第11話

 メンバー全員と元メイド喫茶の空き店舗に集合すると、いよいよ活動が始まるの実感が湧いてワクワクしてきた。


 響、卯月、世莉架、茉美。四人とも特徴があって個性的なメンバーが揃ったと思う。


 響は良くも悪くもニュートラル。ラップもダンスもそこそこできるし、何よりスタイルが良いのでよく映える。フォーメーションの参考にするために身長を聞いたら170cmもあるらしい。それに最年長ということもあり、メンバーのまとめ役という感じだ。


「おーい! みんなー! メイド服のサイズ見てほしいんだけどー!」


 全員で分担して店内の清掃をしているところに響が声を掛ける。最初に手を止めてやってきたのは卯月だった。


 高校生ながらずば抜けた歌唱力を持っている美少女。身長は160cmと響と並ぶと小さいが、それでも全身のバランスが良いので見劣りしない。


 関係性が少し出来てきて分かったことだが、笑顔が人並外れて可愛らしい。ぷっくりとした頬に急に現れるえくぼが何とも言えない魅力を放っている。


「うわっ! スカート短っ!」


 卯月がメイド服を身体に当てて驚いている。確かに、太ももがかなり露出するような丈のスカートで、少し角度が付けば容易に中まで見えてしまいそうだ。


「ま、見せパンだから関係ないっすよ。おっ、ピンク……これは見せる用ではないですか。卯月さん、良いっすねぇ〜」


 卯月の背後から茉美がやってきて卯月のスカートをめくる。


「ちょ! やめてよ! 黒子さんに見られちゃうじゃん!」


「実際には見られてはないですが私が色を共有しておいたので実質見られたのと同義ですね」 


「レースが沢山付いてるとか柄について説明してないから大丈夫だもん!」


「……卯月さん……今まさにご自分で説明してますけど……」


「はっ……」


 卯月が顔を赤くして俺を睨んでくる。俺は何もしていないのに!


「俺は何もしていないからな……」


「ピンクの沢山レースがついたパンツっすよ?」


 茉美がニヤニヤしながら追撃をしてくる。


「復唱すんなって……」


 茉美は相変わらずの変人っぷり。だが、ラップの実力は本物。ラップ担当は彼女と響に任せれば安泰だろう。


 それに、掃除のために後ろで長い黒髪を結わえて初めて顔をよく見たが、案外に可愛い人だった。切れ長の目は今風な感じだし、華奢な身体も相まって繊細な絹糸のような光を放っているかのようだ。


 放送禁止用語まみれのラップを人前で披露しないあたり、最低限の常識は持っているみたいだが、人のスカートの中を見ない、よしんば見たとしてパンツの色と柄を共有しないという常識は持ち合わせていないようなので、ライブのMCの時はこいつのマイクは切っておいた方が良いだろう。


「……最高」


 最後にやってきたのがメイド服に憧れる世莉架。天界、またの名を八王子から舞い降りてきた美女だ。


 173cmの高身長にヒールを合わせると目線の位置は俺と殆ど変わらない。それでいて顔は誰よりも小さいのでエディット機能をフル活用してキャラクリエイトをしたんだろう。あるいは神様が世莉架の時だけキャラクリエイトに時間をめちゃくちゃ使ったのかもしれない。


「じゃ、着替えよっか」


「終わったら呼んでくれ」


 響の合図で俺は奥の部屋に引っ込む。


 扉越しに四人がワイワイと話しながら着替える声が聞こえてきた。


「……うわっ! 世莉架さんデカっ! マジっすか!?」


 茉美の叫び声が扉を貫通してくる。何がデカいのかは想像しないでおこう。


「普通……だよ」


「これが普通だったら私達はどうなっちゃうの……」


「100の前では1は端数なんっすよ」


「端数……Cはあるんだけどなぁ……」


「黒子さんに聞こえますよ?」


「はっ!?」


 こいつ等は何やってんだ……俺は返事をせずに聞いていないアピールをする。


「どうせ全部聞いてるけど反応する方が面倒なことになるってわかってるから無視してるんだよねぇ。私には分かってるよ、黒子」


 図星だがこれも無視。


 少しするとおふざけモードも終わり、全員が無言で着替え始める。シュルシュルと布が擦れる音だけが響く。


 そしてまた四人のおふざけモードが始まった。


「えっ……世莉架やばっ!」


「いやぁ……これはヤバいっすよ」


「ヤバヤバだよね。え? ど、どうする? このまま行く?」


「……だめかな? そんなにヤバい?」


 四人で何かがヤバいと連呼し始めた。どうせこれもまた俺をおちょくっているだけなんだろう。ここで引っかかったらまた弄りしろが出来てしまうだけだ。


「まぁセーフじゃない?」


 響の感覚的にはセーフらしい。


「ギリギリじゃないですか? アウトよりのセーフです」


 これは茉美の意見。


「セーフ寄りのアウトじゃない?」


 卯月は唯一のアウト派だ。


 というか本当に何かが起こっているんじゃないだろうか。さすがに不安になってきて「どうした?」と声をかけてしまう。


「あー……ま、まだ来ないでね! ちょっとこれは……うーん……」


「私は大丈夫……だよ」


 何やら世莉架に問題が起こっているらしい。本人は大丈夫だと言っているが……


「まぁ一回見てもらった方が早いか。来ていいよ」


 響の合図で俺は扉を開ける。


 そこには四人の美少女メイドが背筋を伸ばして立っており――いや! 世莉架の服だけ明らかに丈が足りてねぇ!


 一人だけ足の付根の手前までスカートが上がっているし、胸も谷間が丸見えになっている!


 これじゃ『会えるアイドル』じゃなくて『ヤれるアイドル』と言われても仕方のないくらいの露出度だ。


「いやいや! セーフとかアウトとか議論してる場合じゃねぇよ! どう考えてもアウトだろ! 怪しい夜の店じゃねぇんだぞ!」


「怪しい夜の店?」


 全員が俺の例えにぽかんとする。


「少なくとも茉美はこっち側だろ……」


 茉美が俺の横に来てじっくりと3人を品定めするように見て「一番」と言って世莉架を指差す。


「……どういうこと?」


「分かんなくていいよ……とにかく、世莉架は別の衣装だな。響も背は高いけど案外行けたんだな」


「胸が小さいんだって。言わせないで欲しいな」


 響は頬を膨らませてむくれる。


「あっ……」


 余計なことを言ってしまった。


 追撃を食らう前に俺はもう一度個室に逃げ帰るように戻るのだった。

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