悲しみは宵のうちに
若奈ちさ
悲しみは宵のうちに
この時間になると目が覚める。
もう一度なにかをするほど、頭はさえていない。
あのひとのことを思うと眠れなくなる。ふたりでいたころの不満は人に愚痴るほどあったのに、思い返せば悲しさが増すばかりで、ひとりになった気楽さはなかった。
ダメだなぁと寝返り打って布団をかぶる。中途半端に伸びた髪が頬にかかり、かゆくなって払いのけた。しばらく美容院にも行っていない。
亜矢子はソロ活を楽しめばなんていうけれど、言葉の響きが若々しくて気がとがめてしまう。
私よりもずっと若い独身貴族が、優雅にひとりの時間を謳歌している光景が浮かんで、自分には似つかわしくはなかった。
単身生活が長い亜矢子はあれこれソロ活の勧めをして帰って行く。あのこはあのこで父親の死に打ちひしがれながら、日々の暮らしと仕事に追われ、それでも意味のある時間を見いだそうとしていた。
今すぐ私と同居するつもりはないらしい。
私はまだまだ亜矢子の世話にならなくてもひとりで暮らせる。
だから、あのひとには悪いけど、終活は私にはまだ早いと思うことにした。
明日にはまたあのひとを思って寂しくて、同じ時間に目が覚めてしまうかもしれない。そのときは、明日はなにをしようかなって考えながら夜が明けるのを楽しみに待とうと思うの。
髪を切りに行って、お出かけするための服を買って、行ってみたかったカフェで贅沢なスイーツ食べて、写真を撮って。あのひとに「年甲斐もなく」ってあきれられることを想像したりして。
そうしてまた、あのひとのことを思っている自分におかしくなって、自然と笑えるようになったら、あのひとのいない暮らしに慣れてくるのかもしれない。
夜はいろんな場所へとつながっている。
明日にも、あのひとにも、まだ見ぬ私にも。
布団の中のまどろみは心地よく時を刻んだ。
悲しみは宵のうちに 若奈ちさ @wakana_s
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