第5話-4 二重瞼
解放された若者たちは疲れていた。とても。とても。でも私たちは彼らを離さなかった。
彼らは更に疲れた。座ることさえ許されずに何があった何があったと繰り返し言わされるの。でも彼らは何も言わない。口に出せない。
だって言っても信じてもらえないことが中では起こっていたんだから。
彼らの周りにはどんどん人が集まってくる。野次馬は何処からともなく湧いて出る。その中には私もいるんだけどね。
中心にいる彼らは動けないで棒みたいに突っ立ってる。真っ白な顔で口を閉ざす彼らに群がるのは酷なこと。距離を詰めて、人一人も置く隙もない場所から教えろ教えろと詰め寄られる。そんな場所、息が詰まる。唾が飛んできそうな距離で口を開かれたくない。でも彼らはその時そうされていた。
誰も止めなかった。彼らの気持ちを蔑ろにして興味を優先させた。
そこまで見ていて、私は何をしていたのかって?
スマホでその様子を撮ってたよ。
距離を置いて、群れに巻き込まれないようにしながらね。面倒事は嫌だから。
後になって理解するんだ。何であの時あんなことをしていたんだろうって。すべきことは他にあったはずなのに。
間違いがとんでもなく大きくなって、取り返しのつかないとこまで来てやっと気づく。気づかない人は本物の愚か者だ。
私はそうはなりたくない。そう言いながらいつも間違える。
でもね、今回ばかりはこの行動がよかったんだよ。善ではないけど、この後起こったことをこうして報告できてる。
まずはね、その閉じ込められたっていう事故だか事件だかはニュースにならなかった。問題はその後。その後のことが大きく報道された。
その場には私みたいな野次馬がたくさんいて、私みたいに現場を撮影してネットに流す、ううん、もしかしたら直接その場から流してた人もいたかもしれない。とにかくその異常な様子がニュースになってしまった。
人がどんどん失神して倒れていったの。
まさにバタバタ倒れていった。
件の若者たちの体力が尽きてとうとう倒れたってことじゃない。彼らに詰め寄ってた関係ない野次馬も含めて、人が倒れていった。
私は少し離れた場所からそれを撮っていた。
何が起きたのか、わかんなかった。
でも離れていたからその異常に気づけたっていうこともあるんだよ。木の葉が散るみたいに、人と人の間が広がっていった。どんどん人が減っていった。そういう風に見えた。
でも違う。立っている人が減っていったんだ。
野次馬は他の人の異常に気づかない。自分のこと優先で周りを見ないから。だから自然に人は減っていった。
音もなく、悲鳴もなく、静かに人は減っていった。おかしいと気づいたのはきっと半分以上が消えた時。
隣にいたはずの人がいない。後ろにあったはずの気配がいない。まるで糸が切れた人形みたいに地面に転がってる。どんだけ無関心なんだか。
群れの中にいた人は何が起こってるのか理解できない。外野から見ている私ですらわからないんだから。理解できないうちにストンと体が落ちていく。
ヤバくないか。そう思いながらも私の足は群れの方へ向かった。だって気になるじゃない、何が起きているのか。もちろんスマホで撮影しながら。
私は近付いていった。人はどんどん倒れていく。まだ立っている二人の側まで行った時だった。一人は私に背を向けていた。その人を挟んで男の子が私の方を向いた。
若者だ。きっと何か知っている。私は彼に何が起こっているのか聞こうとした。でも無理だった。
こっちを見た彼の表情が、驚きから絶望へと変わった。そして次の瞬間、彼は倒れた。
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