第15話 瞬殺


 屋敷で、アキが光魔法を使っている頃――。


「――今日の夜攻め込むんすね? ゴドルー様」


 身長が低い男が、ニヤニヤしながらそう言う。


「ああ。今日の夜。全勢力で潰す」


 この金品ばかりを身につけている胡散臭そうな男が、この盗賊のボスのゴドルーである。


「ですが、先日攻めに行った奴らの帰りを待たないでいいんですかい?」


「ああ。アイツらは多分失敗して殺されたか、監獄にぶち込まれただろう」


 正解。


「じゃあ危険なんじゃ?」


「普通なら、時間を置いて偵察などを行うはずだと相手は思ってる」


 正解。


「つまり相手の裏をつくと?」


「多分今頃復興作業とかでヘトヘトだろうからな」


 正解。


「今回の領主は魔法も使える強い奴ですけど……」


「結局領主が最も疲れてるはずだ。徹夜をしないといけない程に俺らが搾り取ったんだからな」


 正解。


「まっ、守銭奴の俺が、アジトを放って攻めてくるとは思うまい」


 正解。


「どうせ大した戦力は残ってねぇよ」


 不正解。


「確かに、こんな辺境の土地に強い奴が派遣される訳ありませんもんねっ」


 不正解。


「こんな辺境の土地の領主に、ツテがある訳ねぇよ! ガハハッ!」


 大不正解。

 異分子混入。

 待つのは死。


 とんでもない化け物が向かってきていることを知らないゴドルーは、大声で笑うのであった。




◇ ◇ ◇




「すまん。姉が迷惑をかけた」


 皆が仕事に戻る中、ザカンとルシアに謝罪をした。


「そ、そんな頭を下げないでください!」


「そうですよ! リンドラ様が来なければ私は確実に死んでいましたし……」


 ザカンとルシアは頭を上げてくれと懇願する。

 そう言われて俺は顔を上げた。


「やっぱりそう思うかルシア」


「は、はい……。私じゃとても敵いません」


「そりゃそうだ。俺だって手も足も出ないだろうな」


 1回戦いを挑んだことがあったが、その時はタコ負けした。

 それ以降、姉は戦うことを拒んでいる。


「しかし、盗賊相手に単身で……。いくら強いとはいえ、大丈夫でしょうか?」


「まあ大丈夫だろ。俺が知る限り、最強の剣士だし。昔から俺がお願いしたことは全部やり切ってくれたし」


 と言っても、全部子供の時のことだ。

 我儘を言っていた訳ではない。


「よし。帰ってくるまでに手土産を用意しておいてくれないか。多忙の中申し訳ないが」


「いえいえ。リンドラ様の指示とあれば……」


 ザカンはそう言い、すぐに屋敷に戻っていった。


「ルシアの方はどうだ? 順調か?」


「はいっ! もう3分の2は終わっています」


「流石だ。終わったら資料と一緒に報告してくれ」


「はいっ!」


 ルシアも、走って屋敷に戻っていった。


「さて俺は――」


 俺は出かける前に話した、3人の男たちに会いに行った。




◇ ◇ ◇




「おいお前ら! 今日は酒を飲むなよ!」


 ゴドルーたちは危機が迫っている中、襲撃の準備を進めていた。


「クックックッ。これで領主を殺したら、もう一度居住区の奴らを奴隷のように使って――」


 ゴドルーの話が途切れるようにドンッ! という爆音が響いた。


「な、なんだ!? 何が起こった!」


「ゴ、ゴドルー様!」


 あの背が低い男がゴドルーのいる部屋に駆け込んできた。


「どうした!」


「し、侵入者です!」


「侵入者だと!?」


「(まさか襲撃に気づいて、先に仕掛けてきたか……!)」


「数は!」


「それが……」


「どうした? 思ったより多いのか?」


「……1人です」


「は?」


「たった1人……だと?」


「はい。しかも女です」


「ガーッハッハッハ! 何だそんなことか!」


 ゴドルーは緊張が切れたように笑い声を上げた。


「よし! 全員で捕らえろ! 可愛がってやる……」


「たっ、たった今全員やられました……」


「……え?」


「瞬殺です」


「…………え?」


「なんなら今部屋の前まで来――」


 その瞬間、ドカっと部屋に扉が破られた。


「な、何者だ!」


 壊れた扉から姿を現したのは、もちろんアキだった。

 剣を片手に、澄ました顔をしている。


「――貴様がゴドルーだな?」


 アキは剣先をゴドルーに向けてそう問う。


「だったら何だ!」


「(あの甲冑は相当綺麗で豪勢だな。つまり相当な強さ……)」


「リ……この地の領主に頼まれ、お前を倒しに来た」


「(新しい領主は元々高位の奴だったのか……!)」


「ちょっと待った。1つ提案をしてもいいか?」


「提案だと……?」


「(何とか言いくるめるしかない……)」


「お前は雇われている身なんだよな?」


「……まあそういうことになるが、実際はもっと親密な――」


「だったら! 俺が依頼金の倍以上を出そう!」


「……」


「その領主は残り僅かの財産を使ってお前を雇ったんだ。お前が俺を倒したとしても、あの土地には未来はない」


「……未来、か」


「(あと一息ッ!)」


「俺にビビってわざわざお前みたいな強い騎士を雇うくらいだ。肝っ玉に小さい領主に違いねぇ」


「……は?」


「そんなビビりで弱ぇ領主が頑張ったとこで、このサイハテの土地が良くなるわけがねぇ。だったら俺に雇われるべきだ。金ならたんまりあるから――」


「貴様ッ!!」


 アキが鬼のような形相になる。


「ひっ……。だ、だがっ! この領地に未来はねぇだろ!」


「(クソッ、流石に高位の騎士には通じないか……!)」


「私の弟をバカにしたな!」


「あ、そっち? ってか弟って……」


「私の大事な可愛い弟をバカにしたこと……」


 アキは一瞬にしてゴドルーの眼前に移動した。


「――万死に値する」


「ちょ、ちょっと待っ――」


 喋る隙も与えず、アキはゴドルーを斬り伏せた。


「ひ、ひぃっ!」


 その様子を見ていた背が低い男は逃げ出したが、部屋を出る前に体が真っ二つになった。


「――討伐完了」


 アキは剣に付着した血を拭き取り、鞘に収めた。


「リン。喜んでくれるだろうか?」




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