召喚!カルタナイト
永田電磁郎
0
やりたいことがあった。そのためにどうしても進学したい大学があった。あと少し、学力が上がればA判定だった。だから、必死に勉強をした。寝る間も惜しんだ。それでも眠気が襲ってきた。エナジードリンクだけではもう限界だった。そんな時、カフェインの錠剤が効くという情報を目にした。迷いはなかった。あと少し、あと少し頑張れば…。そう、あと一錠だけ飲んで頑張れば…。
ここはどこだろう?何かが見えているような気もするが、自分の目では見ていないような、そんな気もする。立っているような気もするし、寝ているような気もする。いや、そもそも自分の体の感覚がないようだった。
「何が起きているの?」
恐れや戸惑いの感情が沸き上がってきた。そして、何が起きて、自分がどんな状況なのかさっぱりわからない事に気が付いた時、激しく混乱した。
「私はどうなっているの?」
とにかく、何か手がかりが欲しかった。闇雲に走った。いや、実際には走っていないのだが、気持ちとしては走っていた。
ふと、自分が光の玉のような状態になっていることに気が付いた。
「私の体は?消えちゃったの?」
そう思った時、なぜか同じ感情が周りから伝わってきた。私の周りには、いつの間にか同じような光の玉が無数に集まっていた。
「私はどうなったの?ここはどこなの?」溢れる感情が一斉に波打ったようだった。
助けて!嫌だ!戻りたい!生きたい!まだやる事があるの!死にたくなかった!死ねた!辛い!悔しい!許さない!やったね!楽しい!嬉しい!
無数の嘆き、無数の恐れ、無数の戸惑い、無数の喜び。それらの中に取り込まれていき…。
トプン…
「SouiNumberTJS20240101339、SHIGAN55からの転送を確認。ようこそ、HIGANへ。ここはSHIGANで言うところの過去であり現在であり未来です。時の流れはうねり、逆流し、過去と未来の魂も一つになります。あらゆる経験は魂の糧となり、新たな魂を育てるのです。幾つもの宇宙は重なり、無数の世界は、互いに魂を通じて干渉しあい、その姿を変えていきます。無数の世界が重なり1つとなり、また1つの世界が分かれて無数の世界になります。あなたの魂がいたSHIGAN55は分裂してすでに5つの並行世界へと分かれました。その後、それぞれが4から7の世界へと別れ、そのうちの2つは合流します。すでにあなたのいた世界は存在しません。そしてその魂は1つであり、1つではありません。さあ、新たな世界へ拡散しなさい。そして、新たな魂となって、また、ここ”HIGAN”へ帰ってきなさい。」
私は先ほどの無数の魂と寄り添い合って一つになった。そうか、そういえば、前もこんなことがあったっけ…。そうだった…。そうだったね。よろしくね。今度の人生はあなたたちと一緒なんだね。そうよ。じゃあ、行こうか。
ふぇ…ふぇ…おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあっ!
「可愛い女の子だ。」「貴方にそっくりな黒髪ね。赤ちゃんって生まれたてでこんなにフサフサなの?」「目元は君にそっくりだ。」
なぜ赤子は泣くのだろう。それは、この世に生まれた悲しみ故ではなく、そうしなければ生きていけないからだ。母親の胎内では臍帯を通じて空気を貰っていたが、生まれ落ちた瞬間、自分の肺で呼吸をせねばならない。吸って吐く。これから一生続く働きを初めて行う、その瞬間に泣く。
人は生まれた時に初めて吸った空気で、その人の宿命が決まるという。心のうちから言葉が溢れたが、言葉にはならなかった。「無から有へ。魂が宿命を得た。」
「ねえ、貴方、この子の名前の事なんだけれど…。顔を見てから決めようって言ったじゃない?どう?私もいくつか考えてはいたんだけれど、顔を見たら決まるかと思ったの。ピンとくるっていうの?でも、実際に見てみたらどれも良くって、一つに決まらないのよね。名前って何個までつけてよかったんだっけ。」産湯をつかい、キレイになってオクルミにくるまれている娘に、初めてのお乳、初乳を与えている母親が、二人を愛おしそうに見つめている父親に声をかけた。
「そうだね。どうしようか。この子にはこれから無限の可能性があるんだよね。だからエタニティちゃん、とか、この先、どんな困難にも負けない強さを持ってほしいから、そんな感じの名前も良いなぁ。ぱわあ、なんてどうだ?ちょっと
赤ちゃんが弱弱しくぐずりはじめた。
まだ首も座らない、少しでも乱暴に扱ったら壊れてしまいそうな赤ん坊をあやしながら、母親も「良いわねぇ。永遠の強さ…。」と言い出したが、ふと「でも、そうやって過度な期待を持ってしまったら、この子が将来、それに押しつぶされてしまうんじゃないかしら?そうね…」
何でもないもの。
0《れい》。
昨日から明日に変わる、深夜0時に生まれた女の子の私は「レイ」と名付けられた。過去から、未来から、異なる世界からの様々な魂をその身に宿したまま。
「その宿命を使って、私は何をするんだろう?楽しみだなぁ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます