一曲、踊っていただけませんか

ハヤシ

一曲

 コンコン、部屋の扉からノックの音が聴こえてくる。

 きっとメイドさんだろう、もう朝ということがわかってしまう。


 「お嬢様、おはようございます。今日で22歳、おめでとうございます。今日の予定は、お嬢様の誕生日パーティーがございます」


 誕生日パーティー、、、あることがきっかけで楽しみではなくなった日。

 そのきっかけというのが、、、両足をなくしてしまったことである。

 その日から、私の姿を見て私を憐れむもの、笑いものにするもの、、、

 心に針が刺さっている気分。

 あんまりいい思い出がない自分の誕生日パーティー。


 「絶対に誕生日パーティーに参加しないとダメかしら?もう22ですし、正直もう祝われなくてもいい歳だと思って、、、」


 「この国のお嬢様です。必ずご自分の誕生日パーティーにはご出席していただきます、ご主人もそう思っていることでしょうから」


 私が話しているにもかかわらず、メイドは私の話を遮って自分の勝手な考えを言う。こんな足のない醜い者に使えたくなければ、使えなくてもいいのに。と私自身も勝手な考えを頭の中に巡らせてしまう。


 「さぁ、お嬢様。今日はお嬢様の晴れ姿を見せる日です、このようなドレスなどいかがでしょうか?」


 メイドが選ぶドレスは、どれも綺麗で、足がない私には丈が長すぎるドレスだった。


 「、、、」


 唯一足のない私でも丈が合いそうな柔らかい色をした緑色を指さした。


 「かしこまりました」


 メイドはそう言うと、他のメイドを呼び、私が選んだドレスに似合う髪飾りなども選んでくれた。私は腕があってもドレスは一人では着替えれない。だから私の着替えはメイド達がやってくれる。




 あっという間に私の体は綺麗な緑色に染まった。

 私がドレスを身にまとったということで、私の誕生日パーティーは開かれる。

 私は、自身のパーティーなのにもかかわらず、広いロビーの端っこで1人じっと、このパーティーが終わるのを待っていた。

 だが、こんな時でも暇な奴がいたのか、私に話しかけてきた男がいたのだ。なんとも言えないくらいに顔はよく、背丈も申し分ない。そんな男が、ただ端っこにいる私に話しかけてきたのだ。最初はまた冷やかしだろうかと思っていた。

 が、しばらく話してみると、その男は隣国の王子だそうだ。なにが目的か分からないが、久しぶりに人と話していて楽しいと、感じた。

 だが、楽しいと思うと時間はあっという間に終わってしまう。

 私の誕生日パーティーは、もう終わりに差し掛かっていた。私はもうちょっと隣国の王子といたいと願ってしまう。だがこんな事を願ったところで、叶わない気がした。私は両足がないのだ。

 誕生日パーティーというのは、最後に近づくとダンスパーティーへと変わるのだ。ダンス、そう私には到底できないような行動。


 胸が苦しくなってしまう。私が足を失わなければこんな事にはならなかったのだ。

 だが、こんなこと考えていてもしかたない。

 私は隣国の王子とこれ以上一緒には居れない、、、私は諦めた。




 「お姫様、よろしければボクと踊っていただけますか?」


 差し出された手を見て私は驚愕する。

 足のない私を見て、さらにはダンスに誘う。

 、、、やっぱり冷やかしだったのか、?

 嫌な思いが脳裏を過る。


 「残念ですが、、私には足がございません、ダンスはどうぞ他の方とでも、、、」


 隣国の王子は私の手を取る。

 

 「ボクは貴方がいいです、足がなくてもボクがエスコートします」


 私は、隣国の王子がなにを言っているのか分からなかった。

 そんなことを考えていると、隣国の王子は私を車椅子から離し、抱きかかえた。


 「え!?あ、、あの!」


 「大丈夫ですよ、落としたりなんてしませんから」


 違う、そうじゃない。でも、嬉しい。もう少しだけ一緒に居られるということだから。


 私は、王子の首に腕を回し、一緒に踊った。




 あぁ、なんて幸せな日だろう。


 足を失ってからは、自分の誕生日パーティーが嫌いだったのに、今はこんな日が続けばいいと思っている。私はどうかしてしまったのか、今が、この瞬間が、幸せである。




 だが、幸せの時間は束の間、もう終わりの時間になってしまった。

 王子は私を車椅子にゆっくりと降ろし、座らせた。

 正直、終わってほしくないが、逆に終わってよかったとおもってしまっている。あのままだったら欲張りになってしまうから。


 「楽しかったわ、、、ありがとう」


 これが最後の会話になってしまう、、、


 「ええ、ボクも充分に楽しめました」


 終わらないで、、、


 「貴方は、私のパーティーには初参加みたいだったけど、、」


 終わってほしくないからか、会話を広げようとする。


 「えぇ、ボクは初めて来ましたよ、生まれつき体が弱くて、、なかなか外出を許してもらえなかったのです、ですが最近は体調がよくなってきていて、それで今日は貴方のパーティーに参加してみたんです」


 意外だった、私を持ち上げられるくらい元気なのに、生まれるつき体が弱いだなんて、、、


 「それでもボクはもう余命が宣告されているんです」


 一気にどん底に突き落とされた気分になった。

 こんなにも体調は回復しつつあるのに、余命宣告。


 「、、、そ、うなの、、一体どのくらいなのかしら、、?」


 失礼気周りないことは確かである。だがあまりにもこれはひどく思えてしまう。それに幸せな時間をくれた人だ、余命までにはお礼をしたい。

 つくづく私はズルいやるなのかもしれない。


 「、、、宣告では、もう3日もないかもしれないといわれています」


 3日、、、


 「3日で、、、もし、、3日で私にできることがあるなら、貴方の為にやりたいわ」


 その言葉を言った瞬間に隣国の王子は笑顔になった。


 「では、またボクと踊っていただけませんか?」


 私は嬉しかった。この人の為に何かできるのだと、


 「喜んで、、、貴方のお相手をさせていただきます」


 私は自然と涙が零れていた。王子も少し涙ぐんでいた。


 「ではお姫様?」


 「?」


 改まって何かと思った。


 隣国の王子は、微笑んで私に手を差し伸べる。


 それと同時に音楽が流れ始める。


 「一曲、踊っていただけませんか?」

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