第2話 問題は増えるばかり
「着きましたよ。起きて下さい」
「嫌だ! 夢だこれは!」
「現実です。起きて下さい」
俺は特に盗賊に襲われることなく、領地の中心にある館へ辿り着くことができた。
がしかし……。
「外チラッと見たけど何あれ! とても人が住んでるようには見えないくらい生気がなかった!」
「残念ながら、これが現状です。じゃあ頑張ってください。私はここまでです」
「え? ちょっ!?」
荷物とともに馬車を降ろされた俺は、屋敷の前にポツンと立っていた。
「と、とりあえず入るか……」
誰も迎えに来なかったので、自分から屋敷に入ることにした。
「――誰かいますか〜?」
大きな扉を開け、屋敷の中に入る。
思ったより綺麗だな。
ということは人がいるのか。
「んんっ! 今日からサイハテの領主になることになったリンドラである! 誰かいないか!」
屋敷に響く大声で叫んだ。
舐められないよう、強気にいかないとな。
「は、はい! ただいまー!」
どこかから駆け寄ってきたのは、スーツを着たおじいさんだった。
丸眼鏡に白く長い顎髭。
執事長だろうな。
「ようこそおいでくださいました。このサイハテ領へ。私、執事長を務めています。ザカンと申します」
ザカンと名乗る男は、深々と頭を下げた。
「ああ、よろしく頼む。それで、他の使用人はいないのか?」
「えーっと……」
ザカンはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「まさかいない……のか」
「……はい」
「がっ……」
「申し訳ありません。前の領主様がいなくなると、クモの子を散らすように……。し、しかし、私1人でも領主様のお役に立ててみせますよ!」
「あ、ありがとうザカン。とりあえず、荷物運ぶの手伝ってくれる?」
どんどん現れる問題を整理するためにも、とりあえず荷物を運ぶことにした。
◇ ◇ ◇
「ありがとうザカン。助かった」
「いえいえこれしきのこと」
荷物を領主の部屋に運んでもらった俺は、大きな机を前に椅子に座った。
横には自慢の剣を立てかけてある。
さて、この領主の部屋を堪能したり、屋敷を見て回る前にやることがある。
「ザカン。サイハテ領の地図はないか?」
「は、はい。今持って――」
「おいゴラあっ!」
「え?」
突然、玄関から荒々しい男の声が聞こえてきた。
「き、来てしまった……」
ザカンが肩を震わしている。
え? 何? カチコミ?
「ここかぁ?」
足音が部屋にどんどん近づいてきた。
「誰か来たのか?」
「と、盗賊ですよっ」
「盗賊……盗賊!?」
来るのが早えよ!
「オラッ!」
部屋の扉が開け放たれたと思うと、4人組の男たちが入ってきた。
その後ろには少女が1人いた。
「どうもぉ。新しい領主様よぉ」
1人前に出てきた男は、体が大きく、右手には剣を握っていた。
全員の格好を見る限り、盗賊というのは本当っぽいな。
「人の屋敷にズカズカと入ってくるとはな」
「ああ? そんな態度取っていいのかぁ?」
男はこちらに剣を向けてきた。
「そう警戒すんなって。前の領主みたいに俺たちの言うこと聞いてれば、命までは取らねえよ」
御者の言っていたことはこういうことね。
国へも金を納めなければいけない上に、コイツらにも納めないといけない。
そりゃ廃れるわ。
ってか盗賊なのかそれは。
「じゃあこれから説明させてもらうぜ。これからお前にやってもらうこと。まず――」
「その前に、1ついいか?」
「フッ、いいぜ。これが最初で最後の質問だ」
とりあえず話を長引かせて、何か対抗策を考えなければ。
「後ろに引き連れている女の子は何だ?」
小柄で、金髪のショートカットが目立つ女の子だった。
しかし、顔には痣のようなものがあった。
服もボロボロだし、何より生気を感じない。
「ん? ああアレか。来る途中で貰ったんだ」
「貰った?」
「肉付きもいい女だ。ちと小さいが、遊ぶ分にはいいと思ってな」
