第5話-3 二重瞼

ほんの数日前の話だよ。


街のショッピングモール、その何処かに閉じ込められた若者たちがいた。それは一晩だけのこと。一晩経って店の鍵が開けられて、シャッターが上がった時にその人たちは初めて解放された。それまで彼らはずっと密室の中。

私、そのモールの中にある店でアルバイトしてたんだ。たまたま朝一からシフトが入っている日で、その人たちが出てくるのと丁度鉢合わせをした。本当に偶然だった。

後から知ったことだけど、その人たちに共通点はない。初めて会った赤の他人。年齢は大学生くらい。

本当に知らない人たちだったらしい。出身地もバラバラだし、性別も適当な数。なんにも関係なんてない人たち。

でも彼らは其所に集まった。


どうしてあんな所にいたのか。その質問に彼らはみんな同じように答えた。


「パーティーに招待されたんです」


知らない誰かから送られてきた招待状。彼らはスマホを操作しながら言った。でも一人だって件の招待状を見せることのできた人はいなかった。

実際に其所でパーティーなんてものが催されるはずだったのか。招待状もない、主催も誰かわからない。結局真偽を証明する方法なんてなかった。

でも、確かに彼らは一晩其所にいて、朝解放された。それは事実だよ。

出てきた彼らの顔は朝だっていうのを抜いても疲れきっていた。中で何があったのか誰も話さない。でも当事者じゃない私たちは知りたい。何があったのか。

若い男女が一晩密室の中。何もなかっただなんて思えない。私たちは何かがあったというニュースを聴きたかった。彼らの不幸を望んだ。

だって他人事なんだから。終わって、解決したことなんでしょ? だったら聞かせてよ。

彼らの疲れた顔から何も察することもしないで、野次馬は詰め寄った。教えろ、教えろ。

警察も事情聴取だとか言って無下にする。朝からのお仕事だもん。お子さまのやっちゃった事件の始末なんて面倒くさいよね。


つまりね、彼らは家に帰れなかったの。

とっとと帰って全部忘れて眠りたい。中で何があったか知らないけど、一晩も他人と一つの空間にいるなんて息が詰まる。

私だったら息が止まる。同じ空気を吸い続けたくない。だって何にも知らない人たちなんだもん。キモチ悪いでしょ。

実際、早く帰した方がよかったんだ。でも気になる。中であった彼らの一晩の話が。


私たちは人の気持ちよりも好奇心や自分の都合を優先した。よくあることでしょ? 何回間違っても学習しない。判断を間違える。

天秤に乗せるものを誤るんだ。そもそも釣り合うはずもないものを私たちは秤にかけて、より良い「間違った」選択をして満足している。これが正しいと思い込んでいる。


人の心をかえりみずにずかずかと土足で上がって踏み荒らす。なんだ、私たちの方がバケモノじゃないか。

心を読むなんてことができなくても考えることはできる。できるはずなのに、しない。

同じヒトのはずなのに人を化かす。バカにする。人間ってこんな生き物でしたっけ。

私たち、いつからこんなバケモノに化けてしまったんでしょう。

いいや、違うな。人は化けられない。偽ることはできても人という性質を隠すことはできない。

人は間違える生き物だよ。そして繰り返す。そこから学ぶこともできる。別の道を探そうと模索できる。




あなたはずっと見てきたんでしょう?

人は化けない。人は変わる生き物だ。




でも一回目くらいは当たり前に間違えるよ。許してね。

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