アオハル・ロケット・スターちゅっ!! 【短編賞創作フェス】

尾岡れき@猫部

アオハル・ロケット・スターちゅっ!!(前編)


 ――ミニミニ四駆戦士たちよ。この一瞬に賭けるのだ。行こうぜ、ロケットスタートで。あのゴールの向こう側、勝利は自分で掴め! FLYフライAWAYアウェイ


19※※年 玉藻模型公式日本グランプリ、地区予選にて。

ミニミニ四駆ライダー金言集より抜粋。





■■■





 里帰りしての親孝行。言葉にすれば、一行。でも、バツイチ・アラサーには、目に毒な光景が広がっていた。


 妹の子――つまり、甥っ子達が繰り広げる、なんて幸せな光景。

 選択さえ間違えなければ、俺にもこんな光景が待っていたんだろうか。


 ――僕、YouTuberになる!

 ――わたし、ジェット機!


 うん、きっとジェット機のパイロットのことだろうなぁ。思わず、苦笑が漏れてしまう。そんな可愛らしい新年の抱負を聞きながら、お年玉を渡していく。目をキラキラさせて正座してなくてもって、思うけれど。


 お年玉はお歳魂。本来は年神が宿る鏡餅を食して、1年無事に過ごせるように祈るという宗教的な意味合いが強い。断じて、チビ達にお布施をする行事じゃないが――もしかしたら、老後はこいつらの世話になることを考えれば、先行投資と思うことにしよう。

 その時はヨロシク。俺、可愛い子に介護されたい。


「……ごう、まったりしてないで。部屋を片付けて! あんたのガラクタ、片付けてくれないと、あの子達が後々困るから」


 お袋の声がきんきん響く。今回、帰省した理由の一つがコレだ。


 妹夫婦が、両親と同居することになったのだ。それに伴って、俺の部屋をチビ達に明け渡すのだ。ガキの頃からの宝物だったミニミニ四駆やらプラモデルが、あの部屋には今も眠っているのだ。


 孫の可愛さから出た、お袋の言葉。悪意がないのはよく分かっている。それでも――。




『良いオトナが、オモチャとか。オタク君が考えることって、やっぱり良く分からないよね』


 離婚前に、元嫁から言われた言葉。未だ、胸に突き刺さっていて。未だ、堪えているのだから笑える。


「お兄ちゃん、ごめん。私たちは、そんなつもりじゃ……」

「何が?」


 そうとぼけて、俺は妹に笑って見せた。






■■■





「とは言うものの……」


 我ながら、よくため込んだと思う。機動戦士BANDAMバンダムシリーズ、銀河戦艦ヤマト。乗り物がロボットになるデジタルトランスフォーマー。


 そしてモーターで駆動するプラモデル、ミニミニ四駆。俺は小学校ガキの時、このプラモの改造に全力を傾けていた。



 ――男はさ、やっぱりロケットスタートに命をかけなくちゃな。

 ――ヤだよ。私、女の子だし。折角、キレイにデコったボディーが、そんな走りしたら歪むでしょ?


 ――でもさ、れつ。そんなんじゃ、レースに勝てないぞ?

 ――んー。それはイヤ。やっぱり、勝ちたい。


 ――とは言え、俺もこのままじゃ即コースアウトだしな。

 ――じゃ、二人で改造しちゃう?



 写真を見ていたら、思わずトリップしてしまった。昔はミニミニ四駆の大会が定期的にあったものだ。


 ミニミニ四駆公式キャラクター、ミニ四ライダー。当時はめちゃくちゃ格好良いと思っていたのに、今見ると痛いコスプレ兄さんだ。でも、それが良い。それが良かった。


(あいつ……元気にしているかな)


 天草冽あまくされつ。まるで男のような名前だが、正真正銘、女子で。2歳下の悪友だった。


 その名前から、同性からも異性からも、女子扱いされず、妙に浮いて。両親は、凛冽りんれつ――つまり、凜々とした女性に育つようにと願いをこめたらしいのだが。


 洌は俺とミニミニ四駆をはじめとしたプラモデルに没頭してしまったので、なんというか冽のオヤジさんには申し訳ないと思ってしまう。


(きっと、アイツも家庭を――)


 何を当たり前のことをと思ってしまう。小学生から中学生へ。そして、高校生へ。2歳差って、かなり大きくて。ガキの頃はバカにしていたクラスメートも、冽が垢抜けていく様に目を奪われて――。


 だから、俺から距離を置いた。

 同年代には、同年代のコミュニティーがある。


 楽しそうに、クラスメートとショッピングモールを歩いていた冽を見かけて。もしかしては、確信に変わったんだ。

 男子と一緒に、天真爛漫に笑う洌を見ちゃったら――。






■■■






 こうも町並みって変わるんだなって、感心してしまう。異世界に迷い込んだ気分になった。


 こんな田舎町にも、マンションが建つとは想像もしていなかった。。

 あの駄菓子屋はいつの間にか、老人ホームに変わっていて。


 廃屋だった旧ラブホテルは、ドラッグストアに。


 公園から、グラグラと倒壊寸前だったジャングルジムは消えて。ボール遊び禁止の看板。公園で遊ばないで、何処で遊べと言うのか。この看板を建てたヤツはバカなんじゃないのだろうか。


 でも、変わらない風景もあって。

 ラーメン「俺の指」

 なぜか、店主がスープに指を突っ込んでラーメンを運んでくる。でも悔しいけど、どうしてか美味しい。


 たこ焼き「イカ屋」

 店主の名字が【井家】さんだから。ちゃんとたこ焼き。そして、昨日食べたが、やっぱり美味しい。


 そして――田村麻呂模型店。

 俺の青春の場所で。ここで、ミニミニ四駆を購入したり、店内レースに参加したりしたのだ。時代と共に移り変わったのは、中古ホビー売買も取り扱うようになったことか。


 と――。

 子ども達が、模型店へと駆けていく。


「おじいちゃんっ!」


 模型店でありながら、子ども達の溜まり場で。店主じいちゃんが、人気なのは今も昔も変わらないらしい。かくいう俺も、ミニミニ四駆の軽量改造や、プラモデルの塗装の技は、じいちゃんから教えてもらったのだ。


「おじいちゃんは、腰を痛めているんだから無理を言わないでね」


 若奥さんの声が店内に響いた。


「はぁぁい!」


 元気な子ども達の声。本当に微笑ましいな、って思――う?


「轟ちゃん……?」

「洌……?」


 田村麻呂模型店のエプロンをつけた洌が、そこに立っていて。


(……そっか)


 確か、ここの息子と洌って同級生だったよね……。

 アイツと洌は結婚したのか。


 妙にほろ苦い感情が、喉元までこみ上げて。

 俺は、なんとか飲み込んで、自然に笑うように努める。




「ひさしぶり?」




 なんとか、声を絞り出して。

 売り払おうと思って、段ボール箱につめたプラモデル。それが今、やけに重く感じた。




【つづく】


 

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