夢殴り

@trickor

「夢殴り」

 

 私には夢がある。



 朝焼けが薄汚れた窓に反射して私を照らす。足元には行き場を失ったぐちゃぐちゃに丸まった紙。どの原稿にも羽は生えておらず、いつまでたっても飛び立ってはくれない。


 彩る世界には可愛いインコや大きなグリフィンなんかが颯爽と空を駆け巡っているのだが、私はどうやらこっち側の人間らしい。


 この世界は自由だと思った。私の夢を叶えてくれると信じていた。


 幼馴染には引かれ、クラスメイトには馬鹿にされ、大人からは無視された。そんなおかしな夢ですらステッキを一振りすると魔法のように叶うと。


 何度も願った、祈った、縋った。そしてどうしようもないほど期待していたのだ。


 明日には違う日常が待っているのではないかと、来る日も来る日も三畳しかないこの部屋で綴った。


 もう私にはなにもない。あるのは約束された不変の明日と、悲しみのみだ。



「そうだ。どうせ最後だ、この想いを殴ってやろう。文字を書くしか芸がなくて悪いな」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 十日後、自宅で倒れている若い男性が発見された。その姿はまるで死神を連想させるほど、黒い瘴気を纏っていた。そんな彼の脇にひとつ束となった原稿があった。

タイトルにはこう書かれていた。


 『私には夢があった。そして絶望もあった。』

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