027 最高の仲間達だぜ!

「お、おい見てみろよ」

「おお、凄いな」

「確かに」


 翌日、アクアとミルフィと王都の道を歩いていたら周りがざわついていた。

 そういえばルナが、エルフ族はめずらしいと言っていたな。

 

 しかし周りも耳がピンと立っているだけでわかるのは凄い。

 流石、この世界の住人なだけある。


「イイ女連れて男1人かよ」

「ああ、クソいいなハーレムかよ」

「私もあんな耳になりたいー」


 いや違う。

 ただ可愛いだけだった。


 ちなみにブリジットさんはギルドに呼び出されていたので書き置きがあった。

 いつも忙しそうだ。


 夜景を見終わって戻った後は、不思議とぐっすり眠れた。

 目を覚ました後のご褒美はなかったが、なんだか懐かしい気持ちに浸れた。


 俺はもう疑っていない。

 きっと、旅をしていたんだろう。


「アクアはどんな魔法を使うにゃ?」

「基本的な魔法は一通り使えます。洗脳や魅了、呪いといった類は相性が悪いので出来ませんが」


 アクアの横顔を見ているとかなり整っていることが分かった。

 昨日は驚きが優っていたが、とんでもなく美人だ。


 クソ、過去の俺め……どんな良い事があったのだ……思い出してぇ……。


「――タビトさん?」

「え?」

「あ、いえ。お呼びかけしていたのですが、お返事がなかったもので」

「昔の事を考えていたんだ。俺たちは、どんな関係だったんだろうとな」


 嘘はついていない。嘘はな。


「そうですよね……私の記憶も凄く断片的なものだけなので何とも言えないですが、死の将軍と戦うくらいです。きっと関係は良好だったんじゃないでしょうか」

「はは、だと嬉しいな」


 最高だ。最高。


「でも、本当に旅をしてるだけで思い出せるのかな?」

「どうでしょうか。そのあたりは私もわかりません。記憶を戻す魔法もあると聞いたことはありますが、本当に実在するのかどうかはわかりません」

「それがあれば解決するんだがな。――っと、ここでストップだ。かなりいい所があったぜ」


【王都冒険者雑貨店】

 4.7★★★★☆(7147)


