第47話 全方向開戦

 ※謝罪

 ここまで読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。

 申し訳ありませんが、少しこれからの展開について、兵の数を細かく数字で出すのをやめさせてもらいます。

 ちゃんと計算して書いていたのですが、細かい数字はそこまで重要ではないと思い、これからは書きません。

 と言いつつ、このあと少し出します。

 細かい数字は、重要な所だけ出していくので、ご理解のほど、よろしくお願いします。




◇ ◇ ◇




「――このゾルタックスが、貴様らを地獄に送ってやる」


 ゾルタックスはそう言い放った。


「――まさかアイツが俺らの敵か……チッ」


 カロンは前線の荒れようを見て舌打ちをした。


「俺が出るか?」


 バートはカロンの顔を覗き込んできた。


「ああ。いきなりお前を出すことになるとはな……」


 カロンは少し悔しそうな表情をして、バートに出撃を頼んだ。


「任せといてくださいよっと」


 バートはやれやれという仕草をして、兵をかき分けて前に走り出した。


「何人かバートについていけ」


 周りにいた数人の歩兵にも声をかけ、バートの援護に行くよう言った。


「……まだ何か隠しているか?」


 まだ隠し玉があるんじゃないかとカロンは疑っていた。


「いや……。判断を迷うとこちらの兵が減っていくだけだ。お前ら!2手に分かれて前進しろ!」


 即座に歩兵に指示を出して対応した。

 もうまともに方向転換ができない騎兵には、新しい指示は出さなかった。




◇ ◇ ◇




「――むっ。歩兵が左右に動くぞ」


 ゾルタックスは軽々と騎兵を倒しながら、後方の歩兵に動き出したのが見えた。


「ほら。出番だぞ」


 ゾルタックスがどこかへ喋りかけると、背後からある男が出てきた。


「――貴様に言われなくても見えている!」


 剣を片手に出てきたのはルシアだった。

 衣装はいつもと違い、軽い装備を身に着けている。


「まあ目の前にいるのは最初でケリをつけようとした騎兵だろうな。それを我に止められたから、我を底に留めている間に、軍を横に広げて進軍するか」


「2分の1か……」


「安心しろ! 少し時間を稼いでくれるならば、援護に向かってやろう!」


 ゾルタックスは、迷っているルシアに、煽るようにそう言った。


「フッ。貴様の方こそ。死にそうだったら、強がらずに助けを呼ぶんだな」


 ルシアも煽り返し、後方の兵たちの中に姿を消した。


「――フゥ……。ハッハーッ! 全員我が真っ二つにしてくれるぞ!」


 ゾルタックスは一呼吸置くと、まだ向かってくる騎兵の集団に、部下を連れて突っ込んでいった。


「――歩兵第2軍聞け!」


 後方に下がったルシアは、東の第2軍の歩兵たちに声をかけた。

 基本ゾルタックスが率いる第1軍と、ルシアが率いる第2軍と、事前に軍を分けておいたのだ。


「敵軍の半分を占める歩兵が2手に分かれ、左右に動き始めた!」


「(……確実に見極めるために、ここは――)」


「こちらも2手に分かれるが、私と、ここにいる私の直属の部下8名は、別行動を取る!」


 そう言うと、第2軍がざわざわと騒ぎ立てる。


「私がいなくても心配するな! この第2軍が敵の猛攻を耐えた暁には、このルシアが、東の戦いの勝利を届けると約束しよう……!」


「――おっ」


 一瞬静まり返った後――。


「うおおおおおおっ!!」


 一斉に皆が雄たけびを上げた。


「――やってやる!」


「――どうせ不利な戦いなんだ! これぐらいなんてことない!」


 どうやら元々士気は上がっていたらしい。

 ルシアがいなくなると、一瞬不安になったが、ルシアの真っ直ぐな瞳で『勝利を届ける』と言われ、一気に不安が吹き飛んだのだ。


「(この士気を保ちさえすれば……!)」


 第2軍は盛り上がりを見せ、2手に分かれ始めた。




◇ ◇ ◇




 西の方角――。


「――はぁ。よりにもよって西の兵を少なくするとはなぁ」


 そう嘆いていたのはバーンだった。


「戦う前から不安にならないでくださいよ~」


 そんな姿のバーンを見て、カショウはしっかりするよう言った。


「逆になんでアンタは余裕そうなんだよ……」


 バーンが不安になるのも無理はない。

 西の方角から攻めてくるケビルドンの軍は、3つの軍の中では兵の数が少ない。

 それに合わせてこちらも兵の数を調整しているのだが――。


「――だってほとんどが弓兵なんだぞ?」


 そう。

 歩兵はバーンやカショウを合わせ、十数人しかいないのだ。


「大丈夫ですよ。その弓兵を活かすために、全員壁の中に入ったんですから」


 後ろを振り返ると、近くにあった家の屋根上に、多くの弓兵が上っていた。


「まあ、どうせ敵は全員ガウに跨ってるし、あくまで防衛戦を徹底した方がいいんだろうが……」


「もし壁を乗り越えてきても、俺らがいるし? だから大丈夫~」


「どこから来るんだその自信は」


 親指を立ててグッとポーズをするカショウに、バーンはツッコんだ。


「――ワオオオオンッ!!」


 そんなことをしていると、壁の外からガウの雄叫びが聞こえてきた。


「――あっ! 敵が動き出しました!」


 屋根上にいる弓兵の1人が、前を指さして叫んだ。


「来たかっ……! 弓兵構えろ!」


 バーンが弓兵に指示を出すと、弓兵全員が弓矢を構えた。


「よし。一斉に――」


「――ダメです! 射程圏外です!」


 バーンが一斉射撃の合図を送ろうとすると、弓兵の1人がそれを止めた。

 どうやらまだ、敵は射程圏外の位置にいるようだ。


「何ッ……!?」


「うーん。どうやらたれる前に速度を上げて、突っ込んでくるようだね」


 カショウの読みは、ガウの走る速度を最大まで高め、その状態で矢の雨を潜り抜けるつもりらしい。


「クソッ! 俺も上から見る!」


 バーンも空いている屋根上によじ登る。


「――はっ、速すぎるだろ!」


 屋根上から壁の向こう側を見たバーンは、ガウの余りにも速い走りを見て驚いた。


「――そろそろ射程圏内入ります!」


「おっおう! 弓兵っ、構えろ!」


 バーンは、慌てて一斉射撃の指示を出した。


「(あの速度。この射撃も含めて、2回しか射てなさそうだな……)」


 不安を感じつつも、バーンは大声で――。


「――放てぇ!!」


 合図からしばらくして、ケビルドンの軍に、矢の雨が降り注いだ。

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