第44話 乂阿戦記1 終章 これは始まりの物語の終わりの闘い-8
「さあ、踊れお前達!私の奏でる地獄の調べに合わせて歌い踊り狂い殺せ!!」
その唄を合図にしたかのように邪道勇者アシュラの5つの顔が咆哮を上げた。
「みんな準備はいい?打ち合わせ通り行くわよ!」
神羅が皆に合図をおくる。
10人が勇魔共鳴を発動する!
魔剣クトゥグァを構えた雷華が獅鳳と共鳴
雷杖ドゥラグラグナを借り受けたミリルが雷音と共鳴
魔王の仮面ベリアルハスターを被ったエドナがオームと共鳴
戦神帯アーレスタロスを巻いた絵里洲が漢児と共鳴
そして聖弓ユグドラシルを構えた神羅が鵺と共鳴した!
これで全員分の勇者の力を結集させた!!
いつもは男の勇者達が前面にでて肉弾戦を受け持つが今回は魔法少女達が前面にでる。
後ろのサポートポジションに落ち着いた男達は2頭身のヌイグルミみたいな姿になっている。
雷音は赤いチビ竜、獅鳳は翠のチビ龍、オームは雄牛のツノを生やした黄色いマントの小悪魔、漢児は蒼いチビ狼
女性の鵺は半透明の黒い衣の女神の姿で神羅の後に控えてる。
『行くぞ!』
全員が一斉に走り出す! 最初に仕掛けたのはアシュラだった。
アシュラは走りながらそのまま跳躍すると一気に距離を詰めた。
そのまま勢いに任せニンジャ刀を振るう。
阿修羅の動きを察知していた神羅は後方に飛ぶことでそれを回避した。
しかしその隙に鵺が動く。
時間魔法を起動し皆の行動速度を底上げする。
アシュラは後方へ跳んだ神羅を追うように追撃する。
チームの柱たる神羅の動きが封じられれば戦いやすくなるからだ。
しかしそこにミリルが立ち塞がった。
アシュラは一瞬驚くもすぐに迎撃体勢をとる。
「させないのだ」
ミリルは雷杖ドゥラグラグナで電磁バリアを作り上げ斬撃を全て受け流す。
横から雷華がカウンターで蹴りを放つと、アシュラは大きく後退し距離をとった。
「今だ!いくでええぇぇぇ!!」
そこへエドナが突撃する。
「セヤァァァァァ!!!」
エドナの大振りの攻撃に合わせるように雷華も攻撃を加える。
2人の息のあったコンビネーションによりアシュラは追い詰められていく。
雷華とエドナ、この2人の戦い方は似ていた。
ともに乂阿烈から武術の手ほどきを受けた身だ。
下手すれば男性陣より肉弾戦に長けている。
そんな彼女達の連携は強力で、アシュラは防戦一方になる。
(このままいけば勝てるかも……)
そう思った矢先、突然アシュラの様子がおかしくなった。
まるで何かに怯えるような様子で動きが鈍くなったかと思うといきなり発狂し始めたのだ。
そして空中に浮かんでいた四本の腕が咆哮をあげ猛然と襲いかかって来た。ミリル達は咄嗟にその場から退避するが、間に合わず野太刀を持った腕がミリルの右足に斬りかかる。
咄嗟にかわすが腿を斬られる。
「くっ、ああああぁぁぁ!!!」
ミリルの悲鳴が響く。
かなり深く斬られた。
ミリルの表情に焦りが浮かぶ。
「このう!」
神羅は聖弓を構えると光を纏った矢を射つ!
