第2話-7 My dool

彼らが駆け込んだ先は、あの人形のいた部屋であった。ゲストたちは再びこの場に戻ってきてしまった。

次々と落胆する彼らの目に写ったのは、パーティーの時間にはありもしなかった物たちである。なんと、壁の中にびっしりと異様な箱たちが嵌まっているのだ。

箱は丁度人が納まる大きさである。それは棺だ。

箱の中には二つの人の形をしたものが納まっていた。それは棺桶だ。

一つは人の作った人形だった。その性別は様々だろう。彼らはしっかりと目を見開いて、同じ箱に入るもう一人を抱き締めていた。

もう一つは、もう一人は、かつて血の通った「人」だった。


ゲストたちはその箱の中身を見た瞬間、通路の中での臭いの正体に気がついた。あれは死臭である。生き物の死んだ後の、命が終わった臭いだったのだ。

人を模した物と、人から物にされた者。すぐ隣にあれば違いは明確であった。

「何だよこれ!」「人だ、死んでる!」「いや、いやぁ!」「さっきこんなのなかったじゃない!」「帰りたいよ、おかあさぁん!」「ここから出してくれよ!」

ゲストたちは悲鳴をあげながら床に崩れ落ちた。そして、先頭を行った青年が隅で吐きながらこう言った。


「さっきの道の壁も、これと同じだったんだ。だから、見るなって言ったのに、なんで、なんでこんな」


誰も、まさか一周して戻ってくるとは思わなかった。その道は何処にも通じていなかったのである。

彼らが電灯だと思っていた光は、人形の硝子の目が光に反射していただけなのだ。


中に入れられた人の胸部は動いていない。死んでいるのだ。だが死体としては綺麗過ぎる。ほとんど腐敗しているようには見えないのだ。

生き物は心臓が止まり、血液を体に巡らせられなくなると腐ってくる。特に内臓から腐敗は始まり、食べた物が胃に残っていればそれも当然腐る。それは体温の低下から起こることだ。

死んだ後は単なる肉の塊。適切な処置と対処をすれば長期的な保存が可能になるだろう。防腐剤を投与すれば。臓器を素早く摘出しておけば。ケースの中の温度を低く一定に保てば。

遥か昔でさえミイラというものが作られていた。条件が良ければ、形をほぼ当時のまま残した奇跡の蝋人形という作品もある。

死体を人形として保存することはきっと可能のはずだ。ただそれを人が望んで行わないだけだ。それは人が死んだ後も彼らを「人」として見ているからである。

死んだ人は生き返らない。戻ってこない。だからその命が終わった体を生きていた時の姿のままでいさせてはいけないのだ。死者は帰ってこないのだから。

ではこのケースの中身はなんだというのか。

彼らの性別や年齢、人種は様々だ。どう見ても今この場にいるはずのない風貌の人だっている。時間が経ち過ぎているのだ、彼らは。そしてケースの状態に差がある。

きっとケースの住人となった時期にばらつきがあるのだろう。つまり、この「作業」は。この、人が人形という物にされる作業は。


おそらく、何度も行われている。


パーティーは、人形の嫁とりであり婿とりであった。選ばれた人が殺され、人形と一緒にケースに入れられる。

人形と人が一緒にいられるように、人が加工されているのだ。それならば、二つの人の形をしたものたちはケースの中で対等にいられるだろう。

これが本来の夫婦という形なのだろうか。

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