HOTELMAN

撫川琳太郎

本編

 一週間前に来ていた郵便をようやく開けると、正装が収められていた。極めて端正な作りのケースには、制服上下と、仮の通行証だけが入っていることを確認して、ミール・フィートストロングは首を傾げた。入社式まで時間がなく、つい前日まで大学の引き継ぎ資料と自身が製作した実験機の取扱説明書を書いていたせいで、入社準備がなにも終わっていないというのに、内容物がおかしい。

「私、技術者内定なんだけど‥」

 ミールは皺ひとつないホテルマンの制服をつまみ上げて、大きなため息を付いた。

 仮通行証の字面を眺めてみると、そこには真顔の自分の写真と名前が記載されているため、懐疑心にいっそうの拍車をかける。

 第一、今どき転送郵便で個人情報を送りつけてくる社風がどうかと思うのだが、そんなことを言っても始まらないので、添付されている入社式説明資料を再度眺め、諦めて制服に着替えることにした。ライツマングランドホテル行きの航宙便の時刻が迫っているからだ。

 オーダーメイドサイズのシャツとベストを着込みネクタイをし、スラックスをはいて、何をしているんだろう、とふと思う。

 準備を終わらせ、折りたたみ式ボードを手に取り扉を開ける。集合住宅の8階から階段を駆け下りて、外に出たら電動ボードを展開し、乗り込む。超小型バッテリー式ボードはスムーズな加速を見せ、重力バランサーをいじった介があったなと思いながら、ふと空を見上げる。

 白んだ朝日のその向こうに、大きな円が浮かんでいる。

 そこかしこにある居住衛星を超える、ひときわ目立つその円形衛星こそが、ミールの目的地であった。

「遠いな」

 ぼそっと独りごちる。



 大学時代は、結構すごいやつだったと思う。

 ミールは、誰に言うでもなかったが、心の中でそう振り返る。不遜も謙遜もなく、成果はよく上げていた。義肢義足の制御分野の研究に明け暮れ、学生時代にいくつか賞も取った。機構から制御まで一人でできる者もいなかった。

 しかし、就職活動をするとなって、メーカーも研究所も選ばず、彼女が内定を手に入れたのはあるホテルだった。

 ライツマングランドホテル。

 創業一千年を超える老舗ホテルは、世界でも指折りのリゾートホテルとして有名だった。各国の首脳や著名人が利用するたびにその内容と長大な宿泊日数が取り上げられる。

 就活サイトをだらだらと眺めていたときに、ふとそのホテルが現れたのは今から一年ほど前だ。他有名メーカーや国の研究所が列挙される中、ぽつりと現れたその名前にはミールは驚きを隠せなかった。


 職種:エンジニア

 就業内容:自社システムの整備


 驚くほど曖昧で不可思議なその字面に、ミールがエントリーシートを提出するまでの時間はかからなかった。

 恐らく、ちょっとした燃え尽き症候群だったのかもしれない。今となっては少々の後悔を感じながらも、内定までのスムーズな道のりを思い返すと、騙されているんじゃないのかと思う。

 宙港についたミールは、ボードを畳み、広いエントランスを走る。硬い床に足音を響かせながら、手首に巻いたスマートリングをゲートに通す。

 軽い音がなってミールはゲートを通る。荷物検査は同時にされていた。

 ホテル専用のスペースプレーンまで走り、中通路を抜けると、自身の番号の席を探した。

 席に落ち着いた頃には発進案内が響き渡り、急いでシートベルトを締める。対G用の重力バランサーが作動し、スペースプレーンはゆっくりと動き出した。瞬間的に大きく加速し、円形のレールを上昇していく。最後にはレールから外れ、スペースプレーンは空高く飛び上がった。

 ミールは窓から景色を見つめ、自身の住んでいた辺りを眺める。

 暫くさようなら、地球。

 考えてから、そのセリフの可笑しさに、ミールは苦笑した。



 地球から見上げているのとはサイズが違う。最初の感想はそれだった。ロング上の娯楽衛星は、その圧倒的な存在感でミールを歓迎していた。

 更に驚いたのは、その外観だった。まるで西洋ゴシック建築がそのまま宇宙に上がったかのような、異質だがどこか高揚とするデザインだった。

 見とれている内にスペースプレーンはホテルとのドッキングポートに接続し、通路が開かれたアナウンスとともに職員が案内を始めたので、ミールは未だ落ち着いていない胸を撫で、通路へと歩き出した。