 A級冒険者

 ★★★★☆

 旅に出る前はいつもここで買物をする

 中でご飯も食べれる


 B級冒険者

 ★★★★☆

 携帯食からげぇむまで何でもある

 困ったらここ


 カルロ

 ★★★★☆

 ダンジョンに行く前によく行く

 子供たちがほしい遊び道具もある



 店内は俺たちが今まで入った店で一番大きかった。

 王都では革新的なイートインスペースみたいなものがあって、そこでカフェもあるらしい。


 ここへ来たのは、旅での必需品を購入することだ。

 ミルフィはいつも最低限しか持たないらしい。

 だが次の国へは海へ渡る船もあって、結構な準備がいる。


 きっと外で眠ることもあるだろう。

 テントがあれば最高だが、それは望めない。


「凄い、おっきいねえ」

「驚きました。こんなところがあったんですねえ」

「だな。そういえばアクアは何のために王都に来たんだ?」

「魔法を覚えるのが趣味なんです。魔導書探しのために来たんですが、ガイドブックの最後のタビトさんたちの写真を見て、って感じですね」


 魔導書は魔法の事が書かれている書物だ。

 複雑なものだったり、昔のものは文字で記載されている。

 言葉では言い表せない複雑なものは、今でもそうやって各地にあるらしい。


「そうか。なら後で魔導書が売ってそうないい店も知ってるから教えるよ」

「え、本当ですか!? えへへ、嬉しいです!」


 満面の笑みのアクア。

 こっちが素なんだろう。


 俺もフィギュアとか集めていたことがあるので気持ちはわかる。


「さて衣服と、後は火を起こす時の木材とかも買っておくか」

「そうだね。できるだけ多いほうがいいかも」

「食料もできるだけ多めにしておこう。獲物がない時も考えて」

「わかったにゃ!」


 それから俺たちは、木棚から色々と必要なものを手にって籠に入れる。


「これも買っておくにゃ!」

「おっけいだ」


「ミルフィ、これ欲しいな……」

「いらないにゃ」


 まるで、カップルのように。

 そして気づけば山盛りだ。

 だがそれを見ていたアクアが、眉間にしわを寄せていた。


「流石に買いすぎて引いてないか?」

「え? あ、いえ違いますよ!? その、いつも馬車で移動しているんですか? どうやってこの荷物を抱えるのかなと」


 そういえば旅行鞄の事を説明していなかった。

 後で教えようと伝えて購入したあと、食堂コーナーへ移動。


 王都はやっぱりミルクパンが有名なので、飲み物も頼んで席に座る。


「凄い、このパン柔らかいにゃあ」

「ああ、もっと早く来ればよかったな」

「美味しいですね!」


 モチモチでやわらか、中にはたっぷり生クリームが使われている。

 片手間に大量の荷物を旅行鞄に入れていく。


 それを見ていたアクアが、パンを机の上にポトリと落した。


「何をしてるのですか」

「ああ、これは便利な鞄でな。ほら、中を見てくれ」

「……く、空間魔法!? こんな小さな袋の中にですか!?」

「ああ、っても構造はわからな――」

「見せてもらえますか!? 凄い……中に亜空間があるんだ。でもこれは魔術原理はどうなってるんだろう……」


 アクアはミルクパンそっちのけで興味津々だった。

 魔法本を集めていると言っていたが、どうやら俺が想像してたよりも魔法が好きらしい。


 短い旅だったとしてもこうやってワイワイしてたのだろうか。

 やっぱり変な意味ではなく思い出したい。

 きっと楽しい思い出がいっぱいあったはずだ。


「前の時もこうやってみんなで話してたのかな」


 その時、ミルフィがぼそりと言った。

 まったく俺と同じことを考えているらしい。


「かもな」

「凄い、この魔術って、もしかして鞄の中に――」


  ◇


 買い物を終えて帰り道、クチコミが良かったのでスイーツを食べながら歩いていた。

 アクアはすっかりご満悦だ。


「このチョコ美味しいですね」

「もう食べられなくなるのは残念にゃー」

「だな。でもいつでも戻ってきたらいいさ。忘れたのか?」

「あ、そっか!」

「それに次の国からは商人としても活動してみよう。物価や人気の物を調べて、情報がまとまったら買い付けたらいい」

「それも楽しみだねえ。ふふふ、いっぱい稼ぐにゃ」


 そのやり取りをしていると、またもやアクアが首をかしげていた。

 そういえばフリーピンやエリアピンの話もしていない。


「ええとなアクア――」


 そのとき、兵士が慌ただしかった。

 まるで以前のネームドの討伐のように。


 何事かと思っていると、ブリジットさんが現れた。

 かなり急いでいるらしい。


「ブリジットさん、どうしたんですか」

「――タビトか。緊急事態だ」

「何があったんですか?」

「以前、ネームド討伐で訪れた川があるだろう。そこの近くで乗り合いの馬車が襲われた。子供の一人が奴隷商人に攫われたそうだ」