「……親はどうした?」
「ああ、寝込むくらい弱ってるのに抵抗してきたから、静かにさせといた」
男はニヤアっと笑った。
後ろの3人も笑っている。
「……なるほど分かった」
「リンドラ様……」
ザカンは俺に、哀れみのような目を向けてくる。
そうか。
ザカンはこの光景をずっと見てきたのか。
「却下する」
「……は?」
「聞こえなかったか? もうこの領には入って来るなと言ったんだ」
「……プッ、アーハッハッハッハッ!」
4人組の男たちは、全員吹き出したかと思うと、大きな笑い声をあげた。
「聞いたかお前ら! コイツ今――」
「出てけって言っただろうがあ!」
俺は笑い続ける男の胸ぐらを掴み、後ろにある窓から外に放り投げた。
窓は閉まっていたので、パリーンっとガラスが割れる音が響いた。
もちろん男は、地面に向かって落ちていった。
「フンッ。4階から落ちたらひとたまりもないだろ」
「リ、リンドラ様……ッ!」
「てめえ! よくも仲間を!」
残りの3人組も剣を引き抜いた。
リンドラも立てかけてあった剣を引き抜く。
「――来い。俺は剣も魔法も使える」
嘘は言ってない。
魔法は、適性がある者しか使うことができない。
火、水、風、土、光、闇の6つの属性がある。
俺は風魔法を使えることができ、さらにずっと剣術を磨いてきた。
国同士の戦争にも出て、人も殺した。
「剣も魔法も使えるだと? ハッタリだろうが!」
「だったら来いよ」
「チッ、かかれぇ!」
「おお!!」
――結果は瞬殺だった。
部屋に風が巻き上がったと思うと、3人の男は、窓の外に放り出されていた。
「うわああああっ!」
もちろん3人とも地面に落ちた。
悲鳴を聞いたのを確認し、剣を鞘に収めた。
「斬るまでもなかったな」
斬ったら血で部屋が汚れるし、放り出すのが一番手っ取り早い。
「リンドラ様……」
隅で怯えていたザカンが、心配するよう近づいてきた。
「ザカン……。なぜお前はこの領地に残ったのだ?」
「な、なぜそのようなことを――」
「いいから聞かせろ」
「……はい。私はこの領地で生まれ、領主様に長い間仕えてきました。昔はこの領地も賑わっており、この国で一番豊かな領地と言われた時期もありました」
「だが今は……」
「このような状況になってしまい、絶望した人たちはこの地を去りました……。しかし、私はまだ捨てきれないのです。この地が元の豊かな領地になる日が来ると」
「そうか。ならば、俺がその夢叶えてやろう」
「え……?」
「俺がこの地を昔のように、いや、それ以上の領地にしてみせる」
「……」
この気持ちに偽りはない。
本気でそう思っている。
なにより、誰かが悲しむ姿を見るのは嫌だからな。
「ついてきてくれるか? ザカン」
「ッ……もちろんです! このザカン。リンドラ様に一生仕えていきます!」
ザカンは涙を流しながら跪いた。
「ありがとう。君も、ついてきてくれるかい?」
俺は、攫われてきた少女の方を見て言った。
「あっ……」
少女の目には、微かに光が見えた。
「まあ無理に今は答えなくていい。まずは――」
「リンドラー! 覚えてろよー!」
話を遮るように、外から声が聞こえてきた。
窓から見てみると、放り出した4人組の男が、ボロボロな体で走り去っていった。
まあもう来ないだろ。
「しかし、逃がしていいのですか?」
「まあ多分大丈夫だ――」
「あの盗賊は、仲間を引き連れてくると思いますよ?」
「……数は?」
「およそ200人程かと」
お、思ったよりいるな。
「ならば兵士を集めてくれ。いくら廃れているとはいえ、多少はいるだろ?」
「……ほとんどの兵士はこの地を去り、残っている兵士も満足な生活ができておらず、戦えるとは思えません」
「なるほど……」
1対200か。
無理だな逃げよう。
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