契約結婚~復讐のJK花嫁は契約夫に捕らわれる~

緋村燐

第1話

『婚姻届は出しておいた』


 そんな、なんの情緒もない簡素なメッセージを私・三浦みうら愛実まなみは高校の教室で見つめていた。

 紙切れ一枚で成立する結婚は、思っていた以上にあっさりしたものだった。


 自分で出していれば少しは自覚が持てるのかな?


 なんて思うけれど、この結婚自体契約結婚なのだから大して変わらないだろうと思う。


 それに、これは始まりに過ぎない。

 夫となった湯島ゆしま和希かずきの父、湯島藤二とうじに復讐するための。


 スマホのメッセージから窓の外に視線を向ける。

 外気を受けた窓はその冷たさを示すように端が曇っていた。

 外では白い綿雪が躍るように落ちている。


 三年前、あの日もこんな雪の夜だった。

 雪の中、社員に罵倒されながら頭を下げる父の姿を私はよく覚えている。


 藤二に騙され多大な損失を出した父の会社。

 旧友だった父と藤二は、その親しさから確かな契約書を残しておかなかったらしい。

 騙されたと訴えても証拠がない状態だった。

 結果、父の会社は倒産してしまった。


 そんな父に愛想が尽きた母は、私を連れて離婚した。


 母は愛想が尽きたのだとしても、私は違う。

 人が良くて優しい父は、今でも私にとって大切な父なんだ。


 父を見捨てた母を恨み、父を騙した藤二を恨んだ。


 そんな中、読者モデルとして関わっていた雑誌の撮影のときたまたま和希さんに出会った。

 藤二の息子だと知ってすぐに近付こうと決めた。

 何度か会っているうちに和希さんも藤二のことをよく思っていないことを知り、今回の契約結婚を計画したんだ。



 寒々しい窓から視線をスマホに戻し、私は同じく簡素なメッセージを打ち込む。


『わかった』


 たった一言。

 復讐のスタートとなるその一言を私は無感情に送信した。

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