【2023 短編賞創作フェス】Galactic Rally

星神 京介

Galactic Rally

「ヘマするんじゃねぇぞ」


「うるさいな、分かってるよ」


ジェイ・ノヴァは口うるさい同僚に軽口を返した。


これから彼女は宇宙に旅立つところだ。


といって今になっては特別なことではない。


地球には未だ多くの人が住んでいるけれど、昔よりも気軽に宇宙に行ける時代だ。


アメリカに住んでいながら日本やフランス、イギリスに旅立つかのように。


一部の国は宇宙に出かけるよりも距離的には近いはずなのだが、心理的に遠くなった国もあると彼女の母親は言っていた。


「今回のレースについて再確認するぞ」


姑のように煩いオペレーターの男は念を押す。


「俺達がこれから参加するレースは国際宇宙ステーションをスタート地点として、今回のレースのために設けられた擬似的な宇宙船に到着して、それで――」


「負傷者を演じている大会スタッフを救護することでしょ?楽勝じゃん」


通話口の向こうでため息が聞こえる。


「お前のお気楽さには呆れるよ。どこからその自信が湧いてくるんだよ?」


「実力だよ。お前も手元の資料に私のトレーニングデータがあるんだろ?私にとってこれぐらい楽勝って話だよ」


「あのなぁ、訓練と実戦はまるで違うんだぞ?お前がいくら凄いスコアを叩き出してるからって――」


「分かってるさ。私の父親もこの競技に参加していたから」


「――そうだったな。嫌なことを思い出させてすまなかった」


「気にするな。デリカシーの無さはお互い様ってことさ」


彼女の父親は競技中の不慮の事故で亡くなっていた。


走行中の小型宇宙船と宇宙ゴミとの接触事故。


当たり前の事過ぎて彼は避けるのを忘れてしまっていたのかもしれない。


「私はアイツみたいにならない。そのためにトレーニングしてきたんだから」


「そうか。いらぬ心配だったな」


「いいさ」


「想定ルートをそちらに送る。幸運を」


「ああ。運ってのはいくらあってもいらなくなることはないからな」


通信が切れる。


大会中は緊急事態を除いて外部との連絡が遮断される。


すなわちこれが場合によっては彼女の最後の会話だったということだ。


ノヴァは息を大きく吸い込む。


彼女は緊張していないわけではなかった。


むしろこの時をずっと待ち望んでいた。


世界最高峰のパイロットだった父がいとも簡単な事故で死んだその理由を己の命をかけて確かめに来たのだった。


鼓動が高まる。


ちらりとスタート地点に視線を向ける。


宇宙服を着たスタッフとその上にカウントダウンが表示される。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



五秒前。


私は私に問いかける。


四秒前。


私は私という存在を忘れる。


三秒前。


私は機体と同化する。


二秒前。


この世界は私のもの。


一秒前。


この世界と私は一体。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



そうして人一人を格納した棺桶は射出された。


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