010 夜の【クチコミ】最新情報

【夜のイメージ冒険者クラブ】

 3.5★★★☆☆(1573)


 一般王都民

 ★★★★☆

 ゴブリンオークから姫を助けることができました

 オキニの嬢の演技がいつも自然で素敵です

 気分はS級冒険者で退店


 D級冒険者

 ★★★☆☆

 ダンジョン内部にそっくりな部屋がいくつかあります。

 正義の勇者、悪党冒険者、事前の丁寧なカウンセリングが◎

 いつかは勇者ハーレムコースに挑戦してみたいです。



 ああでもない、こうでもないと頭を悩ませていた。


 クチコミをチェックしているのは、羽を外して遊びたいという邪な気持ちからじゃない。

 元の自分の情報が転がっていないか、ミルフィの猫人族の事が書かれていないか詳しくチェックしているのだ。


 むしろスケベなやつらが多くてけしからん。


 ただ……なかなか星が高いのがないな。


 そのとき、とても綺麗でタイプ・・・なお姉さんが声をかけてくれた。

 何か情報を知っている可能性があるかもしれない。


「お兄さんかっこいいわね。遊びませんか?」


 たゆんたゆんたゆん、スタイルもばぐつん。

 これは知っている可能性があるかもしれない。


「どこのお店なんですか?」

「ここよ、凄く良い・・お店よ」


 上を見上げる。クチコミをさりげなくチェックした。


撲殺天使エンジェルが集う美人クラブ】

 1.1★☆☆☆☆(4533)


 D級冒険者

 ★☆☆☆☆

 入口のお姉さんに声をかけられて入店

 マッサージ店だが右手でポンポンと手を置いてくれるだけ

 値段は金貨10枚だった


 C級冒険者

 ★☆☆☆☆

 なぜこの店がまだ王都にあるのかわからない

 一度入ったら退店はできず、身ぐるみをはがされた

 おそろしい逃げてくれ



「じゃあこっち――」

「す、すみません!」


 危ない所だ。

 クチコミがなければ即死だった。


 それからも俺は情報を探していた。


 なかなか見つかるわけがないのはわかっている。

 だが、やらねばならない時があるのだ。


 そしてついに――見つけたのだ。


【大人の秘密クラブ】

 4.7★★★★★(478)


 A級冒険者

 ★★★★★

 王都で息抜きをしたいならここ

 受付も丁寧でみんなが幸せそうに働いている

 福利厚生もしっかりしているらしく、離職率も低いらしい

 サービス◎ 接客◎ 

 特にルイちゃんが素晴らしい


 伯爵家の長男

 ★★★★★

 大人の嗜み

 素晴らしい手捌き

 何よりも会話をしてい楽しい

 ルイちゃんと話してると癒される


 子爵家の次男

 ★★★★★

 いつものルイちゃんご指名

 最高の笑顔で迎えてくれた

 これが、大人の嗜み



 気づけば俺の足は動いていた。

 淀みなく、まるで戦闘時のようだ。


 頭もすっきりと冴えている。不思議と興奮はしていない。

 足元が光っているみたいだ。軌跡が俺を誘導した。


「あら、お兄さん初めま――」

「入ります。ルイさんはご指名できますか」

「あら、ルイね。いつもは人気でいないけど、ちょうど・・・・キャンセルがあって空いてるみたいよ」

「マジっすか!?」


 頭の中でファンファーレが鳴り響く。


 神を愛し、神に愛された男、空前絶後のタビトの入店だ。


 店内は薄暗いが、蜂蜜のような良い匂いがする。

 こういった五感を刺激してくれるのは大事だ。


 嗅覚に鋭い猫人族がいる可能性もあるだろう。


 そのまま受付のお姉さんからお着替えセットをもらった。

 モフモフで肌触りのいいバスローブ。

 これで更に猫人族がいる可能性が上がった。


 個室に入ると、クイーンサイズのベッドが一つ。


 なるほど、元の身体の俺がここで休んでいた可能性もある。


 そういえば金額の話はしていなかった。

 まいい、懐に余裕はある。いや、あるか? まあいい。


 そのとき、着替えをすませたのがわかったのか、外から華憐な声がする。


「お客様、お着替えは済みましたか? お入りしてもいいでしょうか」


 丁寧な物言いだ。思わず頬が緩む。

 やはり、この店に何か手がかりがあるはずだ。


 俺は、いつもより少し低い声で答える。


「ああ、構わない」


 カーテンから現れたのは、マジでとんでもない美人だった。

 透き通るような白い髪、美しすぎる目鼻立ち、白い肌、スラリと長い手足。


「こんばんは」

「コココココココ、こんばんは」

「ふふふ、じゃあになってもらえますか」


 ニワトリみたいな声が出てしまったが、怪我の功名で笑ってもらえた。

 しかしこれが噂のルイちゃん。やはりとんでもない。


 俺はそのまま横になる。ルイちゃんが、ゆっくりと腰に触れた。

 重要な事は何も聞いていない。


 だが何でもいい。きっと、手掛かりはあるのだから。


「じゃあ、と同じでいきますね」

「え、前って――」


 ――グガギエガワガガゲゲエ。


 次の瞬間、俺の腰が砕ける音が聞こえた。

 次に手、足、首、急いで悶絶しながらクチコミを確認する。


「ぐがあっ、うう……があっ、うう……ああっ……」


 A級冒険者

 ★★★★★

 粉骨整体師のルイちゃんはとても力が強くて素晴らしい

 かなり痛いが、魔物との闘いで疲れた身体もほぐされました

 とはいえ、かなり痛いです。


 ……え?