狙い違わず放たれた矢はアシュラに襲いかかるが、間一髪大楯を持った腕の防御が間に合い攻撃を弾くことに成功した。
しかし、神羅は間髪を入れずに第二射を放つ。
二撃目は大楯を突き破り盾担当の肩に命中した。
肩を撃ち抜かれた腕は苦痛の声を漏らす。
その間に神羅はさらに三発目を放った。
今度の標的は狙撃銃の腕のようだ。
狙撃銃腕はその巨体からは想像できないほどの俊敏さで動き回り全ての矢をかわしきり銃弾を放つ。
その銃弾をなんとか少女達は回避する。
「確認……絵里洲、スピーカーの準備完了……鎮魂の歌の用意はいいか?」
準備の整った絵里洲が白水晶に応える。
「うん!まっかせなさい!」
そう言うと絵里洲は目を閉じ精神を集中させ歌を唱う。
戦士を鎮めるレクイエムだ。
すると彼女から蒼色のオーラが溢れ出した。
それはやがて光の奔流となり周囲に広がっていく。
そしてその光は傷ついた仲間たちを包み込んだ。
(何これ?足の傷が塞がっていくのだ!?)
ミリルは傷つき消耗していた身体が癒えていくのを感じた。
それと同時に活力がみなぎってくる。
その回復力は尋常ではなかった。
傷が瞬く間に塞がり、体力気力共に回復するとは。
(これはもしかして治癒魔法なのか?いや違う、こんな効果の魔法なんて聞いたことが無いし、第一魔力を使っていないじゃないか)
歌の奇跡に困惑するミリルだったが、今はそんなことを気にしている場合ではないと思い直し自分達も打ち合わせ通り戦士の鎮魂歌を口ずさむ。
ミリル達の歌声に反応し、封獣宝具に埋め込まれていた宝石達が輝きだした。
それを合図に、宝石から光が放たれ、その光がアシュラに降り注ぐ。
「おおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
魔法少女達から発せられた優しいエネルギーの波動に、アシュラは歓喜の叫びをあげた。
「馬鹿め!この私がやすやすとアシュラを成仏させると思っているのか!?」
ナイアは浄化を邪魔すべく別の歌詞を唱う。
「暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳 くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ
にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん
殺せ殺せ殺せ!
犯せ犯せ犯せ!
壊せ壊せ壊せ!!
我らが偉大なる闇の神アザトースよ、我に力を貸したまえ!我が名はニャルラトホテプ、汝の忠実なるしもべなり……傀儡のアシュラ人形に邪神の眷属としての悍ましき生を与えたまえ!」
「やめろぉぉぉぉ!!!」
神羅は絶叫し、再び聖弓ユグドラシルを引く。
「その歌は、それだけは、絶対に許さないぞナイアーァァ!!!!」
神羅の全身から桜色の光が立ち上ぼり、弓に収束していく。
そして放たれた矢は今まで放ったものとは比べ物にならないほどの破壊力を持っていた。
しかし、その一撃は無情にも空を切っただけだった。
神羅の攻撃は、いつの間にか移動していたナイアルラに当たることなく虚空の彼方へと消え去った。
「くっ……!」
「無駄ですよ?いくら貴方が天才でも所詮人間の力では私には敵わない」
ナイアルラは嘲るように言った。
「……そうかしら?」
しかし、次の瞬間、彼の笑みが消えることになる。
