第49話 捨てる覚悟


「――行くゾォ! 血祭りダァ!」


 ケビルドンたちが、バーンたちに襲いかかった。


「ハッハーッ! 命令! 血祭りに――」


「させるかよ!」


「ギャッ……!」


 バーンは屋根上から飛び降り、着地しながら敵を叩き斬った。


「弓兵各員! 足元に気をつけながら、霧の中に矢を放て! 身の危険を感じたらすぐ自分の身を第一に考えて動け!」


 バーンは弓兵に後続を仕留めるよう指示を出し、歩兵にも喝を入れた。


「お前ら! 相手は馬鹿丸出しな奴らだ! 負けんじゃねぇぞ!」


「おおっ!!」


 喝を入れられたことで、歩兵は落ち着きを戻し、敵に立ち向かっていった。


「バウッ!」


「うおっ!?」


 バーンは先程倒した敵兵が乗っていたガウに、噛みつかれそうになる。


「ただのお利口さんじゃねぇのかよ!」


 主人を失ったガウの攻撃をいなしながら、文句を口に出した。


「――くっ。流石に戦わないとか」


 カショウは槍を引き抜き、迫ってくる敵に槍先を向けた。


「テメェがケムリを出してた奴だナ!」


「もう妙な技は使わせないゾ!」


 2人の敵兵が、ガウに乗って襲いかかってきた。

 が……。


「ほっ」


 素早く2回、槍を突き出した。

 その突きは2人の体を、ガウ諸共貫通した。


「ふぅ。早く全員やって、また槍を刺さなければ……」


 槍が刺さっていた場所からは、霧の発生は止まっていた。

 どうやら槍を刺し続けなければ、霧は次第に消えてしまうようだ。


「――ハハッ! それ以上霧は出させねぇヨ」


 そう言って近づいてきたのは、ケビルドンだった。


「ん? あー。アンタがケビルドンね」


「その通リ。このケビルドン様ガ、1番強いお前を殺ス」


 ケビルドンこの西の軍の中では、カショウが1番と見破った。


「1番強い? そんなに強くないけどね」


 カショウは槍をクルクル回して、一歩前に進んだ。


「まあこの際どのくらい強いかは関係ないか……」


「アア?」


「勝った方が強い。それだけだし」


 口角を上げたカショウに対し、ケビルドンは額に血管を浮かべた。


「ぶち殺ス!」


 こうして、カショウ対ケビルドンの戦いが始まった。




◇ ◇ ◇




「――右からも左からも声が聞こえてくる。向こうも始まったか……」


「領主様! もう少しで騎兵を一掃できます!」


 南の方角は、順調に戦を進めていた。

 騎兵ももう少しで一掃できるとこまで来た。


「ああ……。負傷者はいるか?」


「はっ! 10人程の重傷者が! 壁の中にいる人たちが運んで処置を行っていますが……」


「そうか……。よし。切り替えよう! 相手はまだ火で止まっている! 一刻も早く騎兵を仕留めるんだ!」


「はっ!」


 歩兵に指示を出し、気持ちを切り替える。


「――うわあっ!?」


「ッ……!」


 声のした方を見ると、こちらの歩兵が倒れており、敵の騎兵は槍を構えていた。


「トドメだぁ!」


「やめっ…………え?」


 さっきまで槍を構えていた敵は、馬上からズルッと地面に落ちた。


「――大丈夫かっ!」


「りょ、領主様!?」


 危ない。

 間一髪間に合った。


「怪我はないか?」


「ぼ、僕はいいですけど……!」


 倒れた歩兵が目線を向けたところには、血まみれで倒れた別の歩兵がいた。

 俺はこの歩兵をた助けたように、とんでもない速さで駆け付けた。


「――おいっ! 大丈夫か! おいっ!」


 倒れていたのは、少し年をとったおじさん兵士だった。

 右の脇腹に槍による穴が開いており、血がどんどん流れてくる。

 優しく体を揺すり、声をかける。

 そうしてると、先程の歩兵も駆け寄ってきた。


「――うっ」


 少し反応が見えた。

 俺は急いで、風魔法【憩いの笛】を使って、出血を抑えた。


「りょ、領主様……?」


「喋るな。すぐに運んでやる。そして処置を受けてもらうぞ」


「ハハッ……。もう助かりやしない。ゴフッ」


 歩兵は吐血した。


「領主様!」


 立っていた歩兵は俺に向かって叫んだ。


「分かってる! すぐに運んで――」


「違います! あれを見てください!」


「え……?」


 歩兵に言われた方向に、バッと顔を向けた。


「あれは……!」


 横一直線に燃えている火。

 その真ん中の火が消えている。


 そしてそこに群がる敵兵の先頭にいた男は――。


「ノルチェボーグ……!」


「――フンッ」


「流石ボス! 地面の土をこねくり回して火を消しちまうなんて……!」


「おい……」


 ノルチェボーグは、おだてる部下に、怒気がこもった声を向けた。


「へ……?」


「この俺を使ったんだ。早く殲滅しろ。さもなければ……」


「ひいっ! い、行くぞお前らぁ!」


 恐怖を引き金に、一斉に火が消えた場所を使って、敵兵がなだれ込んできた。


「――クソッ。騎兵は……あと数人か。おいお前。コイツを壁の中まで運んでくれ!」


 その時、俺に抱えられていた歩兵が腕を掴んできた。


「……どうした?」


「貴方様は、私に構っている暇は、ないはず……です」


「何を言っている……!」


 俺を無視して、息も絶え絶えに言葉を繋げる。


「ここで敵の援軍……。貴方様が、声をかけなければ、我々は、戦意を失っ……て、しまう」


「だが……!」


「この戦いの意味が分かっているのか!」


 急に大声を上げ、俺の胸ぐらを掴んできた。


「取捨選択を……見誤ってはいけま……せん」


 再び声が落ち着く。

 と同時に、迫ってくる敵の音が大きくなってくる。


 ――人は何を得て、大人になるのか。


「我が考えるのは……」


 ゾルタックスは、ルシアのこう言った。


「……」


「――捨てる覚悟」


「捨てる覚悟……?」


 ルシアはオウム返しをした。


「子供の時遊んだ玩具。人形。大事に育てた花。少し暴論だが、必ず捨てる時が来る」


「つまり何が言いたい……?」


「その捨てるのが、仲間だったらどうする?」


「それは……」


「それは?」


「時と場合によるが、見捨てることの方が多い。戦場とあれば」


「それが我が主にはできないんだよ」


「それはリンドラ様が……」


「優しすぎるんだよ。我が主はな」


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