 通路を抜けると、そこは建築物だった。衛星の中など効率重視で無機質なデザインが多い中、レンガ造りの壁というのは強烈に印象に残る。

 しかし触れてみると、それはウォールスクリーンだった。つまり映像だ。賢さに敬意を評しながら、ミールはゆっくりと最後尾を歩いた。



 偉い人の話でも聞かされるのかと思いきや、職員に呼び出されどこかに向かうことになったのは、ミールら新入社員が広大なホールに着いてからすぐのことだった。

 よく分からないまま連れ去られているようで、ミールは不安感を覚える。目の前を歩く、見たところ自分と同じようにホテルマンと思われる人物に声を掛ける。

「あの、これはどこに向かっているんでしょうか」

「今はまだ。向こうについたら分かるよ」

 意味不明な返答に困惑するばかりだった。

 数分歩かされた後たどり着いたのはホテルのロビーだった。通路の扉を開けた瞬間、広大で荘厳な部屋が現れたため、ミールは少々面食らった。よく考えたら、このホテルのことを何も知らないと、今更思った。

「ここがホールね。まだ始業前だから明かりが少ないけど」

 これで少ないのか、と、中央に煌煌と光るシャンデリアを見てミールは思った。

 そのまま高級そうなカーペットに足をつけ、フロントへと向かう。そこにある全てのものが自身が一生かかっても購入できないようなものではないかと思わせるには十分な出来だったが、その一つである扉を先輩社員は躊躇なく開けた。

 フロントの奥へと続いている廊下は直線で、奥にも扉があった。

 壁に写されている絵画をキョロキョロと眺めていると、先輩社員はふと立ち止まったようでぶつかりそうになった。

「今までもなんだけど、どちらかというとここから先が、あなたの職場ね」

 急に目を見て話すため、ミールは少々動じた。そして、その意味を理解しようとするも、その前に先輩社員は扉を開けた。

 中は、やたらと暗く狭い空間だった。中央にコンピュータと思しきものがいくつか配置されており、その周辺は機械のガラクタだらけだった。臭くもなければ埃っぽいわけでもないものの、今までとの雰囲気の違いには驚くばかりだった。

「ゲイシーさん、います?」

 先輩社員が声を掛けると、しわがれた声が返答して、パソコンの裏から作業服を着た男が現れれた。

「おぉ、あんたが新入社員か」

 先輩社員を振り返ると、笑顔で紹介を始めた。

「ゲイシーさん、ここの整備長をやってます」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 とりあえず挨拶をするものの、分からないことだらけだ。どうして整備長なんかがここにいるのだ。いや、確かに技術職員で採用されたんだけれども。

「ビームはいます?」

「おぉ、ついさっき帰ってきたとこだ」

 こっちだ、とゲイシーなる男が案内したのは、室内に設けられたもう一つの部屋だった。窓からは明かりが差し込んでいる。扉を開けると、ロビーと変わらない荘厳さの客間がそこにはあった。机と、それを挟むようにソファが敷かれている。

