49.遺跡内部の攻略
「さて、ここが遺跡の内部ってわけか……」
「これが、遺跡……?」
遺跡内部は、よくあるような石造りの通路が続いており、ところどころに部屋が設けられていたりもしていた。
大体は、それらの部屋の出入り口はがれきで埋もれたりして入れないようになっているんだけど、中には普通に部屋に入れたり、側に空いている穴から入り込めたりできる部屋もあったりして、なかなかに探索しごたえのある構造だった。
そして注目すべきは遺跡自体の材質。
これ――何というか、明らかにゲームのコンセプトというか、剣と魔法のファンタジーとはかけ離れたような作りになってるよね。
平べったい、のっぺりとした石のようなこの質感……これって、もしかしなくても――
「コンクリート、かな……?」
「どうなんだろう……?」
「旧ヴェグガニア皇国は、一世代前の文明に栄えた文明ですからね。私達でも理解の及ばない技術が使われているケースも多々あります。この工法については、おそらくですが土魔法によるものかと。現代でも、王城や砦、街などを囲む防壁などには使用されている工法です。今でもしっかりと形が残っているのは、状態保持の魔法によるものかと。残念ながらそのあたりは解明されてません」
「そなんだ……」
なんにしても、この遺跡内――いや、施設内?
どうにも設備が生きているのか、はたまた整備されて再び動くようにされているのかは知らないけれど、照明関連が生きていたり、ドアが近づくと自動で開いたりと、ファンタジーゲームをやっているはずなのにまるでそんな気にさせてくれない、とても現代チックな内装なのは確かだった。
とはいえ、サイファさんの言う話によれば、この遺跡自体が一世代前の文明の名残だという話。つまり、滅んだ古代文明から残り続けているオーパーツだということだから、それならそれでありなのかもしれないけど。
遠い時を超えてなお残り続ける、はるか昔の時代に栄えた文明の名残り。それを事件解決のために探索するっていうのは、ファンタジーRPGでも意外とよくあるケースだしね。
「しかし、こんなところを奴隷密売組織はどうにかして中に入り込める手段を見つけて、拠点にしていたのか……」
「重要な歴史的遺産だというのに、許せないわね……」
フィーナさんとアリスティナさんがポツリとそう呟けば、まったくその通りだとNPC陣営全員がそれに追従するかの如く頷く。
きっと、解明しきれていない技術の塊を、悪党たちにいいように扱われているのが許せないんだろうね。
このクエストが終わったら、今度は考古学者とかを連れてくるようなクエストとかも発生しそうな気がするのは私だけかな。
まぁ――そんなことはさておいて、だ。
今は目先の目標――クエストを片付けることに集中しないとね。
私達は入り口付近での内部構造に関する考察をそこそこにして切り上げて、本来の目的であるオリバー君救出クエスト攻略に向けて動き出すことにした。
さて――いよいよ奴隷密売組織が『月の拠点』と呼んでいるらしい、プレイヤー未踏破領域へと足を踏み入れるに至った私達。
しかし、さすがは闇の組織のアジトというだけあって、サイファさんと共有している【空間把握】にはかなりの数の敵が引っ掛かる。
その上厄介なのは、現代的な構造のダンジョンというのを手に取ったかのように配置された敵NPC。
ゴブリンやリザードマン、オクタウロスなどといったクリーチャー系とは違い、高性能なAIを組み込まれており、戦術面でも戦略面でも工夫をしてくる敵性AIは、この遺跡内部では今までにない複雑な戦術をもって私達を苦しめてきた。
まずは、その配置。
扉の向こうや通路の曲がり角の向こうに陣取って待ち構えている敵が多く、接敵からの開幕攻撃によって私達は着実に消耗していく。
問題なのはそれだけではなく、明らかに多彩な道具を使って着実に私達を攻め落としにかかってくるという点にも警戒が必要だった。
かくいう今回も、金属製の扉――リアルで言うところの防火扉みたいなもの――にさえぎられた向こうに、少なくない敵の数を認識。
構造的に、敵の先制攻撃を許さざるを得ない戦闘となってしまった。
「通路の先に2人。扉挟んでるし、こちら側に引く必要があるから不意打ちは免れなさそう」
「わかった。気をつけて扉を開ける」
ノアールさんの言葉に、マナさんが応える。
そして扉を開けた途端、少し離れたところから射かけられる矢の数々、投げ込まれる球状の何かに地属性の魔法。
「――――くっ、なんだこの煙玉は……」
幸いにも、扉を開けた直後の攻撃を受けないように工夫して開けたため、VTを減らすようなことはせずに済んだものの――球状の何かは煙玉だったらしく、導火線を火が辿っている状態からすでに黙々と煙が立ち上っていた。
作りこそ紐に球状の本体をくっつけた原始的なものだったけど、発煙効果は高いらしく、私達がいる室内は瞬く間に煙に覆われてしまった。
次第に視界がぼやけ始める。インジケーターを見てみれば、わかりやすく目のマークのデバフアイコン。これだけで、視界にまつわる状態異常なのはわかるけれど、そのマークは閉じた目から涙を流すという内容。
ステータス画面で詳しく見てみれば、それは『催涙状態』という状態異常だった。
『催涙:毒ガスの効果により、異常に涙が分泌されている状態。この状態では幻惑状態と同じく視界がぼやけてしまい、移動や探索、戦闘などに支障が生じるようになってしまう。
解毒ポーションなど解毒効果のあるアイテムやスキルを使用すると解除できる』
「この煙……テアルプラントですか、厄介な。この程度で私は止められないと知りなさい!」
投げ込まれた煙玉の正体を知っていたらしいサイファさんが、勇ましく声高らかにそう叫ぶ。
伊達に【空間把握】のスキルを持っているNPCというわけではないのだろう。
しかしながら、そのスキルを扱いこなせているのは現状では、サイファさんと、プレイヤー陣営ではノアールさん。
私もなんとなくならわかるようになってきているので、まぁ、敵の位置や動きくらいなら何とかわかるんだけど、攻撃されたらいくらパリィボーナスがあっても弾くなんて困難だ。
「お嬢様、リフレッシュポーションです」
はてさて、どうしたものかと思っていたら、横合いからスッと手が伸びてきて、同時にミリスさんの毛が聞こえてくる。
「ミリスさん。でも、このガスをどうにかしないと……」
「ご心配なく。それなりの時間しか持ちませんが、再度このガスによる催涙効果を防ぐ効果もあります」
え……そうか、リフレッシュポーションの『デバフ予防』効果か!
