月光に溶ける二人
自転
二人の時間
ガシャ...
月の光が車の中に差し込んでくる。
私の隣には運命の人がいて、下には暗く美しい森があって。
そうだ、私たちは最後のドライブに出かけたのだ。
お互い未練は残さないように、悔いが残らないようにと。
はじめは不満や思い出、二人で過ごした時間を記憶を
反芻するように言葉を交わした。
車内はエンジン音と物寂しい月の光で心地が良かった。
そして、すべてを語りつくした私たちは最後に二人で居れる
この空間を静かに静かに噛みしめていた。
目的地のないこの車はいつしか山道を走っていた。
窓を開けると冷たい夜風と虫の声が私たちを包んだ。
生い茂った森を抜けると切り立った崖と星空が現れた。
夢でも見ているのかと思った。
寂しげな星が泳いでいるいつもの夜空とはまるで違った。
そこであなたは言う
「ここでいい?」
私は答える
「うん。」
もう満足だった。
私達には何もない。
隣にあなたがいればそれでよかった。
それだけで、よかった。
私に家族はいない。
貴方にも、家族はいなかった。
そんな稀有な二人が出会って恋に落ちて。
二人で過ごす。
二人で生きる。
求めていたのはそれだけだった。
貴方は病にかかった。
それは、何をしても治らなかった。
私のこれからに貴方がいない。
そう思うと、これから先に生きる理由を見つけることはできなかった。
ガシャ...
車はガードレールを飛び越え宙を舞った。
月の光が車の中に差し込んでくる。
私の隣には運命の人がいて、下には暗く美しい森があって。
月光に溶ける二人 自転 @gyakusetu444
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