GOOD・BAD・SLAPSTICK

打首塚 畜生道

一時間スコア

ある女がいた。

彼女は幸運だった。

いわゆるお嬢様というモノで、家柄はよく、周囲の体格にも恵まれ、一生遊んで暮らせるだけの金を持っていた。

だが金銭に恵まれた代償とでもいうかのように、彼女にかかわる家族友人知り合いのことごとくは死に絶えた。

彼女は不幸だった。


ある男がいた。

彼は不運だった。

いわゆる孤児というモノで、育ちは悪く、頭もよいとは言えなかったので、地べたを転げまわるように生きてきた。

だがどんな目に遭おうと必ず生き延びてきた。『九死に一生』という言葉を鼻で笑い続ける人生だった。

彼は幸運だった。




とある町の路地裏は掃きだめと呼ぶにふさわしい惨状であった。

ゴミ、廃材、捨てられた料理、それに群がる有象無象が絶えない。

だが不思議と殺しや攫いなんて言う事件とはトンと無縁であった。

そんな事を見つけられないほどに闇が深い場所なんだと路地裏の外の人間は思っていたが…


「はぁ?」

男が素っ頓狂な声を上げた。

それは当然だった。

いつものように悪徳警官からしょうもないが金は貰える。お巡りさんが関わってちゃいけないステキな雑用を

押しつけられたかと思えば、運べと言われた荷物の箱から巨体の女が出てきたからだ。

路地裏生活の長い男が一度も見たこともないような綺麗な女だった。

「…」

声を上げた切り、女をじっと見つめてしばらく黙っていた男は、おもむろに女の頬に触れた。

とりあえず起こして話を聞こうとした。

「んあ…?」

死体ではなくひとまず安心する。しかし目覚めて臭く汚い路地にいて動揺もしないこの女は一体なんなのだろうか。

見た目では馴染みはなさそうだが。あなたは誰ですか?という風に大きな瞳で女は見つめてくる。

…とりあえず名乗った方が速そうだ。と、男は口を開く。

「あー、見ての通り、俺はロッカー生まれゴミ箱育ち。ネズミと猫が友達で着てるもんは酔っ払いからパクったやつだ。」

「わ、私は近くの大学に通ってて、家族と友達…はみんな死んじゃってて、化粧品のモデルをたまにやってます。服はそこでもらったものです…」

ときどき言葉を弱めながら、住む世界が違うという事実を叩きつけてきた。出てきた言葉にクラッとしながら男は提案した。

「オーケーお姫様、とっととおうちに帰ろうか。」

「えっと、待っ…」

言葉も聞かずぐいと手を掴み、明るい道の方へ男はズンズンと歩いた。




「足元、気を付けておくれよ。」

怪我されると面倒だからな。と付け足しそうになり、これは余計だとおもい口をつぐんだ。

「あっと、はい!」

素直に返事をされるとどうにもバツが悪い。あまりにも違う生き物だ、と想いを新たにする。間違ってもすいてはいけないだろう、とも。

さらに速度を上げたせいでエスコートなんて間違っても言えない絵ヅラの二人の道行きを、突如飛び出した鈍器が粉々に破壊した。

男に出来たのは女を逆方向に突き飛ばすことくらいだった。ゴンッ!と男の頭で音が鳴り、そのまま倒れてしまった。


男にとって見覚えのある人物が現れた。

警官はパシパシと警棒を手の上で弾ませた。

その警棒は心の内がそのまま出てきたかのようにどす黒い血の色に染まっていた。

「テメェがとっととあの女を犯すなり殺すなりしてくれてれば話はもっと簡単だったのによォ…」

頭から血をだしているのにまったく気にしていないように男は警官に言葉をかける。

「お前みたいな腐った性根のやつとは格が違うんだ。仲良くできそうになくて残念だ。」

男はそういうと足元にあった木片を勢いよく蹴飛ばした。くるくると回ったそれは警官とは全く違う方向に向かった。

「ハッ、目がつぶれて見えないみたいだな?」

木片の行く先は女の手元だった。

「あなたは知らないみたいだけど…」

ゆらり。と女が姿を現した。

いわゆる、フルスイングというヤツだった。

「私に関わった人間は、みな死に絶えるのよ。」

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