アイテム情報を見てみれば、私が作った形だけの『デバフ予防(短)』なんていうちゃちなものではなく、『デバフ予防III(長)』というすごく優良な効果だ。
「ありがとう。みんなにも配って! 私は前衛のみんなに渡してくる!」
「かしこまりました。ではこちらを。サイファ様も、お飲みください。それから、お嬢様の援護をお願いします」
「わかっています」
元々後衛組ということで近くにいたサイファさんにもポーションを渡して飲んでもらう。
その後、ミリスさんは後衛のみんなにポーションを配って回り、私はサイファさんの援護を受けながら前衛のみんなにポーションを配って回った。
そうして、視界を確保できたところでようやっと私達は反撃に映ることができた。
サイファさんが扉の向こうの敵に牽制射撃を放っていてくれたおかげで、敵は未だに部屋に入り込んできたりはしていない――というより、自分たちで蒔いた催涙ガスのせいでそもそも入って来られないのだろう。
であれば、『催涙状態』を解除さえしてしまえば、むしろ相手は自分たちの術中に自分たちで嵌ってしまったも同然。
敵の前衛が構えている盾や槍衾をものともしないような密度の魔法や矢による攻撃を後衛組が放ったことで、ようやくこの戦闘にも勝利を収めることができたのであった。
そんなこんながあって、30分くらいは中を探索して回っただろうか。
途中、いくつかのランドマークもあったし、きっと遺跡だけヴェグガモル旧道とは違うエリアとして独立しているのは、こう言うことに起因してたのかもしれない。
とにかく、ランドマークの登録をして中継地点を作りながら、私達は消耗しながらも着実に先へと進んで行った。
時には、
「……ミリスさん、ポーションの残りは大丈夫です?」
「そうですね……このペースで消耗が続くと、少々後々が厳しいかもしれません。一旦、引き返すべきなのかもしれませんが……」
「そう……作り置きとかは、あるの?」
「はい。お嬢様がいない間を使って、ポーション類は可能な限り作っておりますので、備蓄の方は問題はありません。ただ、私にも持てる限度という者がありますので……」
という一幕もあったりしたけど、それでも一応は先に進めていた。
そうして先へ先へと進んで行くと、やがてとてつもなく大きな部屋へと到達した。
なんだろう、ここは……。
部屋の外には、『第一格納庫』って書いてあったけど……檻がいっぱい並べられて、中に入っているのは、人!?
ということは、もしかしてここは、奴隷達を閉じ込めておくための牢獄みたいな場所!?
「これは……なんて非道な……」
「入ってくる場所の扉には、旧ヴェグガニア語で『第1格納庫』と刻まれていましたから、きっと元は何かを入れて置く場所だったのでしょうが……それにしても、ずいぶんと広い」
サイファさんが、ここに入ってくる扉の側に刻まれていたらしい、この部屋の名前について触れる。
旧ヴェグガニア語……? 【博識】スキルって、そんな言語にも対応してるわけ?
「旧ヴェグガニア語って、多分私達でいうところの日本語だよ。私達にも普通に読めたもん」
あ、そいうこと。
つまり、旧ヴェグガニア語というのは日本語のことで、かつて使われていた言葉。それが時代の流れで変わって、今ゲーム内で使われている謎言語に変わったということか。
「なんにしても、この檻のサイズだと、二、三十個は収容できるかもしれません。それが上下二段に積まれているとなると……」
この中から探し出すのは結構大変そうだけど……果たして、この中にオリバー君はいるのかな……。
きょろきょろと、敵襲を警戒しながらオリバー君を探していると、やがてある一角に近づいたところで、
「ねえ、さま――?」
かすれたような、そして縋り付くような声が私のもとへ届いてきた。
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