第4話 とある殺人 解決編
「さぁ、そろそろ解決編です」
ぴしっ、と指を立てて見せてからレジで支払いをして現場に戻る。先程の刺殺体の写真を見せながら、警察たちにも説明する。
「被害者は23歳、女性。この近所に住む大学生です。人当たりも良く、好かれていたとか」
なら、尚更調査線上に犯人が上がってこないだろう。
「まず、疑問点は5W1Hに当てていきましょう。何故、いつ、誰が、どこで、どうやって、何を、ですね」
頷いているのを確認して続ける。
「いつ、は4日前。死体の劣化具合から警察が判断しています。どこで、は出血量から考えてここでしょう。何を、は殺害」
依が口を開く。
「残るのは何故、つまり動機。誰が、犯人。そしてどうやって、薬の類いを使わずに暴れさせないで被害者を殺す方法、ですね」
こくん、と頷いて写真を拡大したものを指し示す。胸元に、複数の傷痕が見える。
「執拗に刺している様子から、動機は怨嗟ではないでしょうか? 事前に調べたところ、彼女は中々に強かだったようで」
言葉を切ってぴらり、と写真を3枚取り出す。
「この男たちは?」
柹藍が首を傾げる。所々、可愛らしいひとだ。
「彼女にボコボコにされた方々です」
紅を引かずとも色づいた唇をきゅっ、と持ち上げる。にこりと笑う、雪の瞳。その瞳は二重にも関わらず、切れ長で彼女の性格を映したようだ。
「ボコボコにされたというのは?」
不思議そうに警官の1人が尋ねた。被害者の印象とそぐわない言葉だったからだろう、困惑が他の警察からも見て取れる。
「彼女は人当たりが良く、容姿も整っている。そして正義感の強い人物だった。男の内、1人は彼女に執拗に付きまとって襲おうとした結果の返り討ち」
唇に人差し指を当てて、悪戯っぽく笑う。
「彼女、長年合気道をやっていたそうですよ。それも大会に出るほどの実力者とか」
ぶるっ、と何故か柹藍が震えている。彼の家は女性が強そうなので、既視感でも覚えたのだろうか。
「話を戻しましょう。彼女の友人に聞いたのですが、そのご友人や別の方が男性関係で困っていらしたら助けていたとか」
勿論、彼らもただでは離してくれない。それこそ、実力を見せつけねばならぬほどに。
「ここからは推察ですが、彼らは闇バイトの募集か何かしらで出会って━━━━或いは同じ大学ですし、普通に講義でしょうか。まぁ、そして被害者に怨みがあったことが発覚」
「そして、結託した?」
「おそらく」
少々、喋り疲れた。ペットボトルのアールグレイを飲んで、首に掛かった髪を払う。
「続けましょう。動機はこんなものだと思います。3人とも妙にプライドの高い男だそうですから。調査してみてください。次に、どうやって暴れさせずに殺した……いえ、殺せたのか」
「気絶させたのではないでしょうか?」
警官の1人が言う。
「長年合気道をやっていた彼女をそう簡単に気絶させられるとは思いません」
そもそも、と続ける。
「相当な実力者である彼女を正面から刺し殺したというのも怪しいですよ? 例え、速やかに急所を刺したとして数十秒意識はありますし」
依に問いかける。
「彼女が常に服用していた薬はありませんか?」
「降圧薬ですね。血圧が高かったようです」
納得、という表情の雪を見て柹藍は予想がついていたのだろうと思う。
「降圧薬を使うと、立つときに目眩が起こったり最悪気絶するという副作用があります。そこそこ強いですよね? その薬」
依も、ここでひとつ疑問を覚えたようだ。他の警官も少し首を捻っている。
「そう、いつ目眩や気絶が起こるかなんて犯人には分からないんです。でも、彼女がタクシーを使って夜にここに降りることは知っていた。だから止まったところを待ち伏せてタクシーが離れたことを確認して刺したのではないでしょうか」
ここでまた、アールグレイを一口飲む。
「もちろん、推測に過ぎません。ですが、調査をすれば判ることです。これは偶然が起こした不可解な事件であると」
綺麗に述べて、カードを揃えた。後は警察がやることであって私……否、我々探偵の仕事は推測を述べて捜査範囲を狭めること。
「先輩、本日はありがとうございました」
「別にいいよ」
いつも、苦笑いを浮かべて気まずそうにしながらも相手をしてくれる。優しい先輩。LI〇Eを既読スルーはするけど、本当に大事な時は返事をくれる。
「疲れましたので、抱っこしてください」
ばっ、と手を広げて見せるとすたすた無視して通り過ぎる。
「冗談ですので怒らないでくださいよー」
「怒ってないよ」
「ならいいんですけど」
やっぱり、一筋縄にはいかないひとだ。
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