06.
「……そ、れは」
上手く言葉を返せなかった。
アルティングルが言葉を詰まらせたのに気が付いて、メルレインが露骨にため息をつく。
その後、なんてことない風にアルティングルの髪の毛を放した。
「ナウファルの皇族は傲慢で強欲。民たちから搾取することしか考えていない。俺には、そんな話が耳に入っている」
淡々と。ただ事実を述べるように。メルレインがそう言ってくる。……本当に、なにも返せない。
だから、アルティングルは反論をすることを辞めた。
「そう、でございます」
震える声で、彼の言葉を肯定した。
メルレインは、なにも言わずにアルティングルの言葉の続きを促している。それが、よくわかる。
「我がナウファルの皇族は、民たちから搾取しております」
「……認めるのか」
その言葉に、アルティングルは力強く頷く。
もしも、これが作り話ならば。アルティングルだって、否定した。でも、それは真実だ。
「父も、異母兄も、異母姉も。民たちを虐げることに、罪悪感を抱きません」
正直、アルティングルはこんな皇室は腐っていると思う。
滅んでしまえば、いいと。心の奥底から願っている。だけど、ここに来た。その理由はたった一つ。
「そんな皇族たちは、滅んでしまえばいい。私は、確かにそう思っております」
「……ふぅん」
「ですが、民たちには罪はないのです」
それは、心の底からの本音だ。
アルティングルがここに来たことを、父や異母兄、異母姉たちは知らない。勝手な行動だった。
合わせ、彼らはアルティングルには興味がない。だから、抜け出すことは容易いことだった。
「私は、民たちが苦しむ姿を見てきました。……そして、己の無力さを悔いました」
どれだけ訴えたところで、メルレインの心に響くことはない。
わかっている。理解している。だけど。……どうしても、諦めきれない。
ほんの少しの援助でいい。彼に援助してもらわねば、民たちが飢え死にする。
「どうぞ、考えを改めてくださいませ。……私は、どうなろうと構いません。殺されても、拷問されても。あなたさまを恨むことは、ありません」
こんなことを言っているが、正直なところ怖い。
今だって、口の中がカラカラで干からびてしまいそうだ。歯だって、カタカタと音を鳴らしそうなほどに震えている。
「ですので、どうか――」
もう一度、懇願しようとしたときだった。ふと、頭の上から「顔を上げろ」という声が聞こえてくる。
絶対的な支配者の声だった。その所為で、アルティングルは逆らうことなく顔を上げる。
メルレインが、自身をただただ見下ろしている。
「お前の諦めの悪さだけは、認めてやる」
彼が端的にそう告げる。
「尋ねる。どうして、お前はそこまで民たちに尽くす。自分の命を、投げ捨てようとする」
メルレインの問いかけ。ここで答えを間違えることは許されない。それはわかるのに、口を開くことに躊躇いはなかった。
「それが、皇族の務めだから、でございます」
「そうか」
「皇族とは、国のために命を投げ打つ存在です。……私は、母からそう教わりました」
アルティングルが幼い頃に亡くなった母。彼女との思い出が、アルティングルにとってのすべてだ。
いつだって、母との思い出が孤独なアルティングルを支えてくれた。
「……お前は、その母を尊敬しているのか?」
今度は、意外な問いかけだった。
その言葉に驚いてメルレインの目を見つめる。彼は、純粋に疑問を抱いているだけのようにも見える目で、アルティングルを見下ろす。……一度だけごくりと息を呑んで、頷く。
「私にとって母は、尊敬しているという言葉では言い表せないほどの、存在です」
「……そうか」
「この世で最も敬愛するべき存在で、私は母のことをかっこいいと思っておりました」
凛とした態度と目。それは、皇族でさえ魅了するほどのものだった。
そして、それが――彼女の人生をめちゃくちゃにした要因でも、ある。
「……お前は、母親が好きなんだな」
「え……」
小さな小さな、聞き逃してしまいそうな声だった。
合わせ、なによりも。その言葉を発したメルレインの目が、ひどく悲しそうだった。
……ぎゅっと心臓を掴まれたような感覚に、陥る。
「まぁ、いい。……ここまで聞いておいてなんだが、俺は援助をするつもりは毛頭ない」
メルレインがそう言って、踵を返す。
その姿に、自然と見惚れる。……見惚れている場合ではないと、頭の何処かではわかっているのに。
だから、自然と手を伸ばした。
「――陛下っ!」
どうしても、どうしても。なんとしてでも――母の教えの、恥にならない生き方をしなくては。
手を伸ばした理由は、その一心だった。
が、アルティングルの手がメルレインの衣服に触れるよりも前。部屋の扉がバンっと大きな音を立てて開いた。
自然と視線が、そちらに集中する。
「お話は、聞かせていただきました」
そこにいた人物が、そう声を上げる。……メルレインの眉間に、一瞬だけしわが寄る。
「……母上」
メルレインが、小さな声でそう言葉を零した。
その言葉にアルティングルが驚く間もなく。メルレインの母――マヘレットは、すたすたと歩きアルティングルの前に立つ。
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