第25話 隠されていた秘密
「えっ……き、君が三津山さんのお嬢さん……?」
父は信じられない様子で顔を青ざめさせていた。
まあ気付けなかったのも無理はない。
制服姿の美鞠と部屋着の美鞠はほぼ別人だ。
母は『本当なの?』という顔で俺を見ている。
「突然蒼斗くんを捨てて夜逃げして、利用価値がありそうだと思ったら擦り寄ってくる……あなた達はどこまでクズなんですか?」
声のトーンが低く、声色は怒りで震えている。
美鞠が本気でキレたときはこんな風になるんだ……
怖くて美鞠の方に目を向けられなかった。
「利用価値だなんて……私たちは息子が心配だから会いに来たのよ?」
母は作り笑いを浮かべたつもりなのだろうが、顔が引き攣っているようにしか見えない。
「わざわざ一緒に下校しているのが誰なのか確認してからやって来てそんなこと言われても説得力ありませんね」
美鞠は草をはやしたように笑う。
「そ、それはたまたまで……」
父は助けを求めるように俺に視線を送ってきた。
「ほら、どうした? あんたら美鞠から金が引き出せないかって悩んでたんだろ? 俺なんか介さず直接金の無心をしてみろよ」
「おい、蒼斗。親に対してそんな言い方して」
「親? もうあんたらなんて親だと思ってない。いつまでも保護者ヅラすんな」
不快すぎて俺も草が生えた。
「我々は危険な奴らに追われている。このままにしておけば蒼斗にだって被害が及ぶかもしれないんだ」
「なんですか、それ? 弱者の脅迫ってやつですか? 生で聞くのは初めてです」
父はギリッと歯を食いしばり、苛立ちを露わにする。
「私はあなたを蒼斗の彼女だなんて認めない。そんな人を馬鹿にしたような態度、許されると思ってるの!」
今更取り繕ってもへりくだっても埒が明かないと思ったのか、母は作戦を変えて怒り始めた。
直情型で激しやすい父に比べ、母は狡猾で悪知恵が働く。
だがいまの俺には関係ない。
「あんたらなんかに認めてもらう必要なんてない」
「あるわ。私たちは親だもの。縁を切ったなんて勝手に言っても、蒼斗をここまで育てたのは私たち。親は親なのよ」
母は涙を流して訴える。
クソみたいな奴らだが、さすがに泣かれると少し胸が痛んだ。
「演技をして情に訴えないでください。これ以上蒼斗くんを傷つけたら、本当に許しませんよ?」
美鞠が睨みつけると、母は涙をスッと引っ込めて忌々しげに美鞠を睨んだ。
嘘泣きだったのかよ。
金のためなら何でもするその態度に吐き気すら催す。
「……今日のところは帰る。落ち着いて後日話し合おう」
父が逃げるように腰を浮かす。
「いいえ。あなたたちは二度と蒼斗くんの前に現れないでください。もしまた来たら、どんな手を使ってでもあなた方を拘束し、お金を借りてる金融機関の人に差し出します」
美鞠は鋭い眼光で二人を睨む。
「今度と言わず、俺が今すぐ借金取りに引き渡してやるよ」
俺ばかりか美鞠にまで迷惑をかけようとしていた態度が許せず、俺は腐った元親を睨みつける。
「親になんてこと言うの、蒼斗っ」
「あんたらなんて親だと思ったことはない」
「俺だってお前が息子だなんて思ったことないっ、この疫病神め」
父はそう吐き捨てて俺を睨む。
「ちょっと待ってください。なんですか、今のは」
美鞠は眼光鋭く、父を視線で射抜いた。
「な、なんのことだ?」
「いまあなた、『お前を息子だと思ったことなんてない』って言いましたよね?」
「そ、それは売り言葉に買い言葉というか……」
明らかに父は動揺していた。
その隣で母は父を責めるような視線を向けている。
「それにしてもおかしいです。普通こういう場面では『勘当だ』とか言うんじゃないですか? 『お前を息子だと思ったことなんてない』なんて、不自然過ぎます」
言われてみれば確かに違和感がある。
「俺は難しい言葉はよく分からないから……」
父は汗を滲ませながら、狼狽えていた。
あからさまに何かを隠している。
「隠していることがありますね。正直に話してください。さもなければ本当に今すぐあなた方を金融機関の人に差し出しますよ。それくらい、簡単にできます」
身動きをせずに固まる父を見て、美鞠はスマホを取り出し、どこかに電話をかけようとした。
「ちょ、ちょっと待て。話す。話すからっ」
父は泣きそうな顔になり、浮かしかけていた腰を椅子に下ろす。
その隣で母は苛ついたようにそっぽを向いていた。
なにかとんでもない話が始まる。
そう確信して、俺も緊張で体が強張った。
「実は蒼斗は俺たちの子どもじゃない。赤ん坊の頃、引き取った子どもなんだ──」
「蒼斗は私の妹の息子よ」
父の言葉を遮るように母が話し始める。
衝撃的な話を聞き、俺の心臓はドクンッと大きく震えた。
「蒼斗くんが……養子……」
驚きの展開に美鞠も目を見開き驚いていた。
俺達の反応を見て、母は、いや養母は疲れた笑みを浮かべる。
「蒼斗がまだ一歳になる前、妹とその夫は暴走する車にはねられて事故で亡くなったの。妹が身を挺して庇ったから、奇跡的に蒼斗は無事だった」
「そんなっ……」
俺の心臓はこれまで感じたことないほど、早鐘を打つ。
もし立っていたら目眩で転んでいたかもしれない。
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