「じゃあ、首に力入れてくださいね。じゃないと、骨、折れちゃいますからね」

「え、ちょ、ちょっとまって――」


 俺は、初めて自分の首が折れる音を聞いた。


「最ごおっああ、っ……あっ、ああああああああああ! イイイイイイィィィィィっ!」


 ――――

 ――

 ―


「は、はああ……はあはあ……」

「これでコースは終わりです。お元気にしてましたか?」


 ようやくマッサージを終えた。俺は、急いで尋ねる。


「あ、あの! ええと、前の俺ってどういうことですか?」

「え? 前に一度いらしてましたよね?」

「いつぐらいですか?」

「どうでしょう。一年ほど前くらいでしょうか」


 まさかだった。

 俺は、自身が記憶喪失になったと伝えた。

 ルイは少し疑っていたが、まあそんなこともあるかと最後は信用してくれた。


「そうですね。以前は寡黙でした。私が力を入れても声一つ挙げませんでした。最後に「ありがとうございました」といって、お礼もくださいました」

「な、何と……」


 とんでもない紳士タフネス野郎だ。

 この夜の街に訪れてその振る舞い、以前の俺はマジで神かもしれねえ。


 だが残念ながら手がかりらしいものはなかった。

 ふらりと立ち寄ってくれただけで、それ以上は何もないという。


 不思議とか体も軽くなっていた。

 首の骨も大丈夫だ。


 そして次に猫人族の事を尋ねた。


 この仕事は多くの人と触れ合うという。


「獣人さんはいらっしゃいますが、猫人族は聞いたことありませんね。お力に慣れなくて申し訳ないです……」

「あ、いやいや!? すまんな、仕事中に」

「いえいえお気になさらず。それに敬語はなしで構いませんよ」


 とびきりの笑顔のルイ。

 確かにいい子だ。

 見たところ若いが、なぜこんな夜中に働いているんだろうか。


「その、言いたくなかったらいいんだが、ルイはどうしてここで働いてるんだ?」

「私ですか? うふふ、こうやって人とお話をするのが好きなんですよ。後は、単純にお金ですね。学費が必要なので」

「え!? 学生なのか?」

「そうですよ。見えませんか?」

「あ、いや、そういうわけじゃ!?」

「周りはエッチなお店が多いのでたまに勘違いされたりするんですけど、人に喜んでもらえるのが嬉しいので」

「わかります。僕もエッチなお店には興味がなく、冒険者一筋でやらせてもらっています。記憶はありませんが」

「ふふふ、おもしろいですね。タビトさん」


 それから少し話してから時間が来たので退店。


「種族に詳しい先生がいるので、聞いておきますよ。わかり次第、ギルドを通して連絡すればいいですか?」

「……なんか、ありがとう(本当に勘違いしてごめん)」

「楽しかったので、お礼なんて大丈夫ですよ」

「ありがとうありがとう(邪な気持ちがあってごめんごめんなさい)」


 帰り際、夜空を眺めていた。

 ルナとの出会いは良かった。


 だが情報収集と言いながら欲望に負けていた自分と向き合っていたのだ。


 俺は煩悩に負けてしまっていた。


 そして宿の入口、まさかのミルフィが立っていた。

 驚いて立ち止まっていたら、こっちを見て――飛んでくる。


 凄まじい脚力だ。


 って――。


「タビト、どこいってたのにゃああああ!?」

「え、ええ!?」

「心配したんだよ!? 起きたらいないし!? 大丈夫なの!?」

「え、あ、ああ……ごめん」


 どうやら本当に心配してくれていたらしい。

 確かにそうだ。こんな危険な世界で夜起きていなかったら何かあったのかと思うだろう。

 ただでさえ俺は記憶喪失みたいなもんだ。


「記憶が戻ったの!?」

「いや、そうじゃなくて、その……夜お店を……調べたりとか……」

「夜? え? どういうこと?」


 流石に申し訳なさ過ぎたので全てを話した。

 ミルフィは少しだけ怒って、けど笑って安堵してくれた。


「何でもないなら良かったよ。それに、タビトも男の子だしね」

「……ごめん。でも、手掛かりもあったんだ。やっぱり俺はこの王都に来たことがあるらしい。これからも色々見て回るつもりだ。大人の店は、まあチェックだけにしておく」

「ふふふ、気を付かないでいいのににゃあ」

「ありがとな」


 ミルフィの頭を撫でる。

 猫人族の事もわかるかもしれないと伝えると、嬉しそうにまた笑った。


「ルイって言うんだが、凄くいい子だったんだ」

「ふーん、そうなんだ。タビト、その子のことが好きなの?」 

「え? いや、そういうわけじゃないよ。本当に」

「そっか。安心したにゃ!」

「安心ってどういう――」

「な、何でもないよ!? じゃあ、二度寝するにゃあね」


 この【異世界ガイドマップ】のおかげで最高の日々が過ごせている。

 もしこれがなければ森の中で死んでいたかもしれないし、ミルフィとも出会えなかった。

 もっと感謝しよう。


 けど何よりも、彼女に。


「ミルフィ、俺は煩悩を消すぜ」

「煩悩って?」

「信じてくれ」

「よくわからないけど、頑張ってね!」

「ああ」



 ミルフィ

 ★★★★☆

 朝起きたらタビトがいなくてびっくり

 でも、戻ってきてくれて安心!

 1人はもう嫌にゃ……


 タビト

 ★★★★☆

 新しい情報をゲットできたのはよかった

 けど、ミルフィを悲しませたのはダメだ。

 煩悩を消す、絶対消す、消すぞ


 ルイ

 ★★★★★

 以前来てくれたお兄さんがまた会いに来てくれた

 かっこいいなと思っていたけれど、今日は色々お話して癒された

 もっと骨、虐めたかったなー


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