第33話 信用


「な、何だこれはっ!?」


 ルシアが示した方向に目をやると、広大な畑に、色とりどりの植物が植えられていた。


 想定よりも広くないか?


「現在、採集してきた植物を16種類育てています」


「16種類も!? 想定だと8種類ほどだったが……」


「畑に詳しい人たちによると、採ってきた植物は非常に育てやすく、収穫の周期も早いため、畑の土地を拡張しました。これでこの居住区の人たちには十分すぎるほどの植物が収穫できます」


「す、凄い……」


 マジかよ。

 1ヶ月でこんなにも発展できるの?


「こちらは仕事とは違い、民が交代制で畑の手入れをしています。余裕ができれば、交易の為に大量生産する予定です」


「一般的な野菜とは違うけど、売れるのか?」


「栄養価も高いらしいですし、何より新種の食材は人気が出ると思います」


「そうか。まあそのうち考えるか」


 これ以上は脳がキャパオーバーしそう。

 そんな経験したことないしな。

 ゲームみたいな感覚でやっていこう。


「あとは屋敷周りについて案内したいんですが……」


「ん? どうした?」


 ルシアは歯切れが悪くなった。


「ゾルタックスのことなのですが――」


「勝手に訓練場を建てた……?」


「はい。今現在も訓練しています」


 そう言われた俺は耳を澄ましてみると、屋敷の方から叫び声のようなものが確かに聞こえてくる。


「ひ、費用は?」


「えー、ゾルタックスとその部下たちで盗賊のアジトを5つ程潰しまして、その盗賊たちが持っていた財産で建てました」


 盗賊が少なくなったのはいいことだが、まさか全額ぶっ込んだのか?


「リンドラ様が手に入れた地図を有効活用し、水路などを確保できたのですが、盗賊のアジトの場所も把握できたので、念の為伝えておいたのですが……」


「勝手に潰しに行ったと」


「はい。腕がなまってしまうからだと帰ってきてから言っていました」


 まあ姉の話だと、近いうちに戦争が起きるかもしれないと言っていたし、兵の力を衰えさせてしまうのも良くないか。

 そう考えたら、訓練場の建設はいいことなのかもしれない。


「まあ兵力があれば、民は安心できるからな。構わない」


「それもそう……ですね」


「どっちにしよ、この目で見てみたい。案内してくれ」


「はっ!」


 帰ってきたことも知らせるため、ゾルタックスがいる訓練場に向かった。




◇ ◇ ◇




「――ハァッ!」


「――せいっ!」


 訓練場に辿り着いた。

 屋敷から西に、やや離れた場所にある野外訓練場だ。

 簡単な柵で囲われている訓練場は、外から丸見えであった。


「賑わっているな」


「ええ。外から見える通り、木で作られた武器による模擬戦、的を狙った弓術の習得など、幅広い訓練をしています」


 模擬専用の武器、場所の整備、様々な器具か。

 かなり費用が掛かっているな。


「――おっ! 我があるじではないか!」


 外から眺めているこちらの様子に気づいて、ズンズンと近づいてきたのは、全身甲冑を着たゾルタックスであった。


「ただいま戻ったぞ。というかいつでも着ているんだな。その甲冑」


 今思えば、ゾルタックスの顔を見たことがなかった。


「ハハハッ! 我が顔を見せる時は、死ぬ時以外ありえん!」


 顔に何かあるのか?

 まあこの感じ、無理やり見たらあの斧で真っ二つにされるだろうし、ほっとこ。


「……それにしても、よくこんなの造ったな」


「我々の本分は騎士団として、この領地の為に戦い、民を守ることだ。その為には日々訓練だ」


「まあいいけど、次に何かする時は報告してくれ。報告書になかったぞこんなこと」


「すいません。自由にさせてしまった私の落ち度です」


 後ろでルシアが謝った。


「ハハハッ! 気にするな!」


「貴様のせいだろうが!」


「まあまあ……」


 この2人はいつか喧嘩しそうだなぁ。


「ん? そういえばカショウがいないな」


「あ? ああ、アイツは温泉だか何だかで忙しいって訓練に全然顔を出さねぇ」


 確か温泉に詳しい知り合いがいるとか言ってたけど、手伝ってるのか?


「分かった。たまには訓練場に顔を出すよう伝えておく」


「感謝する。では、そろそろ訓練に戻るのでな、土産話はまた夕飯の時に聞くとしよう」


「ああ。楽しみにしていてくれ。皆も励むように!」


「はいっ!!」


 訓練中の兵士に声掛けをする。

 兵士たちは全員訓練をやめ、声を揃えて返事をした。


「行くぞルシア」


「はいっ!」




◇ ◇ ◇




 自分の部屋に戻った俺とルシア。

 温泉の状況も把握したかったが、外からも見えないようになっており、作っている人たちからも完成まで待っていてほしいと言われた為、この部屋に戻ってきた。


「これから何をしていくか……」


 ルシアに尋ねるようにも、独り言のようにも聞こえる。


 やることはいくらでもあるんだけど……。

 何から手をつけるべきなのか……。


「そのことなんですが……」


 ルシアが書類を取り出した。


「先月、オンドレラル居住区からの張り紙が見つかった日から、何回も訪問してきました」


「じゃあこの書類は……?」


「その居住区の人口、家族構成などの把握から、必要な食料や水の量。こちらに引っ越すことの提案の返答を記してあります」


「……全体的に反対か」


「はい……」


 この書類を見るに、あまり会話もしたくない感じだな。

 借りを作ったら後々面倒くさいことになると思われてるなこれ。


「どうすれば信用してもらえるだろうか」


「人の心を読むのは至難ですからね」


「一度この居住区を見てもらうとか?」


「なるほど……。この光景を見れば我々を信じてくれるかもしれません」


「でもどうやって見せようか?」


 おいでよコソ居住区! って訳にはいかないよなぁ。


「偵察のような形が一番ですが……」


 偵察……。

 素の姿を見せるということか。


「あっ!」


「何か思いつきましたか?」


「こういうのはどうだろう――」

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