なぜなら、背後から聞こえた声に聞き覚えがあったからだ。
ゆっくりと振り向くとそこには先程までいなかったはずの人物が立っていた。
「馬鹿な……!戻って来たのか乂羅刹!!……」
そこにいたのは最強の魔女ラスヴェードの生まれ代わり羅刹だった。
「確か戦力外でベンチ入りになった選手も応援や声かけは認められるんだろ?なに、皆が歌う中私一人がのけ者なのがどうにも気に入らなくてな……一緒に歌いに来たのさ……まあ、私の場合は鎮魂歌ではなく軍で使っていた訓練歌だがな」
そう言って彼女は不敵な笑みを浮かべた。
すると、彼女の身体からは銀のオーラが溢れ出した。
それは禍々しくもあり、同時に神々しかった。
「え、ええ〜まさかお姉ちゃんあの下品な歌を歌うの…!?」
神羅が嫌そうな顔をする
「おうともよ!我が軍自慢のミリタリーケイデンスをアシュラに聞かせてやれ!我が軍の兵にとってあれ以上の思い出の歌はない!アイツラの寝ぼけた頭もそれでバッチリ冴え渡るはずだ!」
「いや、確かに士気を上げるためによく歌ったけどさぁ……正直恥ずかしいんだよねそれ」
神羅は少し顔を赤らめた。
「ふむ、では私はお前の横で合いの手を入れるとしようではないか!さあ皆も一緒に歌おう!」
そう言うと、その場にいた全員が一斉に歌い始めた。
『『『『『『♪〜無貌の神が出ったぞぉ〜♪ コイツはどでかいビチクソだぁ〜♪ 見敵必殺ブチ殺せ〜♪ クトゥグァで切ったらイチコロだぁ〜♪ しばき、上げろ♪ どつき、回せ♪ ぼてくり回せ♪』』』』』』
「なんだ!?この不快な歌声は!?」
突然響いた音楽にナイアルラは思わず耳を塞いだ。
(あう〜どうせなら魔法少女らしいもっとキラキラした歌で浄化したかったよー…)
神羅は心の中で泣いた。
だが自分と鵺以外みんなノリノリで歌っている。
必要ないのに雷音達男性陣も一緒に合唱している。
外を見れば兄阿烈まで歌に混ざっている。
ジャムガさんがそれを見て腹を抱えて爆笑している。
歌を聞きアシュラと四つの顔の付いた腕が哭いていた。
五つの顔は血の涙を流すとギロリと後方に控えるナイアを睨みつけた。
「お?どうやら援軍が来たようだな」
その様子を見て、阿烈が言った。
ナイアは一瞬怯んだがすぐに持ち直し、叫んだ。
「何をしている行けっ!魔法少女達を倒せアシュラ!」
勇魔共鳴が強制的に解除されナイアの身体が実体化する。
それと同時に六つの腕が伸びてくる。
神羅達にではない。
ナイアにである。
アシュラが武器を投げ捨てナイアルラトホテップに掴みかかって来たのだ!
「ば、馬鹿!私を攻撃するんじゃない!」
慌てて逃げるナイア
アシュラの攻撃は全て避けられてしまう。
それでもアシュラは諦めずに何度も腕を伸ばす。
「ば、ば、ば、馬鹿な!?こ、こ、こ、これは一体どう言うことだ!?」
6本の手は次々と襲いかかるがナイアはあわてながらもその攻撃を躱していく。
そんな攻防が繰り広げられる最中、神羅達は歌を口ずさみながら戦いを続けていた。
ナイアは六本の腕のみならず神羅達の攻撃まで捌かねばならなくなった。
そんな中、遂に決着の時が訪れた。
なんとアシュラの一本の手がナイアルラトホテップを捕らえたのだ。
その隙を逃すまいと他の手も殺到する。
ナイアルラトホテップはそれを全て受け止めた。
いや、正確には他勢に無勢で受け止めざるを得なかったのだ。
(くそったれめ……!!)
