第50話 両親たちの絶望(※sideダリウス)
ディンズモア公爵家の居間に集められた互いの両親たちはすでに最初から不機嫌を露わにして俺たち二人を睨みつけていた。
「…一体何だというんだ、ダリウス。今がどういう時か分かっているのか。両家で悠長に話などしている場合ではないのだぞ」
父がそう言うと、アレイナの母親であるフィールズ公爵夫人がすぐさま口を開いた。
「ええ、本当にそうですわ。今うちはかつてない深刻な状況に陥っているのよ。ミリーの失態のせいで王家からは莫大な慰謝料請求が来るでしょうし、ジェニング侯爵家にも慰謝料を…」
「そちらの方はもう両家で協力しあってどうにか片付けるしかないだろう。そうですな?ディンズモア公爵」
フィールズ公爵がそう言って父の方をジロリと見ると、俺の父は奥歯にものの挟まったような言い回しで返事をする。
「……まぁ……、多額の負担であることは間違いありませんからな…。どうにか家のためにも良い方法を見つけねば…。…共倒れというわけにも、いきませんからな…」
(…父はやはりもうフィールズ公爵家と関わりたくないのだろう。アレイナと俺との縁談を解消したいのがありありと見てとれる)
「……それはつまり、どういうことですかな?ディンズモア公爵。風の噂によると、あなたや奥方が他の伯爵家や子爵家にご子息との縁談をまとめようとかけ合っていると聞きましたが……。まさか今さら我が家を裏切ろうとしてはおりますまいな」
フィールズ公爵夫妻が揃ってうちの両親を睨みつける。場の空気はこの上なくギスギスしていた。
しかしそこで、うちの両親が返事をするより早く俺の隣にいたアレイナが口を開いた。
「まぁっ、お父様ったらお
「……。…………は……?!」
「な…………っ、何だと?!」
予定通りのアレイナの言葉に、互いの両親たちは一斉に目を見開いた。母が立ち上がり大きな声を出す。
「ご、ご冗談はお止しになって、アレイナさん。…嘘なんでしょう?あなた……一体何を…」
「本当ですわ、ディンズモア公爵夫人。あと半年で産まれますの。私は学園を退学しますわ。そしてダリウス様の卒業後のお仕事をサポートするために、ディンズモア公爵領の経営についての勉強を始めます」
「……は……?」
部屋の中は水を打ったように静まり返った。俺は改めてアレイナを見つめる。この日のためにできるだけ多くの食事を摂り続けると言っていた彼女は、今日は幾分かふっくらしては見える。妊婦を装うためだ。ウエスト周りにはさらに何かの詰め物をしているのだろう、わずかだが信憑性がある程度には大きくなっている。
「……み、見え透いた嘘は止めなさい、アレイナ。いくら何でも…」
口を開いたのはフィールズ公爵だった。
「本当よ、お父様。月のものが来なくなって、気分が優れない日も続いて…、不安だったから私、内密にお医者様に診てもらったの。そしたらすでに4ヶ月目に」
「ど…っ、どこのお医者なの?!アレイナ。まさか、セバーグ先生に?!私たちには何の報告も来ていないわ」
セバーグ医師というのはティナレイン王国で最も高名な初老の医師だ。多くの高位貴族が信頼を置いており、うちも度々世話になっている。
「いいえ、違うわ。学園で友人に紹介してもらった別のお医者様よ」
「なぜわざわざ別の人に…?とにかく、もしもそれが本当だとあなたが言い張るのなら、明日にでもセバーグ先生に来てもらって診察を受けてちょうだい」
フィールズ公爵夫人が青ざめた顔でそう言うと、アレイナはすぐさま反発した。
「嫌よ!私あの先生には診てもらいたくないの」
「…なぜだ、アレイナ」
「そうよ。セバーグ先生に診せられない理由は何なの?」
「……。……ここでは……とても言いづらい理由よ……」
アレイナは小さな声でそう答えると、悲しげに睫毛をそっと伏せた。
「……いや、分からないな、アレイナ嬢。ぜひきちんとした先生に診てもらって欲しい。でないと我々も納得できない。……ダリウス、お前はどうなんだ。身に覚えがあるのか?!え?!」
フィールズ公爵夫人以上に真っ青な顔をした父が俺を睨みつける。…恐ろしいが、ここで逃げるわけにはいかない。こうなった以上、俺もアレイナと共に戦って真実の愛を貫かなくては。
「…はい、あります、父上。フィールズ公爵、夫人、誠に申し訳ございません」
「…………ぁ……あぁぁ……」
俺が頭を垂れると、俺の母は呻くような声を上げ、そのまま倒れてしまった。
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