いらないもの
真田真実
第1話
いま、私は穏やかな風が吹くこの場所で肌触りのよいお気に入りの白いワンピースの裾をはためかせ立っている。
柔らかな陽射しの中、雲ひとつない空を見上げると帰りに明日の朝のパンを買って本屋に寄ろうとか洗濯物を取り込むからやっぱり少し早めに帰らなきゃとかつい余計なことを考えてしまう。
先日、引っ越しのため部屋の片付けをしている途中、久しぶりにクローゼットの奥へとしまいこんでいた箱を引っ張り出した。
2年前に我が家へ来た通販大手の名前の入った箱は無造作に閉じられすぐにでも開ける事ができた。
しかし、私は箱を開けることなくそのままクローゼットの奥の隅に入れ、落ち込むことがあるたびにいつでもこの箱を開けられるという心の平穏を保つためのお守りとしてひっそりとそこにしまっていた。
久しぶりに思いつきで出したその箱はもういまの私にはいらないモノ。
私は未使用のままガムテープで封をし、明日のゴミの日と大きく書いたカレンダーを眺めていたが、ふと緩く閉ざされた箱の前で少し手を止め、もう使わなくても平気だと思ってたけど2年経ったいま使うのがいいタイミングのような気がして私はその箱を開いた。
そもそもせっかく買ったのに使わないのはもったいない。
さぁ、スタートしますか。
小さく笑い目の前に意識を向けると走りやすいように共色のローヒールのパンプスをその場に脱ぎ捨て、柔らかな芝の感触を足裏でしばし楽しんでから大きく息をひとつ吐きだす。
チャペルの前のふたりに気を取られている参加者を尻目に私は誰にも邪魔されないようガムテープでぐるぐる巻きにした大振りのナイフを右手にバージンロードを一気に駆け抜け私の新生活のいらないモノに右手のナイフを深々と突き立てた。
いらないもの 真田真実 @ms1055
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