そう心の中で毒づきながらもナイアルラトホテップは最後の力を振り絞って腕を引き剥がすと、そのまま飛び上がり距離を取った。
ラスヴェードが中指を立ててナイアを嘲笑う。
「グギャギャギャギャギャギャ!アシュラに仮初の命を与えたのは失敗だったなあ!アシュラは元は我が兵の亡骸!貴様が仮初の命を与えた事で無念の死を遂げた部下達が現世に舞い戻ったのだ!言っておいてやる!奴等は私と兄がシゴキ上げた人間を辞めたウォーモンガーどもだ!我が部下に雑魚はおらん!貴様はもう終わりだ!!このまま捻り潰しされるがいいわ!!!」
「黙れぇぇぇええええええ!!!!」
激昂したナイアルラトホテップは叫ぶと、魔力を解き放った。
途端に周囲の気温が下がり始める。そして地面から氷柱が生え始めた。
「凍れ!!!凍りつけ!!!!この世界ごと貴様ら全員氷漬けにしてしまえ!!!!!」
その言葉と共に辺り一面が白銀の世界へと変貌を遂げた。
だが雷華が放つ魔剣クトゥグァの炎が少女達を氷から守る。
「もういい加減降参したらナイアルラトホテップ?」
神羅が聖弓ユグドラシルを構える。
「あかんあかん、コイツは降参なんかさせたらあかん!」
エドナが黄金に輝くグングニールレプリカを構える。
「魔剣クトゥグァで今度こそ消滅させてやる!」
雷華が魔剣クトゥグァを構える。
「プークスクス!ねーねーナイア、今一体どんな気持ち?どんな気持ち?貴方の不様な姿超〜ウケるんですけどぉ〜?」
絵里洲が蒼い魔法ステッキを構える。
「みんな最後まで油断したらダメなのだ!次の攻撃で決着をつけるのだ!」
ミリルが雷杖ドゥラグラグナを構える。
味方となった邪道勇者アシュラを背に、雪原と化した闘技場に立つ五人の少女達の姿はさながら戦乙女のようであった。
「おのれユキル〜〜〜〜〜〜!!!」
その言葉と共にナイアの身体が大きく膨れ上がりその姿を変えていく。
その姿はまるで燃える三眼と黒翼を備えた異形の魔神のようだ。
まさに悪魔と呼ぶに相応しい姿。
それが今のナイアルラトホテップの姿だった。
ナイアルラトホテップはユキルへの憎悪のままに吠えた。
その叫びと同時に口から吹雪が巻き起こり、瞬く間に世界を白く染め上げていく。
猛烈な吹雪で闘技場は白い世界と化していた。
氷柱が生きた触手のように蠢き少女達に襲いかかる。
邪道勇者アシュラが大楯を持って突進しナイアルラトホテップへの道を作る。
その中を5人の少女が駆け抜ける。
少女達は新たな歌をうたい武器に神秘の力を宿す。
その歌は勇気の歌。
絶望を打ち砕く希望の力。
それはまさしく勝利を導く力ある調べであった。
その歌声はどこまでも力強く、それでいて美しく響いた。
魔法少女達は可憐に舞い邪悪な神を斬りつけていく。
5人の少女達の手に持つ武器から眩い光が放たれ、天を突く光の刃となる。
そしてその光は一斉に振り下ろされた。
「うおぉぉぉおおおおぉおおぉぉおおおおお!!!」
雄叫びを上げながら放たれた一撃に呼応するかのように大地が揺れる。
光に飲まれたナイアルラトホテップはその巨体を少しずつ小さくしていく。
やがて全ての光を消し去った時、そこに立っていたのは元の人間サイズのナイアルラトホテップだけだった。
ナイアルラトホテップはもはや立ち上がる気力も無いのか地面に這いつくばったまま動かない。
そんな無様な姿の敵にとどめを刺すべく神羅が一歩前に出る。
「この一撃で終わらせてあげる……」
雷華から神羅に手渡された魔剣クトゥグァが炎に包まれる。
クトゥグァが激しく燃え上がり神羅の手の中で形を変えていった。
クトゥグァは一本の炎の矢となり神羅の手の中に収まる。
「消えろナイアルラトホテップ!」
神羅は炎に包まれた聖弓と魔剣の矢を構えるとそのままナイアルラトホテップに向かって射った。
魔剣はそのまま一直線に飛んでいきナイアルラトホテップの身体を貫いた。
その瞬間、凄まじい爆発が起こり爆風によって吹き飛ばされそうになる身体を必死にこらえる。
しばらくすると煙が晴れていき、そこには焼け焦げた肉塊だけが残っていた。
それを見て安心したのか神羅達が一斉に倒れ込む。
どうやら全員限界だったようだ。
「やったのだ……ついに倒したのだ……!」
ミリルは喜びのあまり飛び跳ねている。
そんな彼女に釣られて他の者達も笑い出した。
勝利を見届けたアシュラは笑顔を浮かべると塵となって消えていった。
「同志諸君大義であった。安らかに眠るがよい…」
阿烈と羅刹は敬礼をとり同志を見送る。
こうしてナイアとの戦いは終わったのだった。
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