第2話-6 My dool
その抜け道はトンネルのように暗く、ひたすら下へ向かっているようだった。途中からは小さな電灯が道を照らし、闇はしっとりと遠退いていく。
彼らは何も言わずにただ足だけを動かした。いくつもの靴の音が通路を反響して、次第に眠気を誘った。
時間の感覚も薄れ、もう何時間も歩いているように感じ始めた頃である。先頭を歩いていた青年が声をあげた。
「何だ、これ」
突然足を止めた青年に後続の女性は文句を言った。
「急に止まらないでよ!」
「なんだなんだ」
「おいどうした」
「早く進んで」
何があったのかわからない後方は次々と足を止めていく。薄暗い通路の中では足音ではなく、いくつもの戸惑いの声が上がり始めた。そして、先頭から大声が上がった。
「見るな! 前に、前に光が! 進め! 出口が見える! 前だけ見ろ!」
前だけを見ろという声に疑問は感じただろう。だが出口という単語は全員の視線を前に向かせた。一秒でも早く、彼らはそこから出たかった。
「走れ! 前に、前に進め!」
青年の焦った声が通路に反響した。それに急かされ、彼らは通路の先を目指す。
ほんの少し先には確かに四角い光が見えている。
出口だ。
此所から、この通路から出ることができる。
彼らは両脇の電灯が辛うじて照らしていたものを見ることなく、通路を駆けていった。
それに気づいたのは二人だけだった。
先頭を行く青年はそれを見た瞬間、吐き気が込み上げてきた。今まで感じていた視線の正体と目があってしまった彼は、今この場で吐き出すべきことではないと思い無理矢理飲み込んだ。
最後尾を行く青年は何度も後ろを振り向いた。自分のすぐ後ろをついてくるはずの最後の一人の足音が聞こえない気がする。声さえ、息さえ聞こえない気がする。しかし、青年は確かにこの通路へ入る直前に最後の一人と会話をした。
「先に行くよ」「わかった」
自分の後ろからはもう一人だけやって来るはずである。それなのに、そのもう一人の気配がしないのだ。
青年は何度も振り返り、その度に光る目たちを見た。
それは電灯ではないと気づいた瞬間、青年は先頭の青年と同じように悲鳴と一緒に吐き気を飲み込んだ。
飲み込んだそれらは、飛び込んだ光の先にあった光景を目の前にして、ついに吐き出された。
闇の奥に光る幾対の目たちは逃げ去るゲストを追うことはしない。
何故なら、彼らの隣には既に選び取ったたった一人のパートナーがいるのだから。
それは運命である。
二人が一つの箱に入ったことも、片方が望まなくともその箱へ入れられたことも。
二人の命は運ばれた。運ばれてしまった先が、その一つの箱だった。
ただ、それだけなのだ。
いくつもの中から選ばれた誰かは不運だったのだろうか。
招待状が届き、その場所へ行き、扉を潜ってしまった。それらは全て選んだ誰かの意思である。
誰も悪くはない。全て、なるようにしてなっただけである。
見よ。隣に眠るパートナーを。
同じ箱に入ったパートナーを。
二人がそれぞれ選んだ道の先が、その箱だったのだ。
これは運命である。
だから、不運だったとか不幸だったなんて箱の外から言わないでもらいたい。二人は今、夫婦として箱の中に飾られているのである。
これは、運命だったのだ。
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