大和の故郷からのスタート

蘇 陶華

第1話 酒涙雨は、今年も僕らの間に、降り続ける。

「どうしてなのか?」

何度、自問自答しても、答えは見つからない。長い時間の間に、自分の本当の気持ちがどこに行ったのか、わからなくなっていた。神女として、俗世界に別れを告げた姿を見てきた。

「犀花・・・」

想いを半ばにして、別れた神女は、時代を乗り越えて自分の前に現れていた。聖女の魂を秘めて。地の果ての国なら、同じしきたりに縛られないと思い、遠くへと、逃したのに、結局、土地をかえても、犀花の魂は、同じ縛りだった。

「愚かな事」

だと思った。白夜狐は、ためらっていた。新月の夜に、見つけた犀花は、一眼で、誰なのか、わかった。別の姿に変え、名前を変えて、彼女を守ろうとしていたが、結果は、同じだった。

「眷属として・・」

一線を引くこと。真冬は、そう白夜狐を諌めた。大和の故郷を守る為。古代の中心は、ここにある。眷属達は、地域に散らばる墓綾を守る。その長である白夜狐が、神女と一線を越えるのは、許されなかった。時代を超えても、犀花のそばにいる事は叶わない。

「犀花・・・」

その名前が、神女である事を、告げていた。

「白夜狐。一番、大事な事を忘れているわ」

あの後、真冬が伝えたかった事。

「犀花を守る為に、あなたが選んだ事は、彼女が望んだ事だったの?」

「犀花が、望むこと?」

白夜狐は、ハッとした。

「彼女は、守って欲しいとは、思っていなかったと思う」

あの神殿で、お鏡様と呼ばれ、一人で、何を思っていたのだろう?

「彼女が望んでいる事がわかれば、こんな遠回りをしなかったのに・・・」

犀花と白夜狐が出会ったのは、七夕の夜だった。天の川の両端に立つ2人。逢いたくても逢えない二人。思えばあの日がスタートだった。2人の間に、雨が降る。

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大和の故郷からのスタート 蘇 陶華 @sotouka

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