たそがれ

@rabbit090

第1話

 正しさって何?

 嘘つきって誰?

 あたしはいつも、小さなベッドの上でそんなことばかりを考えている。

 くだらないけれど、そんなことばかり。

 「裕子ゆうこ、来て。」

 「…分かった。」

 みさは、あたしのことを奴隷化何かだと思っている、完全に、だってさ、あたし昨日まで海外に行ってたのに、よりによって何で今日なのよ。

 いつもいつも、あたしの家に来て、「遊ぼう。」と誘ってくる。一見うれしいことのように思うが、あたしにはとても、うっとおしい。

 小さいころから一緒だった。

 家が戸建てで、新築で、母同士も仲がよく、ただあたしが、みさのことを嫌っている、ということが、あったのだ。

 最初は嫌いじゃなかった、でも。

 「早くぅ。待ってんだけど。」

 「行くから!」

 あたしは声を荒げる、そうするとみさは、すぐにむくれる。

 同級生だけど、もうほとんど妹に近い。そう思うようになってから、みさに対するうっとおしさは、自分の本当の妹のように扱えば、何とか大丈夫だった。

 というか、みさの母も分かっているはずだ、この家にお互いが引っ越してきてから、みさはあたしに甘えまくっていた。

 絶交とか絶交じゃないとか、あたしが他の友人と遊ぼうとすると、みさはすねた。そして、なぜかあたしが母に、怒られた。

 「ちょっとあんた、聞いたわよ。みさちゃんの誘い断ったんだって、もう、馬鹿。」

 って、母も分かっているはずだ、てかみんな分かっているはずだ、みさは、ちょっとおかしい。


 でも、そんなみさが、こんどこの町を、離れるのだという。

 一人で、遠くの町に就職する、と聞いた。

 え、結婚でもするの?と思ったけれど、違った。

 みさは、たった一人で、取得した資格を生かして働くのだという。しかも、ついでにバイクの免許まで取って、大きな奴を買って、乗ってる。

 今までとは違う、でもあたしも、あたしも、って。

 「今までありがとう。」

 「え?何?」

 素直なみさは初めてだった。

 「気持ち悪いよ、ホント。」

 一応断っておくが、あたしとみさは、そういう事を言い合っても、平気なのだ。

 「はは、そうね。でも、わたしいつも、裕子にわがまま言ってたじゃない?」

 「何だ、自覚あるんだ。」

 「あるよ。」

 「でもね、わたし、したいことができたの、したいことをしていくの、そうすれば芯のない毎日でも、大丈夫だって気づいたから。」

 「…何よ、変なこと言わないでよ。」

 こいつ、彼氏でもできたのだろうか、と思ったけれど、違うのだ。

 「パパがね、私のすべてだったのは知ってるでしょ?」

 「まあ…。」

 そう、本当は分かっている。

 ついこの前、みさの父は死んだ。

 わがまま女王であったみさの守衛、とでもいうのだろうか、とにかくあたしから見ても、素敵な人だなあ、と感じる。

 そんな人だったけど、病気で、あっさり。

 みさは、その時、あたしと会うことを拒んだ。

 そしてその間に、バイクの免許を取ったのだ。

 バイクは、みさの父の趣味だった、趣味というか、人生というか、とにかくかけていた、全てを。

 「でも、ホントに平気?たまには遊びに行こうか。」

 「…うん、暇があったらね、お願い。」

 みさは、依存することを、やめた。ように、あたしには思える。

 あたしは、一つため息をついて、席を立つ。

 それは、あたしにとっての、何かの、正体の分からない何らかの、別離であるように、思ったから。

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