人生詰んだ俺がクラスのアイドルに拾われたんだが、思っていたのとなんか違う件
鹿ノ倉いるか
第1話 捨てる親あれば、拾う天使あり
「あー……人生詰んだなー……」
俺、
『借金ヤバいから逃げる。蒼斗も逃げろ。この家は危険』
学校から帰るとそんな置き手紙一枚置いて、クソ親は夫婦揃って消えていた。
もちろん家の中に、お金は一円もなかった。
てか俺の数百円しか入ってない貯金箱まで持っていくなよ。
親以前に人として終わってる……
当分の着替えと教科書を詰めた鞄を枕にし、公園のベンチでゴロンと仰向けになる。
貯金もない、頼れる親戚もいない、高校の学費も払えない。
そもそも今夜寝る場所すらない。
昼は温かな春とはいえ、夜になればそれなりに寒い。
どこで寝るかな……
橋の下か?
公園のジャンボ遊具の中か?
思い切って学校に忍び込んで寝るか?
「マジで人生終わったわー……ははは」
悲しさなど通り越して笑えてくる。
まあ、あのクソ親と縁が切れたことは清々したな。
「積田くん、人生終わったんですか?」
いきなり視界にニュッと美少女が現れた。
「うわっ!?」
びっくりして思わずベンチから転げ落ちる。
弾みで水道水を入れていたペットボトルをこぼしてしまい、シャツが濡れてしまう。
濡れたシャツがべったりと張り付き、肌が透けて恥ずかしい。
「わ、大丈夫ですか? 驚かせてしまい、すいません」
「み、
よく見れば美少女の正体はクラスメイトの三津山
怒ることが出来るのかというくらい柔和な顔立ちが特徴的な、黒髪の美少女である。
しかも超大金持ちのお嬢様で、性格も明るくて穏やかという完璧ぶりだ。
ついでに言えば胸もデカい。
おっとりした顔に不釣り合いなくらいの、弾むような双丘に、そちらが『美鞠本体』とか言う馬鹿な男子もいるほどだ。
もっと馬鹿な男子は『美鞠とは美しい鞠のようなおっぱいという意味で名付けた』と力説している。
赤ん坊の頃からデカいわけないだろ。
「あー、びっくりした。脅かすなよ」
「積田くん、なんか大変な状況なんでしょうか?」
「別に。なんでもないから」
いまは誰とも会いたくない。
カバンを持って三津山に背を向けて歩き出す。
「あ、なんか落としましたよ」
三津山が屈んでクソ親の置き手紙を拾ってしまった。
「うわっ、ちょっと待て。それは──」
慌てて取り返したが、短い文なので読まれてしまったようだ。
三津山は驚いた顔をして俺を見ている。
最悪だ……
「……三津山、このことは誰にも言わないでくれよ」
気まずいからさっさと立ち去ろうとしたとき──
「あのっ!」
「なに?」
「今夜、泊まるところあるんですか?」
「それは……まあ、なんとかなるだろ」
「よ、よかったら、その、うちに泊まりませんか?」
三津山は顔を赤くし、震えながらそう言った。
「は? いやいや……家族いるだろ」
「それは大丈夫です。一人暮らしなんで」
「へ? 三津山って一人暮らしなの?」
「はい。だから心配ありません。さあ行きましょう」
そう言うと三津山はスタスタと歩き始めてしまう。
いやいやいや……
一人暮らしなら、それはそれで問題だろ!?
「おい、ちょっと、三津山」
「心配いりませんよ。ここから近いんで」
「いや、距離とか気にしてるんじゃなくて」
「あ、お金なんて取りませんから安心して下さい」
なんかちょっと会話が噛み合わない。
三津山ってこんなズレた奴なんだ?
あんまり会話したことないから知らなかった。
「そういう心配でもなくて……いきなり泊めてもらうとか、色々まずいだろ」
「気を遣ってくださってるんですね。ありがとうございます。でも平気なので」
この子は思考がちょっとバグっているのか?
あまり親しくもないクラスメイトの男子を泊めるとか、正気の沙汰じゃないぞ……
「あ、そうだ!」
三津山はポンッと手を鳴らす。
ついでに胸も揺れる。
「どうしても気が引けるというなら、家事を手伝って下さい。一人暮らしを始めたばかりなので、色々と不慣れなもので」
「それくらい構わないけど……」
「本当ですか? 助かります!」
三津山はにっこり微笑んで俺を見る。
あまりに天真爛漫な笑顔に思わずドキッとしてしまった。
まあ、今夜過ごすところをこれから探すのも大変だから助かったかな。
取り敢えず今日だけは甘えてみるか……
「ここです」
「え? ここ!?」
三津山が指さしたのは、高級感溢れる低層マンションだ。
敷地内に木々を植えられており、屋上にも緑が生い茂っている。
閑静なこの辺りに相応しい、自然と融合した緑の美しいマンションだった。
「こんなところに一人で暮らしてるのかよ……」
「ちょっと散らかってて恥ずかしいんですけど……あ、ちょっと待っててくださいね」
俺をエントランスに置いて三津山が走っていってしまった。
親が俺を置いて夜逃げして、クラスメイトの美少女に拾われ、一人暮らしをするという超高級マンションに案内される……
一日の間にいろんなこと起き過ぎだろ。
混乱した頭を整理していると三津山が戻ってきた。
「お待たせしましたー」
「へ?」
三津山は緑色のダサいジャージに着替えていた。
しかもデカい眼鏡をかけ、髪を一つ括りにしている。
てか、本当に三津山か……?
