第30話 情報屋


「……チッ」


「フッ……」


 結局俺たちの馬車に乗せてしまった……。


「ん……」


 スーは気にせず寝ている。

 ややこしくなるしいいか。


「それでお前。乗せてやったけど、どこに向かうつもりだったんだ?」


「どこに向かうかと言うより、会いたい人がいるんだ」


「さっき言った奴か?」


「そう。ドラゴンの卵を盗もうとして王族の権威を没収された面白い奴。一目見てみたいだろ?」


 ニヤッと笑みを浮かべてそうおいった。

 いざ顔を見てみると、右目の下に『?』のマークのシールが貼ってあった。

 髪の色は金髪で、ショートヘアだ。


「世間じゃ有名なのか?」


「いや全然。だって隠蔽されているからね。修行の旅に出たって」


 まあ次男の俺が、民に顔を出す機会はほとんどなかったから、辺境の土地の領主になってても噂にならないか。


「そうか……」


「何か思い当たることでも?」


「……別に」


 こういう時って、とっととバラした方がいいのか?

 実はソイツの正体俺でしたーって。


「それにしても、君たちがあのサイハテ領に向かっているとはね」


 いや、もう少し様子を見るか。

 どう見ても怪しいし。


「用事でな」


「あの廃れた領地にかい? あそこじゃ商売もまともにできないよ」


「へぇ……」


 面倒くさいし適当に流しとくか。


「村は廃れて、全部で34の居住区に分かれてしまったし」


 ん……?


「盗賊の中でも規模が大きいのが4つ程ある」


 ちょっと待て……?


「湖の中心にある大監獄には、優秀な人材が――」


「ちょっと待った!」


「ん? どうかしたのかい?」


「サイハテ領の情報、どこまで知っている?」


「……」


 俺の食いつきようを見て、カズキは姿勢を変えた。


「さあね。何より、君に教えても意味ない――」


「俺がサイハテ領の領主だからだ」


 カズキの目が一瞬見開いた気がした。


「へぇ……」


「俺の領地のことを詳しく知っているとはな。情報屋というのは本当らしいな」


「こんな情報、いずれ分かることだろう。にしても、リン君が領主とはねぇ。その若さで」


「……」


「普通は前領主の後継者がいるはずだが、その前領主は結婚もしておらず独身。そして夜逃げのような形で行方不明になった。となれば、代わりの貴族が領主に後任されるはず。だがこの辺境の廃れた領地に行きたがる者はいないだろう。だったら不祥事を起こした貴族に擦り付ければいい」


「――推理は止めろ。どうせ知っているんだろう?」


「フフフッ。妙に落ち着いてるね~。元ガイザー王国、第二王子のリンドラ様?」


「今更様付けはやめろ。気持ち悪い」


「ごめんごめん。じゃあリンドラ君か。最初は焦って偽名を使ったようだけど、全部知ってたんだ」


「じゃあ最初からあそこで俺を待っていたと?」


「そういうことになるね」


 ストーカーかよ。

 シンプルに怖い。


「目的は? 俺に会ってどうするつもりだったんだ?」


「商売さ」


「……俺に情報を売ると?」


「その通り。あの廃れた領地を復興させるための情報を売ってあげるよ」


 有益な情報をくれるのは嬉しいが。

 どうせお高いんでしょう?


「そうだなぁ。最初は安めで……銀貨50枚でいいよ」


 あ~銀貨50枚ね……。


「高ぇよ!」


 銀貨50枚で安いだと!?


「おいおい。こっちはご近所付き合いの話をしているんじゃないぞ? 場合によっては、死に物狂いで情報を調達することだってあるんだ」


 確かに、敵国の情報を得る場合は危険かもしれないが……。


「……今すぐか?」


「後払いでも構わないよ」


 払うの後回しにすると利息がつきそうだな。


「じゃあ……後払いで」


「よし。商談成立だな」


 カズキは、どこから取り出したか分からない四角いカバンを開けると、3つの封筒が入っていた。


「この中から1つ選ぶんだ」


「……」


 ポ〇モン?

 何?

 銀貨50枚からの運要素あるの?


「――右で」


 少し悩んで、俺から見て右の封筒を選んだ。


「これだね?」


 カズキは選んだ封筒を手に取り、俺に確認する。

 すると他の封筒は一瞬でカバンごと消えてしまった。


「はい。どうぞ」


 封筒を手渡された俺は、丁寧に封を開けていく。


「これは……」


 封筒の中には、1枚の紙が入っていた。


「さあ。何が書いてあるかな?」


「なになに? 『人の涙は、感情によって味が変わるらしい』だと……?」


「そう書いてあったのかい?」


「凄いねぇ初めて知ったわ!」


 コイツ殺す。


「ちょっとちょっと~。その抜いた剣しまってよ」


 カズキはお手上げのポーズをした。


「この内容で銀貨50枚とはいい商売してるなぁおい」


「ちゃんと中身見たの?」


「ああ見たさ。ちょっとへぇってなったけど――」


 再確認するよう紙に目をやると、細かく丁寧に作図されている地図になっていた。


「え? 地図になって……え?」


「ダメだよ言いがかりは。僕はその封筒には、今現在のサイハテ領のすべての居住区。盗賊のアジト。地形を詳しく記した地図を入れてあったんだ」


「コイツ……」


「まあ気にしないでくれよ。普段から文句は言われ慣れているから」


 コイツ詐欺罪であの大監獄に収監できないかな。


「――おーい。そろそろ森を抜けるぞ」


 おじいさんから森を抜けると声が入った。

 この森を抜ければ、もう少しでコソ居住区に着くはずだ。


「ふぅ……」


 俺は剣を鞘に収め、地図も封筒にしまって荷物に入れた。


「金を渡したら地図が消えるとかはやめろよな」


「大丈夫大丈夫。そこの一線は越えないようにしているから」


 本当かぁ?


「まさか信用してないわけ?」


「当たり前だろ」


「ハァ……。まあお金を貰ったら消えるから安心しなよ」


 こういってるが、何があるか分からないので、屋敷に着くまでの間、カズキから目を離さないようにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る