒロインは確かに魅力的だけども……違う、そうじゃない。僕は清楚なヒロインが大好きなんだ。


「もう一度、聞くね。何をしているの?」


 彼女はジト目で僕を見た。

 まるで僕がおかしなことを言っているかのような表情だが、絶対に違うはずだ。


 彼女は今、がに股である。

 僕の足元で下品に股を広げ、どういうわけか僕の股間あたりに顔を近づけている。


「男の人は、こういうのが好きなのでしょう?」

「……ごめん、分かんない」

「噓を吐いても無駄。私はDLSite愛用者。こういうことには詳しいの」


 彼女はドヤ顔で言う。


「ちんかぎオナニーよ」


 ──彼女の名誉を守る為、ネタバレしておこう。

 彼女は決して痴女というわけではない。ただちょっと、残念なだけなのだ。それを説明するためには、少し長い話をする必要がある。

 

 これから始まるのは、ちょっとした非日常の話。

 ラノベ主人公に憧れている僕が、大変なことに巻き込まれ、それを美少女と一緒に乗り越えたお話である。

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