制服姿の彼女と同一人物に思えない。
「部屋着に着替えてきました」
「お、おう……」
部屋を片付けに行ったのかと思ったが、単に着替えたかっただけらしい。
眼鏡をかけたダサい女の子がお洒落したら美少女ってなんか『あるある』だけど、その逆って珍しくないか?
三津山の家は一階の東端の部屋だった。
「どうぞー」
「お邪魔します……って、ええっ!?」
玄関には一人暮らしと思えないくらい靴が散乱しており、廊下には荷解きしてない段ボールが積まれている。
「足元、気をつけてくださいね」
「言われなくても最大限気をつけてる」
物が散乱した廊下を進みリビングに行くと、畳んでない洗濯物がソファーを占領しており、雑誌や漫画が床のあちこちに散らかっていた。
「ちょっと散らかってまして……」
「ちょっとじゃないだろ!? なんでこんなに汚いんだよ!」
「ちゃんとゴミは捨ててますから衛生的な問題はありません。汚いのではなく、散らかってるだけです」
なんでそんなに自信ある顔ができるんだ、三津山……
学校一の完璧美少女と呼ばれる三津山美鞠のイメージが音を立てて崩れていく。
「はぁ……とりあえず掃除するか」
「えー? その前にご飯にしましょう。お腹空きました」
「そ、そうか……」
なんだか性格までズボラな感じになってきた。
家ではこんな感じなのだろうか?
「美味しい冷食を買ったんです。一緒に食べましょう!」
「冷食?」
ゴミ箱を見ると、冷凍食品の空き袋が大量に詰め込まれていた。
「ちょっと待て、三津山。毎日冷食を食べてるのか?」
「そうですけど? あ、たまには外食もしますよ」
「マジかよ……」
次から次と残念な事実が明らかになる。
がっかりのマトリョーシカだ。
冷蔵庫を確認すると冷凍の挽き肉やウインナー、野菜などがあった。
「俺が料理を作るからその間に三津山は掃除をしておいてくれ」
「え? 積田くん、料理できるんですか?」
「ああ、まぁな」
「やった! じゃあお願いします」
三津山はお腹が空いているらしいので、ササッと出来るものがいいだろう。
とりあえず野菜やきのこを鍋に放り込み、解凍した挽き肉で肉団子を作る。
「調味料はやたらあれこれ揃ってるんだな」
一人暮らしをはじめたばかりの人は、たまには妙にへんてこな調味料を買い集めてしまうと聞いたことがあるが、まさにそれだ。
全然使った形跡はないけれど。
「おーい、三津山。出来たぞ」
「え、もうですか!? わぁ、お鍋だ! すごい!」
三津山はエサの時間の犬のように駆け寄ってくる。
「余り物で作った肉団子鍋だから、味はそんなに期待するなよ」
「いただきまーす! うわっ、美味しいっ!」
三津山は目を丸くして驚く。
「そうか。よかったよ」
「積田くんってすごい料理上手なんですね!」
「大げさだな。まあ親がろくに作らないせいで、ほぼ毎日俺が作っていたからな」
「すごいですよ。プロみたい!」
「そんなに慌てて食べるなよ。喉詰まるぞ」
三津山は一心不乱に食べている。
これも学校では見られない姿だ。
以前彼女が昼食を食べているのを見たことがあるが、もっと小さな口でゆっくり食べていたはずだ。
まあ、これはがっかりじゃなくて嬉しい発見かな。
「積田くん、今夜だけと言わずずっとここに住んでくれませんか」
「はあ!? 無理に決まってるだろ」
「だってこんな美味しい料理が毎日食べられるなんて夢のようです! お願いします!」
「そこまで迷惑かけられない」
「迷惑じゃないです。私は美味しい料理が食べられる。積田くんは住む家がある。お互いに得しかありません。なんの問題もありませんよ」
「いや、問題あるだろ……」
高校生のクラスメイトの男女がひとつ屋根の下で暮らすって大問題だろ。
やはり三津山の思考回路はバグっている。
まさかここから三津山との共同生活が始まるなんて、このときの俺は夢にも思っていなかった。
これは家事得意男子の俺と、残念系美少女三津山の騒がしくて、愉快で、ちょっとじれったくて、ときにドキッとしてしまう物語である。
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ご無沙汰しております!
久々の新作をアップしました!
小説は書いているのですが、なかなかアップすることができずに失礼しました。
明るく楽しくワクワクする作品にしていきたいと思います!
面白いな、続きが読みたいなと思っていただけたら★評価してもらえたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします!
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