魔妖探偵事務所やってます

牡蠣一

魔が潜む世界

第1話 プロローグ

 大きな倉庫が並ぶ夜の港。


 その一角で戦いが繰り広げられていた。


 どちらも言葉を発することはなく、ただ戦いの音だけが静けさの中に鳴り響く。


 戦っているのは身の丈3メートルはありそうな大男と中学生ぐらいに見える少女。


 戦局を支配しているのは少女の方だった。


 大男はとても人間とは言えない姿をしていた。全身緑色の皮膚をしており、下半身に比べて上半身がやたら大きくバランスが悪く見える。顔も鬼のような顔をしており完全に化け物だ。


 大男は丸太のような太い腕を振り回し、少女に殴りかかるもその攻撃をいとも簡単にひらりひらりとかわす少女。


 少女は躱すだけではなく、ときどき手で大男の体に触れるが、その瞬間その部分が小爆発があったかのように吹き飛び、その度に血が飛び散った。


 しかし驚くべきことに大男のその部分はみるみる元通りに回復してしまうのだ。


 とうとう少女は躱しきれなかったのか大男の見た目とは裏腹に素早い拳の一撃を腹に受けてしまった。小柄な少女はその一撃で吹き飛ばされるかと思われたが、その場に踏みとどまっている。それどころか大男の腕をしっかりと掴んでいた。そして次の瞬間──ポロリ。あっさりと男の腕はもげてしまったのだ。


 大男が吠えるような唸り声を上げた。恐らく苦痛のためだろう。しかし次の瞬間にはもう一方の腕で少女に殴りかかり、これも少女の腹にきれいに決まったように見えた。だがこの一撃も少女は踏みとどまったばかりかやはり腕を掴んでもぎ取ってしまった。


 大男は両腕を失ってしまった。さすがに驚異的な大男の回復力も一瞬で腕を生やすことはできないようだ。


 両腕を失った大男は勝てないと思ったのか、少女に背を向けて一目散に逃げ出した。一瞬あっけにとられたような少女だったが、すぐに大男を追いかけた。月明かりに照らされた少女の顔は笑っていた。まるで狩りを楽しんでいるかのように……。


 少女はあっさりと逃げる大男に追いついてその手を背中へあてた。


 ボムッ!


 大男の背中が爆発したように吹っ飛び見事に腹まで貫通する大きな穴があいた。そして大男はゆっくりと倒れたのだった。



 決着がついたように見えたとき、どこにいたのか少女に近づく男がいた。


「ご苦労だった」


 少女の元に行くとあまり感情のこもっていない声で男はそう言った。


 そしてさらにこれまたどこにいたのか武装した警官が数人現れた。


「お疲れ様です」


 武装警官の方がまだ男よりも心のこもった声で言った。


「さあ、帰るぞ」


 男は警官から厚みのある封筒を受け取ると少女に言った。


「あの魔妖まようはまだ生きてる」


 少女が男に言った。



「問題ない。あとは警察の仕事だ。俺たちの仕事はここまでだ」

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