第二の人生に希望を乗せて、いざ異世界へ旅立った

神在月ユウ

第二の人生をスタート

「あいつ使えねー」

「情けないよねー」

「誰かクビにしろよ」


 入社八年目の俺のことを、わざと聞こえるように話している同期に後輩、先輩。

 あの同期の男とは、入社時に「お互い頑張ろう」と誓い合った。

 あの後輩の女は、俺が指導役になって仕事を教えた五つ年下。笑った顔がかわいくて、実は好きなんだ。

 あの先輩は、俺が新入社員のころに「何でも聞いてよ」「誰だって失敗くらいするよ」と指導してもらった、面倒見がいいと有名な人だ。


 そんな人たちから、お前はダメだと非難されている。

 やることなすこと失敗ばかりで、何でも抱え込んでしまい、もっと人を頼ろうと反省すると頼りっきりになって迷惑をかけてしまう。仕切るのが苦手、決断ができない三十歳。

 でも課長からは「もっと頑張れ」と言われ続ける。


 もう、自分が惨めで仕方ない。

 もう、自分に居場所なんてないのかもしれない。

 もう、自分に存在意義なんてないのかもしれない。


 そんなことを考えながら、今日も家路につく。

 家に帰ったら、お気に入りのなろう小説でも読んで浸ろう。

「異世界行きてぇ」

 こんな思いをするなら、絶対異世界で文化レベルの低い生活を送る方がいい。会社で働かなくてもいい生活がしたい。


 そう思ったとき、


 キィィィィーーーーーーーー!!


 耳障りな高音と眩い白光が襲いかかった。

 最後の瞬間、それがトラックだと気づき、信号が何色だったか確かめずに横断歩道を渡っていたかもしれないと思った。









「あれ?」

 真っ白な世界が広がっていた。

「ここどこ?天国?」


「あなたはまだ死んでいません」


 目の前に、美しい女性が立っていた。

 とても神々しい光を放つオマケ付きで。


「死ぬ直前に、わたしの力であなたを引き寄せました」


 俺はピンときた。

「もしかして、異世界に転生ですか!?」

 いつも読んでるあの展開にそっくりだ!


「はい、別の世界であなたは第二の人生をスタートするのです」


 キタァァァァァァァァァァァァァァァァァ!


「剣と魔法の世界ですか!?」


「そうです」


「俺は勇者ですか!?」


「聖剣に力を授けられた救世主です」


 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!


 俺のテンションは上がりまくりだ。


「女の子にモテモテですか!?」


「それはもう、あなたは救世主ですよ?」


 ヨッシャァァァァァァァァァァァァァァァ!


 もう文句なしだ。


 題して『低能社会人の俺は剣と魔法の異世界で救世主でハーレムを築いてしまったんだが』なんてどうよ?


「では、そんな世界へあなたをお連れしますね」


「おねしゃっす!」


 またも、俺は眩い光に包まれた。






 気付くと、そこは森の中だった。

 唐突な変化に戸惑うが、見下ろすと自分の服装が変わっている。

 革製と思われるブーツやグローブやマントが少し違和感があるものの、腰には装飾のついたいかにもな剣がベルトから提げられている。


「なんか勇者っぽい…!」


 俺は感動した。

 体格も変わっている。十代後半、スラリとした体躯につやのある肌。顔はわからないが格好いいに違いない。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 唐突に悲鳴が上がる。

 すぐ近くだ。

 すぐに悲鳴の元へ駆けつける。


 すると、ゴブリンに襲われている若い女性がいるではないか。


「そこまでだ!」


 俺は腰の剣を抜いて女性とゴブリンの間に割って入り、一刀両断。

 ゴブリンが袈裟に切断されて倒れた。

 紫の血とか内臓がドバッと出てきて気持ち悪い。臭いもキツい。


「ありがとうございます!」


 女性が俺に抱きついてきた。

 人生で初めて感じる柔らかな感触に、戸惑いながらもニヤけてしまう。


 彼女は商人だそうで、ここに来る途中に仲間とはぐれ、荷物もほとんど失ってしまったらしい。

 ひとまず、近くに小さな町があるということなので、彼女の提案で町に向かうことにした。



 町に着くと、二人で宿屋に入った。

 俺の腰の布袋には金貨がぎっしり詰まっていたにで金は心配ないだろう。


 部屋に入るや否や、


「お礼がしたいのですが、わたしが差し上げられるのはこれ位のしか…。お風呂で、待っていていただけますか?」


 俺はドキリとした。

 彼女は紅潮した顔で潤んだ目を向けてくる。


 え?お風呂ってつまりそういうこと?


