僕らの家族は多分おかしい

@seikoro

第0話 帰り支度

 久しぶりに家に帰る。何年振りかなんて覚えていないけど、やっと帰れる。

家から遠い場所、それこそ、世界すら超えた場所で僕は星空を見ながら帰る準備をしていた。準備といっても、服を着替えるだけだけど。


 この世界に来たのは、僕が高校2年に進級した日だった。

 誰かに連れてこられたわけでも、突然足元に魔法陣が現れたわけでもない。

歩いていたら、突然見知らぬ街に迷い込んでいた。

 後から、僕を保護した人の話を聞くと、僕は裂け目と呼ばれるものを介して、たまたま、世界をまたいでいたようだ。

 「常人なら消滅してるんだけどね。」

 そう笑っていたその人は、もう一つ、僕の特異性を教えてくれた。

 「不老」

 時空を移動したことにより、体の時間が停滞する現象。

 おかげで、大変な目に沢山あったし、いろんな経験もした。

 出会いも、別れもあったし、救われたり、裏切られたりすることもあった。

 信頼できる仲間もできれば、憎らしい敵もでき、守りたいと思う人もできれば、救えなかったと後悔する人もできた。


 この世界では、本当に、いろんな経験をした。

 おかげで、こうして家に帰る方法が分かった。

 人に嘘だろうと言われるくらいには馬鹿馬鹿しい時間を生きてきて、僕の心はすっかり擦り切れていたけど。

 「家に帰りたい。」

 そう、願い続けて生きてきたから。


 レンガで舗装される道に硬い靴の音がする。

 黒いローファーを履いた男子高校生が、スマホを片手に横を通り過ぎる。

 「ようこそ、僕。」


 そっと呟いて、僕は男子高校生とは反対側を歩く。

 陽炎に揺らめく次元の割れ目に向かって。


 「ここは、どこだ。」

 そう呟く、過去の僕をおいて、僕は僕の世界へ戻った。

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