ゲンブルグ

@kfn

第1話 異世界ウェスハリア帝国からの召喚

 ここは中世オーストリア=ハンガリー二重帝国。オスマン=トルコ帝国との交戦中である。オーストリアの将軍ゲンブルグ=フォン=ファーレンハイトはトルコからオーストラリアの首都であるウィーンを守ることをあてがわれていた。


 いわゆる世界史の第一次ウィーン包囲という状況である。ゲンブルグは守りに徹していた。この男は守りには定評があった。8戦して8戦負け無しという男である。そのうち5戦は勝っていた。


 オスマン=トルコもしぶとい。ゲンブルグがいなかったら間違い無くウィーンはトルコの手に落ちていた事だろう。


 しかし、トルコとの睨み合いも程なく終わろうとする矢先、ゲンブルグはウィーン市内から消えた。跡形もなく消滅したのだ。オーストリアでは戦死と公表するしかなかった。ゲンブルグはこの世界から消えたのである。


 

 一方、ここは、とある異世界のウェスハリア帝国。何故かここにゲンブルグ=フォン=ファーレンハイトの姿があった。ゲンブルグは思う「ここはどこだ。」と。


 知らない街並み、知らない人々。とにかくウィーンよりは暖かかった。そんな中、突如ゲンブルグは鎧を身に着けた数十人の男に囲まれた。これ程に囲まれては手を挙げるしか方法はない。ゲンブルグは両手をロープで縛られ城らしき巨大な建造物の方向へと歩かされた。

 

 ゲンブルグは城の地下の牢獄へと連れていかれた。そこには先に老人がはいっていた。ゲンブルグも同じ牢獄に入れられた。老人は先にドイツ語であいさつしてきた。「どこの出身だね。私はベルリン出身のオーガスというものだが。」「ウィーン生まれのゲンブルグだ。よろしく。」


 「ドイツ語は久しぶりでな。なかなか舌が回らんぞい。」と老人。「いったいここはどこなんだ。」とゲンブルグ。「ここは異世界のウェスハリア帝国じゃ。まあ、元の世界でいうローマ帝国のようなものじゃ。じゃがこの世界には魔法が存在する。そこがヨーロッパと違う所よ。」


 「魔法?本物か?どんな魔法があるんだ?」「魔法の種類は火、水、風じゃ。お前さんは水の魔力を持っておるぞ。」


 「水の魔法?どんな風に使えるんだ?」「水流、氷結、雪が主な魔法じゃ。水流は水の放水、氷結は水を氷に変え、雪は吹雪を起こす。お前はどれも使える。」


 「どうやって使う?」「手を伸ばして頭にイメージを写すんじゃ。ここで試すんじゃないぞ。大変な事になる。」


 「ご老人、あんたは何が使えるんだ?」「私は全て使える。お前さんももうウェスハリア語を喋れるはずじゃ。」


 ゲンブルグはまさかと思ったがウェスハリア語でしゃべってみる。「爺さん、あんたは一体何者なんだ。」


 老人はウェスハリア語で答える。「わしか、わしはウェスハリア帝国宰相オーガス=アイセンとゆうものじゃ。どうやらウェスハリア語を理解できるようになったみたいじゃな。そなたをウィーンから呼び寄せたのはワシじゃよ。ゲンブルグ=フォン=ファーレンハイト殿。」


 ゲンブルグは一番気になる質問をした。「失礼つかまつった宰相閣下。しかしどうして私をこの世界に呼び寄せたのですか?あなたがいれば帝国は安泰ではないのですか?」これに、宰相は答えた。「このウェスハリア帝国にも、ガタが来ておる。北方からの異民族の進行、スパイの反乱、共和制信奉者の独断行動。枚挙を挙げればキリがない。この帝国を救うには、お前さんのような軍人が必要だったんじゃよ。許してくれゲンブルグ殿。」


 ゲンプルグは考えた。オーストリアには家族もいない。貴族との対立はどこだって同じだ。ここは割り切って新しい戦場に向かうべきだろう、と。この宰相の話では私は高く買われている。やってみて損はないだろう。それに、魔法というのも面白い。特に氷結の魔法というのはかなり使えそうだ。「それで私はまず何をすればいいのですか。」とゲンブルグは宰相に尋ねた。


 「まずは水の魔法を覚えることじゃ。完全に覚えた後、北方民族が南下しようとしている帝国北部の防衛戦に出てもらう。そなたには北方民族の地ロザリアを抑えてもらいたい。」と宰相。ゲンブルグは思った。まるでカエサルのガリア戦記ではないかと。北方民族との闘いも同じだし、侵入してくる異民族という点も同じだ。ゲンブルグは大きな戦いに向けて冷静に勝利をもぎ取ろうとしていた。ゲンブルグは尋ねた。「軍人の内どのくらいが魔法をつかえるのですか?」「1000人いれば1人というところじゃ。それほど多くはない。」とオーガス宰相は言った。


 ゲンブルグは尋ねた。「鉄砲や大砲はどれほど保持しているのですか?」宰相は答えた。「鉄砲も大砲も全く無いのじゃよ。千年前のヨーロッパと思ってもらって構わんよ。」


 それなら、やることは一つ、ガリア戦記をこの世界に再現させればいい。ゲンブルグは宰相に願い出た。「とにかく魔法の訓練がしたいです。」とゆうことで明日から水魔法を練習することになった。こうしてゲンブルグの奇妙な一日は終わりとなった。


 翌日、牢獄で朝食を終えた二人は、衛兵によって城の外に出してもらった。二人は城の近くにある兵士訓練場へ向かった。オーガス宰相は「まずは水を出してみい。」と言った。ゲンブルグは両手を前に出し、水流を頭に思い浮かべた。両手から水流が勢いよく飛び出し壁にあたった。宰相は「威力はワシ以上だ。これなら敵の火流にも風流にも負けまい。次は氷結じゃ。これは水に触れてみんと使えん壁まで行ってみよう。」と二人で壁まで歩くことになった。


 壁の前で宰相は「さあ、濡れている所に手を当ててイメージするんじゃ。」ゲンブルグは宰相のゆうとおり冬のウィーンをイメージした。すると、すぐに氷の壁が出来上がった。「土の壁が固い氷交じりの壁に工兵にとっても有難い代物ですな。」とゲンブルグ。宰相は「最後は吹雪じゃ。これは体験したことがあるじゃろう。簡単じゃ。」とゲンブルグにうながした。ゲンブルグはみごとに吹雪を両手から放って見せた。宰相は「後は練習あるのみじゃ。あと10日は訓練した方がいいぞよ。10日のあいだお主は夜は牢屋暮らしじゃ。なんといってもわが帝国の秘密兵器じゃからな。」そう言って訓練場から去ってしまった。ゲンブルグは一人で真面目に訓練を続けるのだった。

 

 10日がたった。ゲンブルグは魔法のコツをつかみ、より実戦的な訓練を行っていた。特に火の魔法は危険だ、火球、火流、大爆発どれも防がないと大変である。

 この日はオーガス宰相が見学に来ていた。火の魔法に対抗し水の魔法で防ぎまくるゲンブルグを見て「大変よろしい。が、そろそろウェスハリア帝国を守ってもらわんとな。」と一言、言って帰っていった。ゲンブルグがウェスハリアの将軍として決まったのはその日の午後だった。


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