ウロボロスの憂鬱

見鳥望/greed green

 ーーくそ、鬱陶しい。


 気が散って仕方がない。私は一分一秒も無駄にしたくないのに。


 ーーあぁ、もう! ほらまた!

 

 今日もまた逃してしまった。ついこの間までこんな事はなかったのに。私の貴重な時間は確実に何者かによって侵されてしまっている。


 数日後。

 今日もまたあの鬱陶しい気配を感じる。私はいきなりその場から駆け出し攪乱する。


「いい加減にしてよ」


 大方の予想通り、尾けていたのは男だった。若く素朴な見た目も含め、本物は総じてこんなものだよなと納得する。


「バレてないとでも思ったの?」

「いえ、分かってましたよ」


 男に焦る様子も悪びれる様子もない。

 ムカつく奴だ。こいつのせいで私の貴重な時間を……。


「あなたも盲目ですね」

「はい?」

「人の事は言えないですけど、あなたも報われないですね」

「何言ってんのあんた?」

「まぁ別に、僕は好きでやってるだけなんでいいですけどね」


 こいつはずっと何を言ってるんだ。そんな事を考えていた時、


「本当にいい迷惑なんだけど、これどういう状況?」


 心臓が高鳴り全身が硬直した。

 そこには私が一方的に焦がれ憧れ、恋や愛なんて言葉では表現しきれない、直視すれば羨望と嫉妬でこの身が狂い果ててしまいそうな、あの憧れの高澤様がそこにいらっしゃった。 同性だなんて関係ない。あまりに麗しい姿が今、この距離に降臨されている。


「あぁ、そういう事なのね」


 高澤様はもう既に全てをご理解されているようだった。


「全員が被害者であり加害者だって事ですよ。勘弁して欲しいですね」


 言いながら男は私の高澤様を睨みつける。今までと比べ物にならない怒りで血が沸騰しそうになるが、そこで私もようやく気付き始める。でもそれはあまりにも許されない構図だった。


「三つ巴って事になるのかな」


 認めたくない言葉だが、世間一般で言えば私は高澤様をストーカーさせて頂いていた。

 同じようにこの男も私をストーカーしていた。

 そしてこれは許しがたいし何が良いか全く分からないが、どうやら高澤様はこの男をストーカーしていたという事らしい。


「これって、どうしたらいいですかね」


 この男の言う通り、私達は誰一人報われないらしい。

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