 そこに、一人の青年が座っていた。

 こちらを見ると、すっくと立ち上がる。身長はミールよりも幾分も高い。髪は綺麗に整えられており、何よりもその端正な顔立ちで、ミールに微笑んだ。

「新入社員のミール・フィートストロングさんですね。私は、ビーム・フライヤーと申します。これから宜しくお願い致します」

 お手本のようなお辞儀を見せられ、ミールはあたふたとしながらも、その日本人的な挨拶を自分も真似た。



「基本的には、朝の7時に始業です。このフロントに待機して、ゲートからいらっしゃるお客様のご対応をします。その後、お部屋までご案内します。先程送付した資料の12ページを見てください。このホテルは、円の角度を三等分してフロア分けがされておりまして、私達の職場はこのセカンドフロア、通称インディビジュアルフロアになります。ページを2回めくりますと、セカンドフロアのマップが表示されます。そう、それです。セカンドフロアの特徴は、インディビジュアルともあるように、全個室オーダーメイド型であることです。事前のご希望と、当日の状況を加味してお客様に最適なお部屋をご提供いたします。勿論お部屋のサイズ、構成も逐次変更されます。そのため、いくつもの個室がその時々で入り組んでおりまして、把握は大変難しいです。我々向けにマップの情報は逐次更新されますので、このあとお渡しするセキュアコンタクトレンズをつけてご確認下さい。万一、お客様の情報が外部に漏れてはいけませんので、今見ているディスプレイには一切お部屋の情報は記載されません。それでは一日の流れに戻りますね。ご案内した後はフロントに戻りまして、何かあるまで待機となります。また、お食事や、ホテル各所へのご案内など、総括的な業務を求められますが、ホテルマンロボットもいますので我々の仕事は思うほど多くありません。では次に、このホテル内の各所説明とそこでの業務内容へと入ります。まず―」

 そこまで聞いて、スマートリングの空間ディスプレイに表示しているマップから目を離し、ミールは話している男を見上げた。

「あの、一日の流れは、これだけですか?」

 尋ねると、ビーム・フライヤーは目をパチクリさせて、ミールを見やった。

「はい、これだけになります。何かご質問がございますか?」

「あの、私、このホテルに技術職員として採用されたはずなんです」

 そこまで言うと、ビーム・フライヤーはようやく合点がいったのか、あぁ、と最初に述べて、

「大丈夫です。それはそのとき、またお話いたしますので」

 それだけ言うと、ホテル内の説明へと舞い戻った。

 最初の先輩社員は、ビーム・フライヤーとの自己紹介が終わるとそそくさと立ち去っていった。ビーム・フライヤーはゲイシー曰く直属の上司で相棒とのことで、まずは業務内容の確認と題してフロントまで戻り、今に至る。

「まずは実際に向かうのが良いですね、駅までいきましょう」

「駅?ですか?」

 言われるままついていくと、フロントの隣りにある大きな扉を開け、中へと入っていく。

 右手には通路が続いていたが、特筆すべきは左手だった。

 青々とした惑星が、そこにはあった。

「今はウォールスクリーンに外観の景色を写しています。勿論お客様に応じて映像は変更されます」

 ミールは説明を真剣に聞いていなかった。ただ、その美しさにやられていた。

 見入っていると、どこからか音がした。

「もうすぐですね」

 そうビームが呟いたのも束の間、地球とミールとの間に、細長い物体が侵入してきた。

 静かな音を立て停止する。リニアレールだった。外観は、古めかしい西洋の電車とでも言うような具合だった。

「乗り込んでいきましょう、何せ長いので」

 貸し切り状態の車内に乗り込む。木目調で、穏やかでしかし荘厳な雰囲気のある車内であった。

 扉が閉まると、ゆっくりとリニアは走り出した。

「お客様をお待たせせず、かつ他のお客様と交わらないように、社内AIによる最適化を実現しています。詳細は私も分かりませんが」

 驚くほどスムーズに、フロアの端までたどり着く。

 降りた先の通路を抜けると、中には和室が広がっていた。

「えぇ‥」

 驚くことにも疲れている。畳敷きの室内は今立っている部屋だけでも三十畳近くあり、奥を覗くとまだ様々な部屋が待ち受けている。更に特筆すべきは障子の向こう側の景色だった。

 庭園が見渡す限り広がり、草木が生き生きと生い茂っていた。緩やかな坂が続いており、ご丁寧に道まで舗装されている。奥には旧日本的な建築物もいくつか建っている。一体何平方キロメートルを占めているのか、考えるのも馬鹿馬鹿しかった。

「明日いらっしゃるお客様が旧日本の庭園をご希望でしたので、専用に改修しております」

「これを毎回やるわけですか」

「小さな町並みを製作したこともあります。最先端のロボティクス技術がなし得る成果ですね」

 驚きとともに、ようやくミールは納得した。確かに、現在主流のシーケンス技術の粋を集めればこれくらいは可能だろう。驚いたのは、そうしてまで客におもてなしをする精神に、である。