 彼女の体に目が行く。

 胴は細いのに胸は大きくて、その感触は先ほど感じたばかりだ。

 どうしてもそこに目が行ってしまう。

 スラリと伸びる長い脚、太ももが眩しい。


 俺は急いで服を脱ぎ捨てて、風呂に入った。

 湯に浸かりながら、彼女が入ってくるのを待つ。

 

(やべぇ、緊張するっ)


 俺、異世界で早々にすんの!?

 どうすればいい?やり方わかんないんだけど!

 まずは揉むの?舐める?

 いつ女の子に一目惚れされてもいいようにいっぱいしてたのに!


 混乱しながらも、俺は妄想を巡らせる。


『救世主様、全てわたしがやって差し上げますね』

『救世主様の手、気持ちいいですっ』

『すごいっ、救世主様の、おっきい』

『もう、だめぇ、ナカ、いいっ…!』


 俺をリードしながらも最後は激しく乱れる彼女の姿を想像し、下半身はガチガチだ。


(まだかなぁ)


 ソワソワしながら彼女が入ってくるのを待つ。


(まだかなぁ…)




(まだ…かなぁ…?)





(さすがに遅くね?)


 我に返り、風呂から出て部屋を確認すると、彼女がいなくなっていた。


 俺の荷物も一緒に。


「え……?」


 金貨の入った袋も、聖剣も。

 ついでに着ていた服も、全部ない。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 け、警察か?

 いや待て警察ってこの世界にいるのか?

 どうする?

 とりあえず宿屋の主人に相談か?


 宿屋の主人に、身ぐるみ剥がされたことを相談すると、憲兵がやってきた。

 とりあえず何か着るものが欲しかったが、俺は屈強な憲兵に、宇宙人のように抱えられて連行された。


 真っ裸のまま。


 金がねぇくせに宿に来て風呂に入ってということで主人がご立腹だったそうだ。


「いや、俺じゃなくてあの女捕まえてよ!金はあいつが持って」

「うるさい、黙っていろ!」

「ひっ、す、すいません…」


 ドスの利いた声に、俺は涙目になった。


 振りほどこうとしても無理だったので、俺はそのまま牢屋に送られた。




 そこからが最悪だった。


 牢屋に全裸のまま放り込まれて、同室の毛むくじゃらのマッチョがやってきて、


「おう、兄ちゃん、そそるケツだな」


「え…?ちょ、ま……おぶぅ」


 俺の口に、エナジードリンク缶みたいな男の○○○が突っ込まれた。


 その後、俺の唾液でテカテカになった男の○○○が、俺の尻の穴にあてがわれる。


「いや、まってまって、む、むりゆるしてだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺の処女ハジメテが、散らされました。




 不幸は続く。


 人買いと癒着していた憲兵のせいで、俺は奴隷として売られてしまった。


 そして五日後、俺は、闘技場の中で、ライオンと闘わされている。


 お腹を空かせた猛獣が、唸りを上げる。


「むりぃぃぃぃぃっ」


 俺は悲鳴を上げた。


 錆びてはいるが、一応剣を渡されているのだが、重くて振れない!

 俺、聖剣の救世主じゃなかったの!?

 

『正確には、聖剣に力を授けられた救世主です』

 

 その時、俺を転生させてくれた女神様(?)の声が聞こえた。


『ですので、聖剣を手放したらただの人です』


 え?マジ?詰んでるじゃん!

 身ぐるみ剥がされた時点で終わりじゃん!


 んで?

 俺、このままじゃライオンの餌確定?


『ですね』


 女神様(?)、なんて無慈悲な!?


 これなら、まだ元の世界の方がマシだぁ!


『本当に?』


 ホント、戻れるなら戻りたい!


『戻しますか?元いた世界に』


 え?できるの?


『その代わり、もう異世界は無理ですが』


 いいよ!早く戻して!喰われる前に!


『本当に、いいですか?』


 いいから、早く~~~!!


『では、元に戻すますね』


 

 次の瞬間、俺の視界はぐにゃりと歪んだ。


 ああ、やっと戻れる。

 やっぱり、現代日本が一番だよ。

 平和だし、命の危険ないし、ちょっと仕事が辛いとか、居場所がないくらい、あっちの世界に比べればなんでもな



 キィィィィーーーーーーーー!!


「……え?」


 眩い光と激し衝撃が、俺の最後の記憶だった。



「うわ、事故だ」

「うえ~、グロっ」

「警察!」


 周囲が騒がしくなる。




 それを遙か高みから見下ろす女性が呟く。


『だから、本当にいいかって聞いたのに』


 無感情に、淡々と。


『第二の人生じゃなくて、死出のスタートを切ってしまいましたね』

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