ママなんか死んじゃえ。

ツバキ丸

ママなんか死んじゃえ。


昨日の昼間、十二年間私を育ててくれたママが死んだ。


飲酒運転による事故で、トラックが歩道へ突っ込んできたそうだ。

当然、ぶつかったママは即死。今はお葬式の最中だ。


一日置いてもやはり夢心地で、どんな時も一緒にいて励ましてくれた

ママのお葬式なのに、どうやっても何故か泣けなかった。


何故なのだろう。自分自身の鼓動が、ドック、ドックと聞こえる。

緊張しているのか、嬉しいのか、自分でもよく解らないが。


『ママなんか死んじゃえば良いのに!』


コレは、ママと大喧嘩した私が、ママがスーパーへ出かける直前に

言った言葉だ。

今では何故そんな事を言ったのか、私にもわからない。


ただ、ママへ酷い事を言ったという、悪魔の形相をした後悔から逃げ

続ける。

そしてだんだんと、その後悔が私へと迫ってくる。

それでも私は逃げ続ける。ママを殺してしまったという悲しみと罪悪

感の嵐から。


『良い加減認めたらどうだ?お前がママを殺したんだ。いつまでも現

実逃避をするな。』


うるさい、うるさい。

私は逃げる。悪魔の戯言に耳を貸す必要はない。絶対にだ。

そう言い聞かせる。心に蓋をして。


「......... ママ。」


ふと、ママの棺桶を覗く。

丁度、ママとよく行っていた鯛焼き屋さんのカウンターと同じくらい

の高さだ。


前はカウンターが高くて作っている所を見れなかったけど、ようやく

最近背が伸びて見る事ができるようになった。


............ 少し寂しくなった。


『ほらな、後悔があるんじゃないか。まだ間に合う、謝れ。』


黙れ!ママになんて謝るかよ!勉強だってどうでも良い!

だから............ 。

̶̶̶̶ もう、来ないでよ。


ママがスーパーで買った荷物からは、私の大好物のプリンが出てき

た。

潰れてしまっては居るが、私が前からどうしても食べたいと言ってい

た三百円くらいの高いプリンである事がわかる。


「......... 何で。」


私は解らなかった。最期の最期まで。


何故......... ママは私を叱るの......... ?

何で......... ママは私に色々教えるの......... ?


嫌いなら何処か遠くの場所へ置いてくれば良いのに............ 。


『お前のことが大好きだからだよ。どうしようも無いくらいにな。』


私の心に巣食う悪魔はそんな、自分でも分かっていたはずの当たり前

な事を言い出す。分かってる、けど......... 。


何でだろう.........

もう泣いてもどうにもならないと言うのに、無性に涙が溢れてくる。


「ママ、なんっ......... で。」


ずっと泣かなかった私が泣くのを見て、周りの参列者が騒然とする。

「ゴメン、ママ......... 死んじゃえなんて言って............ 」


だんだんとだんだんと心が悪魔に蝕まれていく。

いや、悪魔じゃない。コレは自分自身だ。

私はずっと、自分自身を隠して生きていたのだ。

「何で......... 何でだよぉっ。」


火葬場で赤ん坊のように泣き出す私に、パパは言った。


「梨々子、ママは君のことがずっと大好きだ。パパが断言する。あ

と、ママは悲しい顔した梨々子より、元気で明るい梨々子の方が好き

だと思うよ。だから、元気を出して、梨々子。」


私はこの時、初めてママの気持ちを考えた。

またね、ママ。私はそう言って、ママが天国へ行くのを見届ける。


私の心は、前よりちょっぴり軽くなっていた。


ママ。この声が聞こえていますか。


聞こえていたら是非、私を見守っていてください。

許してもらえないかもしれないけど、頑張って成績も良くします。部

活だってちゃんと行きます。


だからどうか............ 。



大好きなママも、ずっとお空で元気にしていてください。

梨々子より。


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