 恐らく、自分の仕事はこれなのではないかと思った。同時に、自分はここまでの覚悟を持てるだろうかと、地平線―というのは本来おかしいが―まで続く庭園を見やりながらミールは呆然とした。



 ロビーまでのリニアに乗り込み、ミールは一人ソファに座り込んだ。何故ライツマングランドホテルが世界有数であるのか、その意味をようやく感じ入るに至った。景色が移ろうたび、ロビーに近づくたびに、あのフロントに立っているだけでさえも、自分はおこがましいのではないか、そう思うようになった。利用客も大半が政府の要人か著名人、金を持て余した富豪だと考えると、より一層疎外感を感じる。ふと、自分はなぜここにいるのだろうかと、再三繰り返していた事柄を思い出す。

 小さい頃、アニメーションに出てきたヒーローに憧れた。そのヒーローは全身を機械で包み、弱きを助け強きをくじく、崇敬を集める存在だった。そこから機械に興味を持ち、大学では義肢義足の研究開発をしている研究室に入った。自分の作ったものが、人の役に立てば、それ以上に嬉しいことはなかった。

 しかし、疲れてしまった。

 もうあの頃の、熱中していた頃には、戻れそうもなかった。

 だから、この会社を選んだ。

 自分の得意は活かせて、でもあんまりしたくない。

 だから内心、関係ない仕事でも良いやと思っていた自分がいた。しかし現実はそうはいかない。

 柔らかなソファに、ミールは沈み込む。

 重くのしかかる現実は、ミールを地球に落とそうとしているかのようだった。

「不安ですか?」

 上から声がして、そちらを振り向く。

 ビーム・フライヤーが、笑顔で話しかけていた。

「そうですね、これは大変だ、と思いました」

 少々言葉を選び、強がってみる。

「ここはお客様への最大級のおもてなしを求められますからね。最大級の接客とは何か、私も考えるときがあります」

 目を逸らして、宙を見つめる。

「そうですね」

 しかし、ビーム・フライヤーはその機微に気づいたようだった。

「不安感は、接客からくるものではないのですか?」

 ミールは目を見開く。

「えっと、シーケンス制御の方です。あれです」

 暫く、無言が続いた。

 ロビーまでもうすぐ、となったときに、ビームは声を上げた。

「説明不足ですみません、宿泊創造の件については我々は関与いたしません」

 えっ、となって声を張り上げる。

「じゃあ、技術職って、何なんですか?」

「それは―」

 続きを言おうとした瞬間、ビームは耳元に視線を向けた。

 今までの笑顔は消えていて、険しい表情をしている。

「はい。はい、了解です。向かいます」

 それだけ言うと、ビームはミールに向かって早口で話す。

「緊急発令です。リニアが着き次第、ゲイシーさんがいらっしゃいますので、そのまま彼について行って下さい」

 ビームは地球側の扉へと向かいながらそう述べる。

「え?どういうことですか?」

「技術職について、先程そうおっしゃいましたよね」

 ビームはミールの方へ振り返ると、笑顔で言う。

「これから、分かるかと思います。それでは」

 それだけ述べて、ビームは左腕につけているスマートリングに指をつけた。

「緊急発令。ホテルマン、起動」

 その言葉とともに、スマートリングから光が漏れ出し、真正面に何かを出現させる。

 機械仕掛けの、スーツだった。

 ビームは飛び上がると、制服の各部が点滅を始め、重力バランサーの働きにより浮かび上がりスーツと各部の位置を合わせる。

 そして、完了するとスーツはビームめがけて突っ込んだ。

 鈍い機械音とともに、全身が包まれていく。

 白黒を貴重とした、端正なデザイン。全体をマットな質感が支配する。

 宙から地面に立ったその姿は、紛れもなく、あの頃見ていたアニメのヒーローのようだった。

「後のことを、宜しくお願い致します」

 それだけ言うと、ビームは高速移動中のリニアから飛び出して、頭から落ちていった。

「ええ!」

 そこまで駆け寄るも、扉はすぐに締まり、びくともしなかった。

「ど、ど、どういうこと!?」

 動転した気が収まらない。

 リニアは次第に速度を緩め、フロントへの駅にたどり着いた。

