スタートぅ

神原 怜士

第1日目 異世界始めました。

「うん。間違い無く異世界転生だな!」


 俺がそう思うのは、俺自身か熱狂的な異世界転生アニメの大ファンだった前世の記憶があった事と、その記憶と自分が置かれた現状からだ。


「はぁー。確かに異世界転生は憧れだったけど、絶対にそれは無いと思っていたのになぁ。」


 フィクションに憧れるのは良くある事、しかし医学の進歩した世界に生きた人間で、自身も医学の道を進んでいただけに、前世の記憶を引き継ぐ事はあり得ないと現実を見ていたはずの人間が、実際に異世界転生したので正直混乱している。


「記憶は脳細胞に刻み込まれるただの現象であって、脳細胞の遺伝子が全く違う異世界で、前世の記憶があるってあり得ない!あってたまるかー。」


 俺の叫びは、空しく野原に響いていく。


「何にせよ、今必要なのは水、食料、そして安心して寝られる拠点だな。このまま何も無い原っぱに居ても仕方ない。前世の記憶と現世の記憶がごちゃごちゃになっているが、少なくともアニメのようなステータス画面を出す事は出来なかった。」


 これも現実だ。しかも装備が最悪だ。布地の服に皮製の靴。所持金無し。記憶によれば、これといった持ち物も無しに家を飛び出したどこかの家の子供という情報。魔法がある…という記憶も無し。


「いやあり得ないだろ!異世界転生に特殊能力チートオプションは必須だろ!?無いのかよ!魔法も科学も無しに生き残れってただの生存競争サバイバル!」


 こんな感じでずっと独り言を続けて無いと、変な動物が湧いてきそうな雰囲気なのだ。しかし、勢いはここまでで、ツッコミネタを出し尽くすと途端に黙々と体を動かしていた。

 体感的に2時間が経つだろうか、記憶は引き継げたのに手荷物は引き継げないため、時計も無い世界で時を確認できるのは前世と同様に日中顔を出す太陽と同じ恒星の光。

 現在の所持品は、おそらく食べられるであろうキノコや雑草。(ちなみにパッチテスト済み)飲料水として小川を発見。


「さて、次は火だな…。」


 火を起こすのに必要なのは燃える物だ。ではどう燃やすか。魔法やアイテムがあればすぐなんだが、ここは地道に摩擦で行う。できるだけ真っ直ぐな木の棒を別の木に擦り付ける。だがナイフも持ってない自分が前世で知っているこの方法を完璧に再現する事は困難を極めた。

 手の皮が剥け血が滲む。時間も知らぬ間に過ぎていく。全身汗だくになりながら

必死で木を擦り合わせた。そしてようやく火が点いた時、辺りは薄暗くなっていました。


 転生して初めて口にした食べ物は、名前もよくわからないキノコ。雑草はそのままでも結構食べられたので、生食で完食した。


「火を起こすのにこんなに苦労するとは思わなかった…。やっぱテレビのようにはいかないんだな…。」


 炎を前につぶやきは最高潮に達する。

 少し長い木の枝を何本も地面に刺し蔓系植物で固定する。それらに土と落ち葉を練り上げた物を少しずつ纏わりつかせる。隙間が無くなるまで続けると、焚き火の暖かさで乾き、少しなら雨を凌げる屋根が完成する。


「今日は…もうこれ以上の作業は無理だな…。」


 マメが潰れ血の滲んだ手はジンジンと痛み、疲労も限界に達する。俺の異世界転生…もとい異世界サバイバルの初日はこうして更けていくのであった。


(ってかマジこれが現実だからな!?)

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