愛結島琉之輔商店 ~パラレルワールドで迷った時は~

五木史人

松の妖精いろは

いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす

「俺は何者?」


「それはあたしも知りたい。ただあたしの知ってる範囲に言えば、愛結島琉之輔とはすべての世界、すべての時代にいる存在。だからこそあなたの意思は、パラレルワールドを移動できるの」


松の妖精の少女、いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす 略して、いろはは説明した。


親指サイズの松の妖精のいろはは、真面目そうな優等生タイプの顔立ちで、人間だったら学級委員長的な位置にいるはずだ。


そして、俺の名は愛結島琉之輔。

前にいた世界では、高等遊民として自宅を警備していた。


「それで俺の始まりは何時だっただろう?」

無数にあるパラレルワールドと言う事は、無数に過去がある。


「どの世界どの時代にも、愛結島琉之輔は存在する。当然始まりも無数に存在する」

「だからさ、本当の始まりの始まり、俺が初めて存在し始めた、始まりだよ」

「難しい事を聞くね。自宅警備員だったのに」

「それは関係ないだろう」


いろはは、

「面倒くさい男」

と呟くと、レジ横にある輪ゴムを指した。


「そう言った意味で、君に始まりはない。

この輪ゴムの様に、今が始まりと思えば始まりだよ。

それでいいじゃないか?」


それで良いのか?


お店の自動ドアが開く音がして、誰から入ってきた。

「いらっしゃいませ」

俺は反射的に対応した。



つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る