 呆然としながら降りると、ビームの言葉通りゲイシーが息巻いて立っていた。

「おい、さっさと部屋戻るぞ」

 焦っているような姿に何も聞くこともできず、走ってフロントの奥へと進む。

 扉を開け、薄暗い部屋へと戻ると、コンピュータが並ぶ場所の中央に大きな空間ディスプレイが表示されていた。

 そこには、宇宙空間が表示されていた。映像が目まぐるしく動く。

「ビームの視覚映像だ」

 ゲイシーはそれだけ述べるとコンピュータを弄り始める。手元のディスプレイに先ほどとは異なる映像を表示させた。

「ビーム、目標は三番電力接続路二ブロック地球面側に張り付いている!物は構えたままだ!客様到着まであと二分三十秒!」

「了解です!」

 乱れたビームの声が響く。

「何がどういうことなんですか!」

 たまらずミールが口を開く。

 ゲイシーは先ほど出したディスプレイに指を指す。

 それは、監視カメラの映像のようだった。宇宙空間からホテルのある場所を写している。

「ここを見ろ」

 そう言って拡大した映像には、ホテルの壁に何かが張り付いている姿が映し出された。

 それが銃器を手に持ったロボットであることを理解するのに、時間はかからなかった。

「数刻前、管制室から不自然な軌道のデブリがあると通告を受けた。ホテルとの最接近ポイントを見てみたら、この通りだ。ご丁寧にどこかの衛星のパネルに張り付いてここまで移動してきたらしい」

「そんなことまでして何を?」

「まぁ平たく言えば暗殺だろうな」

 随分素っ気なく言われたため、意味を理解するのに時間がかかった。

「暗殺!?」

「こいつの構えている方向、セカンドフロアのファーストキャビンポートだ。今日ここには朝七時から某国総和党のトップであるグラハム・ダグラスが来る。今民自党と過激な大統領争いをしてるお方だ。民自党過激派が動いたと見て良いだろうな」

 次から次へと情報が流れ込んでくる。

 同時に、今までの事柄が腑に落ちてくる。

「こんなことが、起きるなんて」

「しょっちゅうだよ、大なり小なり、こんなことは良くあることさ。そのために、俺達がいる。ここは、要人の客様を史上最高に安全なリゾートへと提供する場所だからな」

「じゃあ、私達の仕事って」

「あぁ、お客様に最大級のおもてなしを、することだ」

 意味が違いすぎる。でも、納得してしまう。

「まだこちらに気づいていません、行きます」

 コンピュータから声がして、ゲイシーが焦りを見せる。

「落ち着け、ビーム!」

 しかし、ディスプレイには、高速で移動する景色が映し出されていた。

 途端に、ロボットがこちらに銃を向ける。

「ビーム!」

 光とともに、景色が急速に入れ替わる。ビーム・フライヤーは、あの銃弾を避けているのだ。

 そして、ロボットの顔が見える距離まで近づいて、最後の銃弾を回避すると、右手を振り上げロボットの顔面へと振り下ろした。

 鈍い音とともに、ロボットの顔面はひしゃげて、機能を停止した。

「状況終了しました。各部警戒に移ります」

「了解。状況終了、各部警戒に移る。繰り返す、状況終了」

 ゲイシーがどこかと通信をしている。多分管制室だろう。しかし、そんなことを考える余裕もなかった。

 全てが腑に落ちた。

 同時に、呆然としていた。

 しかし、胸の内に何かを感じて、ミールは手を添えた。

「おし、ひとまず安心だな」

 ゲイシーが振り返る。

「どうした、お前さん」

 ミールは、真っ直ぐにゲイシーを見つめて、口を開いた。

 そして、今日何度目かわからない疑問をぶつけた。

「私の仕事って、なんでしょうか?」

 ゲイシーは、笑って答えた。

「通常業務はフロント接客。しかし緊急発令時は、客様を守る汎用業務。お前の仕事は、スーツのメンテと機能整備。俺がフロアの整備長、そしてビームがスーツを着装して業務に当たる。それが俺達、ホテルマンの仕事だ」

 その突飛な仕事内容は、今まで見たどの仕事よりも輝いて見えた。ミールは、胸の内に熱い何かを感じて、笑顔で返事をした。

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