第6話 連絡先

昼休み,柴田と後輩は中庭にいた.

「先輩.すいません.場所思いつかなくて.」

二人は,昨日の少し気まずい出来ことをなかったことにして会話をすることを選択した.


「……いや,大丈夫.うん」

柴田は,ベンチに座り謙虚につぶやいた.


「そうですか.それはそうと,先輩,可愛い後輩の連絡先は必要ありませんか?」

後輩は,すぐにベンチに座らずに,柴田の前に立ち,スマホを片手に,反対側に弁当を持って決めポーズをした.


「とりあえず,弁当,ベンチに置けば」


「……そこですか.まあ落としたら大変ですもんね.分かりました.」

後輩は,素直に柴田の言葉に従い,弁当をベンチの上に置いた.それから,ゆっくりと元の位置に戻り決めポーズをした.


「要らないです.」

柴田は,そのポーズや行動をスルーして,そう言って,弁当を開けた.


「ふっ,想定通りです,先輩がそう返答することは読めていました.私の6パーターンの想定の一つです.」

柴田は,想定してくるにしては,パターン少ないなと思いつつも,とりあえず後輩の顔が真面目そうなので,触れないことにした.


「そう.凄いですね.」

だから,柴田は適当に褒めた.


「先輩適当に喋ってますね.適当に喋るなら,ここで,泣きますよ.」


「辞めてよ……それで,連絡先でしょ.別に良いけど教えても.」

柴田は.別に連絡先を教えるぐらいは全然良いかなって思っていた.理由はいろいろあるが,伝言ゲーム形式で連絡が来る今のほうが大変だと思っていたのが大きいだろう.


「じゃあ,何で一回断ったんですか?先輩」

後輩は,少し距離を置いて柴田の隣に座った.無意識に昨日の出来事を意識していた.


「えっ,だって.また,チャンスがどうこう言うのかなって,ノリですかね.」


後輩は,柴田を見て固まった.

「そ,そんなことは無いですよ.……先輩でも,もう少しごねると思ってました.なんか素直ですね.」

図星だった.


「いや,素直っていうか.めんどうだなって」


「何がですか?私がですか?流石に性格重視っていう人間の発言ではないと思いますよ.」

柴田は,そこまで性格は悪くなった.


「いや,君は確かに言われてみれば面倒だけど.そう言うことじゃなくて.僕まで連絡来るめちゃくちゃ伝言ゲームじゃんないですか.」

正直,彼女単体が迷惑というよりも,それによって引きおこる二次被害などが面倒だと思っていた.もう,学校中に噂が駆け巡っていた.


「伝言ゲーム?何を言っているんですか?先輩.」

後輩は不思議そうに首を傾げた.


「いや,何を言っているのかっていうのは僕のセリフですよ.」

(じゃあ,わざとではないのか.まあ,そう言う事する人には今のところ思えなかったけど.)

柴田も,後輩の反応に少し首を傾げた.


「伝言ゲームって言っても.私,さくら,さくらのお兄さん,先輩でしょ,4人は伝言ですか?先輩?」


「うん?4人?」

柴田の認識とは違った.そもそも,自身の友人の妹が,後輩の友達であるという事実を知らなかった.


「僕の認識では,15人ぐらいですけど.そんな最短ルートがあるんですか?」

柴田は,箸を止めて固まった.何故か無駄に遠回りしているのか,全くもって理解できなかった.


「……待ってください.先輩.」


後輩は,柴田の様子を見て,何かを理解したのか,そういうとスマホを取り出して,操作をし始めた.しばらく熱心に操作してから,

「先輩.」

少し,小さく,申し訳なさそうな声を出した.


「何ですか?」


「ごめんなさい.私の友達のせいです.なんか遠回りになるようにしてたみたいです.」


「何で?」

柴田は,理解できなかった.何の意味があるのかと.それと同時に,大丈夫かよ,その友達とも思った.


「分からないです.でも,あの子,いたずら好きなんです.でも,良い子なんですよ.アドバイスもくれますし.」


「……アドバイザー変えれば?」

柴田は,思わずそんな本音が漏れた.


「……まあ,とりあえず連絡先を交換しましょう,先輩」

後輩は,手を二回たたいて話を変えた.柴田と後輩は連絡先を交換した.


連絡先を交換すると後輩は,黙って

『ありがとうございます,これでいつでも話せますね先輩.』

何故か,メッセージで会話を始めた.


『良かったね.』

柴田は,適当に返した.


『他人事ですね,先輩.お話しましょう,先輩』


『隣に座ってるから口で話せば良いじゃん.』

柴田は,正論を放った.


『でも,先輩も返答してくれますよね.ツンデレですか?先輩.それで,先輩質問です.趣味とかありますか.』


『ありません』

柴田は,そう打つとその文とも呼べない長さのものをコピーした.


『無いんですか?先輩.好きな食べ物はありますか?』

後輩は,凄まじい速度でさらに柴田に尋ねた.


『ありません』

柴田はペーストした.


『えっと,嫌いな食べ物はありますか?先輩』


『ありません』

柴田はペーストした.


後輩は,少し口を膨らませて,柴田のほうを睨みつけて

「適当に,喋ってますね.先輩,泣きますよ.」

そう声を上げた.


「コピペしてるが正解ですけどね,」

柴田は,小さく笑った.柴田は,少し楽しいと思い始めていた.


「適当じゃないですか.酷いですよ.可愛い後輩が泣きますよ.」


「はい,はい.やめてください泣かないでしょ.」

柴田は,そう言って弁当を食べるのを再開した.


「……泣きませんけど.まあ,良いですよ.後,もう一つ良いですか先輩.」

後輩は,少し不服そうな表情で,ちょっと不機嫌そうに,呟いた.


「何ですか?」


「真面目に答えてくださいよ,先輩趣味って何ですか?」

後輩は,少し真面目な表情で,柴田の目を見て尋ねた.


柴田は,それなりに空気が読めた,これはちゃんと答えたほうが良いかどうかの判断はそれなりに出来た.

「……読書と,後は夜空をボーっと見ることですかね.」


「分かりました.先輩.」

後輩は,何度か頷いてそう笑った.


「何が?」

柴田は首を傾げた.


「分かりました.ふふふ,分かりました.」

後輩は,不敵に笑い弁当を食べ始めた.


















__________________

おまけ

「何で,いろんな人に連絡を通してたの,さくら」


「それは,付き合ってるって噂が流れたら,その先輩さんが逃げれなくなるかなって,外堀から埋めた法が良いかなって.」


「要らないよ.そういう配慮.本当にもう,止めてよね.先輩,凄い困ってたから.」





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喋った事のない後輩に告白を断ったら何かグイグイくるようになった 岡 あこ @dennki

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