 その言葉で、ミルフィの顔色が変わった。


「私は今すぐ向かう」

「私も行きます」

「ありがたい。だが急ぐ。遅れるなよ」


 俺は急いでマップを確認する。

 フリーピンの回収は既に終わっている。


 問題ない。


「刺しました。俺も行きます」

「刺す? どういうことだ?」

「説明してる暇はありません。手を握ってください」

「何を言っているんだ?」

「ブリジットさん、タビトの手を握って」

「……わかった」


 そして俺は、急いでクリックした。


【10秒後に移動します。戦闘状態になった場合は、強制的に解除されます】


「私も行きます。そんな酷いこと、見過ごせませんから」

「アクア。――わかった。ミルフィと手を繋いでくれ。早く」

「え? わかりました」


 そして次の瞬間、視界が切り替わった。


 目の前には川。

 突然の光景に、ブリジットさんとアクアが声を上げた。


「どういうことだ……なぜここに」

「転移……魔法!? それも複数人で!? ……ありえない」

「説明は後だ。まず馬車を――」

「タビト、この車輪の後、新しいよ!!」


 少し離れた先で、ミルフィが既にしゃがみ込んでいた。

 ブリジットさんが急いで続き、馬車の跡から王都のものではないと断言する。


「後で説明は聞く。急ぐぞ」


 そして俺たちは駆けた。

 馬車に追いつくなんて無茶かもしれない。

 だがその時、アクアが。


「――足が速くなる魔法ファストムーブ。かなりの魔力の全部注ぎ込みました。これなら馬車よりも早いはずです。しかし、終わった後はめちゃくちゃ疲れますので覚悟してください」


 ハッ、流石――元仲間だな!


 進んでいくと、ガイドマップで馬車を見つけた。

 俺は、思い切り叫ぶ。


「この先だ。近いぞ!」

「――ミルフィ、行くぞ」

「はいにゃ」


 すると二人が、恐ろしい速度を上げる。

 俺とアクアも付いていくが、凄まじい。


 そしてようやく馬車が見えた。

 

 するとブリジットさんが走りながら剣を構えていた。

 ガイドマップでは、中に人がいる。

 おそらく子供だ。


「――空斬撃エアリアルブレード


 ブリジットさんが走りながら剣を振る。ぐんぐんと風が伸びていく。

 それは車輪にぶち当たり、次の瞬間、思い切り崩れた。


 まるで分解されたかのように車がはじけ飛ぶ。


 そのとき、ミルフィが跳躍、荷台から空中に飛んだ子供を掴んだ。


 まるで曲芸だ。

 彼女は着地すると、無事だと声を上げた。


 しかしまだ終わっていない。

 奴隷商人たちと思われる男が四人いた。


 それぞれが怪我をしていたが、既に剣を構えていた。

 血はかなり出ているが、アドレナリンで痛みを感じていないのだろう。


「クソ、なんだお前ら」

「ぶっころせ!」


 だがお前より、俺のが出てるんだよ。


 ――このクソどもが。


「お前ら殺すにゃ」

「ああ、だな」


 するとブリジットさんとミルフィが、前に出た。

 そのまま瞬殺。


 男たちは、悲鳴すら上げれなかったらしい。

 

 ……あっけねえ。


 だが俺は、1人が岩陰に隠れているのに気づいた。

 ゆっくりと歩いて、怯えた男を見つける。


「悪いな。俺のマップからは逃げられないぜ」

「ひ、ひいいい」


 そのまま頭をゴツン。

 これで任務完了だ。


 視線を戻すと、アクアが子供に治癒魔法を掛けていた。

 少し怪我をしたんだろう。


 以前ダンジョンパーティで一緒になったリアンさんも詠唱していたが、使える人は少ないとも聞いている。

 移動魔法も施した後、残り少ないであろう魔力でも迅速に行動している所を見ると、アクアの優秀さがわかった。


 ああなるほど、俺たちは本当にいい仲間だったのだ。


「少しだけ怪我をしていましたが、これで問題ありません」

「ありがとうアクア」

「いえ、それより教えてください。……さっきの転移能力、凄すぎですよ」


 そしてもちろん帰りのエリアピンも驚いてたのは言うまでもない。



 ミルフィ

 ★★★★★

 子供が助かってよかったにゃあ

 アクアの移動魔法もブリジットさんも凄い。

 頼りになる仲間だにゃあ!


 ブリジット

 ★★★★★

 転移魔法に強化移動魔法

 まったく優秀な仲間達・・・だ。


 アクア

 ★★★★★

 凄いなあ。

 私って、こんな格好いい人たちと一緒にいたんだ。

 嬉しいな。


 タビト

 ★★★★★

 みんな凄すぎる

 本当に俺が死の将軍を倒したのか疑うレベルだ。

 けどま、最高の仲間達と一緒にいた自分を褒めたいぜ。



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